検証・裁判員制度:判決100件を超えて/5 理由示さず不選任請求

2009-12-24 | 裁判員裁判/被害者参加/強制起訴
検証・裁判員制度:判決100件を超えて/5 理由示さず不選任請求
 ◇見かけ、態度で判断 「国民の広い見識反映」影響も
 9月8日、さいたま地裁の裁判員選任手続き室に候補者45人が集まった。強盗致傷罪に問われたフィリピン国籍の男性被告(20)の弁護人2人は裁判員選任の方針について事前に「被告の母親世代の40~50歳くらいの女性に残ってもらいたい」と確認していた。情状を酌んでもらえる可能性に期待したためだ。
 弁護人は候補者のうち4人を裁判員に選ばないよう裁判長に求めた。2人は20代くらいの男女、残りは50~60代らしき男性2人。これまでの経験から被告に年齢が近い2人は反感を持つと考え、後者の年配2人は冒頭、裁判長のあいさつにほおづえをつき態度の悪さが目に付いたからだ。
 裁判員の選任手続きでは検察、弁護側双方がそれぞれ理由を示さずに候補者4人まで不選任を求めることができ、補充裁判員を選ぶ際には最大7人を外せる。具体的に根拠はなくても、不公平な裁判をする恐れがあると判断した場合、尊重される仕組み。この裁判の裁判員は4人や辞退希望者らを除いた残りの人から抽選し50代女性1人、60代女性3人、20代と30代の男性各1人の計6人が選ばれた。
 大阪地裁の覚せい剤密輸事件では弁護人が上限の5人の候補者を理由なし不選任請求した。「(24歳の)被告は母性本能をくすぐるタイプだから女性を残そうと。さめた目で見そうな20代後半~30代くらいの男性を外した。フィーリングです」
 検察側の理由なし不選任請求は、8~9月の裁判員裁判14件のうち8件で計25人。実際の理由は▽裁判所の説明をまじめに聞こうとしない▽公平な裁判を否定する発言や態度があった--など。
 最高裁幹部は「見かけや態度で不選任にするのは広く国民の見識を判決に反映させるという制度の趣旨に反する」と指摘する。
    ◇
 熊本地裁は9月2日、傷害致死事件の裁判(10月)で候補者51人に呼び出し状を送った。だが9月18日、31人に追加で送った。候補者への質問票の回答率が低く辞退希望者も多かったためだ。
 札幌、山形地裁でも同様の例があった。候補者通知同封の調査票、呼び出し状同封の質問票の回答を基に、裁判所は早い段階で柔軟に辞退を認めている。
 選任手続きでも同様だ。東京都世田谷区の女性(43)は東京地裁で開かれた強制わいせつ致傷事件の裁判(12月)で辞退が認められた。「かつて身近で性犯罪が起き裁判にかかわりたくなかったし、特に今回は過去を思い出しそうで嫌だった」
 11月17日、鹿児島県屋久島町に住む看護師の女性は、高速船と新幹線を乗り継ぎ約4時間かけて熊本市の実家に戻った。翌日、熊本地裁である殺人未遂事件の裁判の選任手続きに出るためだ。
 3月末に転居し、9月に呼び出し状が届いた。「辞退できるか地裁に問い合わせたが、返事はあいまい。5日間の休みをとった」。結果は裁判員に選ばれず、交通費は往復3万2000円。最も安い経路・交通手段で計算した地裁の支給明細は2万円弱。現住所が遠い場合、辞退の理由になる。
 「呼び出す候補者が多すぎる」「当日にならないと裁判員になるか分からないのは困る」。最高裁が裁判員や候補者を対象に実施したアンケートでは、こんな意見が目立つ。=つづく
 ◇21人請求のケースも
 10月末までの被告47人の裁判員裁判に関する最高裁の統計によると、裁判員候補者は計4200人。うち選任手続き前も含め辞退が認められたのは2218人だった。選任手続きに出席したのは1778人で、「理由なし不選任請求」により裁判員に選ばれなかったのは229人。奈良地裁の集団強姦(ごうかん)致傷事件の裁判(11月)では、検察側と弁護側が計21人の候補者を理由なし不選任請求した。被告4人の同時審理で、請求は被告1人につき6人までできたためだ。最終的な抽選対象者は15人になってしまい、ここから裁判員6人と補充裁判員3人が選ばれた。毎日新聞 2009年12月23日 東京朝刊

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