トランプ氏は敬虔なキリスト者か? 2020/6/5  「トランプ政権と福音派」 

2020-06-06 | 文化 思索

トランプ氏は敬虔なキリスト者か?
   長谷川 良 (ウィーン在住)  2020/6/05(金)  ウィーン発コンフィデンシャル北米・中南米 
 当方は4年前の米大統領選前にこのコラム欄で「トランプ氏はキリスト教徒か」(2016年2月20日)を書いた。4年後の今日、再び「トランプ氏はキリスト教徒か」を問わざるを得なくなった。
 米ミネソタ州のミネアポリス近郊でアフリカ系米人、ジョージ・フロイドさん(46)が白人警察官に暴行された末、窒息死させられたシーンがテレビに放映されると、米全土で警察官の蛮行に抗議するデモが起きた。州外からアンチファシズムのプロ活動家(アンティファ)が動員され、抗議デモを扇動し、暴動を駆り立てているとして、トランプ大統領は軍に出動を命じ、取り締まりを強化してきた。
 人種差別に抗議するデモは米国内だけではなく、欧州にも波及し、英国のロンドン、オランダのアムステルダム、ドイツのベルリン、フランスのパリなどで米国大使館前や路上で人種差別抗議デモが行われている。
 トランプ氏は1日、人種差別抗議デモに対抗するため軍に出動を命じた後、ホワイトハウス近郊のセント・ジョーンズ教会を訪問、カメラマンたちの前で聖書を掲げて平和をアピールしたが、米宗教界から「軍を使って人種差別の抗議デモ参加者を弾圧する一方、聖書を掲げて平和をアピールするパフォーマンスは聖書の教えに反する」として批判にさらされている。
 米カトリック教会ワシントン大司教区のウィルトン・グレゴリー大司教は2日、大統領夫妻の聖ヨハネ・パウロ2世ナショナルシュライン(国立神社)訪問 に対し、「教会の施設を政治の道具に利用することは許されない」という公式声明を出しているほどだ。
 ちなみに、フランシスコ教皇は3日、「人種差別や如何なる差別に対して、黙認はできない」と強く反対する一方、「暴力では何も得られない。多くを失うだけだ」と暴動するデモ抗議者を批判、米国民に平和と和解を求めている。米カトリック教会司教会議も人種差別の抗議デモには理解を示す一方、抗議デモ参加者の暴動には明確に一線を引いている。
 4年前、「トランプ氏はキリスト教徒か」という問いについて、当方は明確には答えられなかった。4年後、「トランプ氏はキリスト信者か」という問いが再び持ち上がってきたのを感じている。
 フランシスコ教皇は4年前に、「架け橋ではなく、壁を作る者はキリスト教徒ではない」と指摘、「移民ストップやイスラム教徒の入国禁止などを主張するトランプ氏はキリスト教徒ではない」とバッサリと切り捨てたが、トランプ氏が伝統的な敬虔なキリスト者のカテゴリーに入らないことは、ほぼ間違いないだろう。
 トランプ氏は一応、キリスト教福音派に所属する、れっきとしたキリスト教徒だ。福音派教会はトランプ氏の最大の支持基盤だ。2017年の大統領宣誓式には親代々の聖書を持参して臨んだトランプ氏は、本を読むことはあまり好きではないが、聖書は例外だという。
 そのトランプ氏は、移民拒否・外国人排斥を政策の中心に置き、世界の平和貢献より、米国ファーストを掲げてきた。同氏が発信するツイッターは世界に平和ではなく、混乱を起こさせ、側近は大統領と衝突して頻繁に入れ替わり、国際機関からは次から次へと脱退した。第45代米大統領は、自身は敬虔なキリスト教徒というが、それを裏付ける話はあまり聞かない(トランプ氏は歴代大統領の中で最も厳格な中絶反対支持者)。
 ところで、米国の歴史は短いが、その建国精神はキリスト教を土台としたものだ。米国民はそれを誇りとしてきた。欧州から最初に米国に渡ってきた清教徒たちは自分の家を建てる前に教会を、そして学校を建てた。それが米国の伝統だった。代々の大統領は神の前に宣誓してきた。トランプ氏はそのような米国歴史の中で選ばれてきた大統領の一人だ。
 もちろん、「前回の米大統領選の結果は神の意思ではなく、大統領選に秘かに関与したロシアの選挙工作の成果だ」と辛らつな論調もあるし、トランプ氏が聖書の愛読者だといえば、多くの人々は首を傾げざるを得ないだろう。
 ここまでは理解できる。しかし、神は常に立派な人間を指導者に選んできたわけではないのだ。能力のない人間を選び、指導者に担ぎ出したことも度々あった。口下手なモーセにはアロンを遣わし、ソロモン王の堕落も父のダビデ王の功績ゆえに神は目をつぶった、といった話が聖書には記述されている。
 「神への信仰」は非常に内面世界のことだから、外部から「あの人は信仰者だ」「彼は信仰などない」とはいえない。医師が遠距離診察で診断を下すようなもので、誤診も出てくるだろう。
 以下は当方の一方的な深読みだ。
 神が米国の大統領にトランプ氏を選んだとすれば、誤解を恐れずに言うと、トランプ氏はこれまでの世界の秩序を破壊できる人間だからではないだろうか。聖書の最後の書、「ヨハネの黙示録」21章には、「新しい天」、「新しい地」が誕生するためには、「古い天」、「古い地」が先ず破壊されなければならないとある。誰がその嫌われ役を担って登場してくるだろうか。ひょっとしたら、トランプ氏はその目的のために第45代米大統領に選ばれたのではないか。彼が優秀で敬虔なキリスト者だから選ばれたのではなく、新しい世界を生み出すために古い世界を潰すデストロイヤーとして選ばれたのかもしれない。
 興味深い点は、破壊者トランプ氏が大統領在任中に「中国発武漢ウイルス」が世界を震撼させ、短期間で世界の政治、経済を根底から停止させたことだ。「中国発武漢ウイルス」は別の意味で新しい世界を作り出すための役割を果たしている。実際、欧州の政治家はポストコロナ時代について「新しい生き方」を国民にアピールしているほどだ。
 まとめる。21世紀の今日、トランプ氏と中国ウイルス=中国共産党政権が覇権争いを展開させている。両破壊者は最終的には勝敗の決着をつけるため衝突せざるを得ない運命にある…。そういう聖書の「黙示録の世界」が浮かび上がってくるのだ。
 
 ◎上記事は[View point]からの転載・引用です
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「トランプ政権と福音派」(時論公論)
  2018年03月01日 (木)
  髙橋 祐介  解説委員
 アメリカで最も著名なキリスト教の牧師が亡くなりました。福音派と呼ばれる保守的なキリスト教徒に大きな影響を与え、歴代の大統領とも親しい関係にあったビリー・グラハム師です。キリスト教の価値観が、政治と分かち難く結びついている国=アメリカ。アメリカ最大の宗教勢力とも言われるキリスト教福音派の現状と、福音派を重要な支持基盤としているトランプ政権との関係を考えます。
 ポイントは3つあります。
 首都ワシントンの連邦議会議事堂です。グラハム師の棺は今、ここに安置されています。
 トランプ大統領は、故人を称え、「アメリカは祈りによって支えられている国だ」と述べました。大統領は今週末、南部ノースカロライナ州で営まれる葬儀にも参列を予定しています。ひとりの宗教指導者が、時の政権によって、これほど手厚く追悼されたのは異例です。
 ビリー・グラハム師は、聖書を重んじるエバンジェリカルズ=福音派を代表する指導者でした。伝道活動は、全米各地にとどまらず、世界185の国と地域に及び、2億を超える人々に教えを説いたとされています。第2次世界大戦後、トルーマン以降、歴代すべての大統領と親しい関係を結んだことでも知られています。党派の違いを超えて尊敬を集め、“アメリカの牧師”と呼ばれました。
 成功の秘訣は、ラジオやテレビなど、当時の最新のメディアをいち早く布教活動に取り入れたことでした。わかりやすい語り口で大衆をひき付け、冷戦時代は共産主義を批判し、黒人の公民権運動の時代には人種差別に反対するなど、政治や社会問題にも発言しました。しかし、80年代以降、ほかの福音派の指導者らが保守的な政治運動を起こしても、グラハム師は一線を画し、特定の党派色を帯びることには最後まで慎重でした。

          

 そうした福音派は今、どれぐらいの規模を持つのでしょうか?実は、福音派は特定の教派を指すのではありません。聖書の信仰に目覚めた保守的なプロテスタントの総称です。このため、福音派をどう定義するかによって、答えは様々に異なります。
 左側の世論調査のように、「あなたは信仰に目覚めて生まれ変わった、いわゆるボーン・アゲイン、または福音派ですか?」とたずねると、だいたい40%前後が「自分は福音派だ」と認識していることがわかります。ただ、その中には、客観的に見て、保守的とは言えない人も含まれている可能性は残ります。
 そこで、「あなたの宗教は何ですか?」とたずねた答えが右側のグラフです。このうち、プロテスタントの中で保守的な教派や、特定の教派に属さない人々らをあわせると、近年の調査では、だいたい25%前後になるのです。つまり、アメリカ国民のおよそ4人に1人が福音派。アメリカ最大の宗教勢力とも言われている所以です。
 歴代の大統領たちは、福音派を象徴する存在となったビリー・グラハム師に積極的に近づきました。「精神的な助言を求める」というのが理由でした。大統領は日々、決断を迫られる重圧にさらされていますから、信仰に救いを求めたくなる時もきっとあるのでしょう。
 ただ、大統領は政治家です。グラハム師と近づくことで、有権者に対し、自分は敬虔なクリスチャンだとアピールしたい思わくがあったとしても不思議はありません。有り体に言えば、国民の4人に1人を占める福音派からの支持なしには、選挙に勝てない現実があるのです。
 保守的なキリスト教徒を支持基盤とする共和党の大統領はもちろん、リベラルな民主党の大統領も、とりわけ保守的な南部の各州で、党内の予備選挙を勝ち抜かなければなりませんから、事情は同じです。
 おととしの大統領選挙では、トランプ候補が、福音派から圧倒的多数の支持を集めたことが、勝利を決定づける要因のひとつになりました。出口調査では、福音派からの支持率は81%に上りました。共和党の大統領候補としては、近年突出して高い数字です。
 副大統領候補だったペンス氏が福音派だったという事情はあるにせよ、トランプ氏は、過去に2度離婚を経験したり、福音派が強く反対する妊娠中絶を容認する発言をしたりしたことが問題とされていました。それなのに、なぜ敬虔なキリスト教徒のイメージとはほど遠いように見えるトランプ大統領を、福音派の多くは今なお支持しているのでしょうか?理由はいくつか考えられます。
 まずトランプ大統領は、最高裁をはじめ連邦判事に保守派を選ぶと公約し、実際そうした選任を進めています。妊娠中絶などに強く反対し、司法の場でこの問題が容認に傾くことに歯止めをかけたい福音派には、いわば望みどおりの展開です。
 また、トランプ氏は、イスラエルのアメリカ大使館をエルサレムに移転すると公約し、就任後の今、実際に今年5月に移転を実現する方針だとしています。福音派の多くは、聖書に基づいてイスラエルを擁護するという立場ですから、こちらも望みどおり。
 さらに、アメリカの税法にはジョンソン修正条項といって、教会など免税措置を受ける非営利団体が、選挙で特定候補を応援したり反対表明したりすることを禁じる規制があります。トランプ大統領は今この条項を撤廃して、宗教団体による政治参加を広げるよう目指しています。
 ビリー・グラハム師の後継者で、息子のフランクリン・グラハム師は「トランプ氏こそ神から遣わされた大統領だ」と手放しの褒めようです。秋の中間選挙に向けて、両者の蜜月は続き、連携は強化されていくでしょう。
 アメリカの政教分離はどうなっているのか?そんな疑問をもたれる方がいらっしゃるかも知れません。実際、合衆国憲法は、信教の自由を保障し、国教=国の宗教を定めることを禁じています。しかし、あくまでも特定の教会と国家の分離を求めたもので、宗教と国家の分離を求めたものではないとされています。通貨や紙幣などにも刻まれたアメリカの国家としてのモットーは、「我ら神を信じる」。建国以来、培われてきたキリスト教に基づく価値観と、アメリカの政治は密接不可分です。
 しかし、いま福音派に限らずアメリカのキリスト教団体は、深刻な懸念を抱えています。若者たちの宗教離れです。       
 こちらの世論調査を見ますと、「神を信じる」という人は、生まれた年代が若ければ若いほど減っていく傾向にあることがわかります。若者たちの価値観は多様化し、「宗教は重要」と考える人は、とりわけミレニアルと呼ばれる若い世代では、すでに半数を切っているのです。このままでは、福音派の影響力も衰退に向かうことは避けられません。
 そうした危機感があるからこそ、ビリー・グラハム師亡きあとの福音派は、政治に行動を求めるため、党派色をますます濃くしていくのかも知れません。トランプ政権と結びつきを強める福音派。アメリカ社会の分断はいっそう深まっていく恐れをはらんでいます。
(髙橋 祐介 解説委員)

 ◎上記事は[NHK解説委員会]からの転載・引用です
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米黒人暴行死 トランプ大統領 聖書を片手に「アメリカは世界一偉大な国だ」と発言 2020/6/2
『アメリカ』…なぜ熱心なキリスト教信者が多いのか…トランプに投票しよう そんな保守的な結論になっていく…  
『福音派とは何か?』2020年の米大統領選挙戦が本格化する中・・・
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* 『ユダヤとアメリカ 揺れ動くイスラエル・ロビー』立山良司著 中公新書

   

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