裏金づくりを告発寸前に逮捕された公安部長---田原
田中さんと同じように検察から付け狙われて不当逮捕された三井環(たまき)の事件に触れたい。 大阪高検の公安部長だった三井は捜査情報を得ようとした元ヤクザから飲食や女性の接待を受けたなどとして、2002年に収賄や公務員職権濫用などの罪に問われて、逮捕、起訴された。
この事件の背景にあったのが、調査活動費(調活費)と呼ばれる検察の裏金。ある検事正が夫人をともなってゴルフを楽しむなど、検察上層部が調活費を不正に使用していることに義憤を感じた三井が告訴をしようとした矢先の逮捕でしたね。このタイミングから見ても、口封じを狙って逮捕したとしか思えない。
調活費は、そもそもは、検察庁が治安維持の目的で過激派などを調査するために設けられた予算だった。その性格上、使途は明らかにできないとし、外部のチェックを受ける必要もないということで検察庁の裏金づくりに使われていた。
三井によると、ピーク時の1998年には、6億円近いカネがプールされていたそうですね。ただし、この調活費を使えるのは、検事総長をはじめ、最高検次長検事、各高検の検事長、各地検の検事正ら検察の上層部に限られていた。これを利用して私的に流用していた上層部もたくさんいた。ゴルフに行ったり、クラブで遊んだりですね。
この調活費、検事総長や法務大臣はその存在を公式には認めていないけれど、あったに決まっている。
法相も検事総長も偽証罪---田中
三井の事件、検察の内部にいた僕らからするとちゃんちゃらおかしい。2000年まではわけのわからん調活費なる裏金は確かにありました。
だって、僕自身、上司に頼まれて、調活費を引き出すための領収書をせっせと集めてたんですから。プールされた調活費で、検事正に、僕らもゴルフや料亭に連れていってもらっていた。素直に、「ありがとうございます」ですよ。
なのに、法相も検事総長も国会で現在も過去もないような答弁をしているんやからね。偽証罪に問われてもおかしくない。かたや、三井は組織ぐるみでやっていた検察の不正を覆い隠すために、罪人にされてしまったのだから、気の毒ですね。
調活費は、今はなくなったけれど、それに近いものはある。それは、選挙違反を検挙したらもらえる特別報奨金です。
殺人や窃盗といった事件は、この管内では1年間にどれだけあると、統計からおおまかに読めるので、年間の予算がつけられるけれど、選挙違反は見通しが立たない。
そこで、公職選挙法の捜査に関しては、法務省の予備費のなかから支出されることになっている。だから、選挙違反を検挙すれば、特別報奨金も出るんです。僕らのときは、公判請求で、ひとりにつき5万円だったかな。
略式で、罰金なら3万円。起訴猶予で1万円。起訴猶予は、ざっくばらんにいえば、「犯罪になるけど許しますよ」だから、本人が知らない間に被疑者に仕立て上げて、起訴猶予でボンボン落として、予算を分捕ることもできるわけですよ。
やり過ぎると、本庁から目をつけられるから、無茶苦茶はやっていなかったけれど、そういう手口も使っていました。これも一種の裏金づくりですよ。
もっとも、誤解のないように言っておきたいのは、選挙違反の摘発は儲けたいからやるわけじゃない。日本の選挙は昔から馴れ合いで、カネをやってうんぬんだから、ある程度の選挙違反は摘発して、警鐘を鳴らさなければならないという使命感のほうがもちろん強い。
かといって、なんでもかんでも摘発し、やりすぎると、政治に混乱をきたし、かえって国民の不利益につながってしまう。だから、どっかで拾い出さなければならん。選挙違反の摘発は、検察や警察にとっては、ワーッと騒いで警告を発するお祭りみたいなものです。
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関連;暴走検察(週刊朝日2010/2/12号)
冤罪だらけの特捜の「化けの皮」---青木 理(あおき・おさむ)ジャーナリスト
1月18日に静岡刑務所をようやく満期出所した三井環は、検察の薄汚れた捜査で煉獄の苦しみを味わった代表的被害者だろう。
本誌先週号のインタビューで三井氏本人が訴えているとおり、大阪高検公安部長を務めていた三井氏は2002年ごろ、全国の検察で堂々と続けられてきた「裏ガネづくり」という組織的不正を内部告発しようと決意していた。ところが、テレビ局の取材収録が予定されていた当日、大阪地検特捜部によって電撃逮捕されてしまう。
科された罪は「詐欺」と「収賄」だった。これだけ記せば、単なる悪徳検事の転落劇にも思えるが、実は、収賄といってもわずか22万円相当の接待。詐欺に至っては完全な形式犯に過ぎない。現職の検察幹部を逮捕するには、どう考えても不自然な微罪であり、告発の口封じを狙った検察権の乱用なのは誰の目にも明らかだった。
だが、検察を重要な情報源とする新聞やテレビは、真相を徹底追及しなかった。裁判所も同様だ。検察が起訴に踏み切った際の有罪率は実に99%を超えており、現状の刑事司法制度下で裁判所はもはや検察の言いなりに近い。辛うじて大阪高裁は判決の中で、検察の裏ガネづくりに言及したが、三井氏の有罪は覆らなかった。三井氏は、いまも憤りが収まらない。
「かつての検察は、これほどひどくなかった。最近は、政治的な動きが露骨すぎる。あまりに汚い。国会は裏ガネ問題で検事総長を証人喚問し、法相は行政的な指揮権を発動するべきだ」