「変革」に託す① オバマの米国 対話で一国主義脱却  「希望の詩人」

2008-11-09 | 国際

「変革」に託す① オバマの米国 対話で「一国主義」脱却

 「世界を破滅させようとする者は打倒する。平和と安全を求める者には手を差しのべる。米国のリーダーシップの新たな幕開けだ」
 時期米大統領就任を決めた民主党のバラク・オバマ上院議員(47)が5日、地元イリノイ州シカゴで約7万人の支援者を前に行った勝利宣言は、米国民だけでなく、全世界に向けられたものだった。 ブッシュ政権の8年間で落ちるところまで落ちた国際社会での威信と指導力。それを回復させることへの意欲を感じさせた。
 イラク戦争、アフガニスタンの混乱、中東和平の停滞、北朝鮮やイランの核開発問題、グルジア問題を発端にしたロシアとの「新冷戦」・・・。米外交は、懸案のいずれについても解決の道筋が見えない「八方ふさがり」のまま、現政権から新政権に引き継がれる。
 中でも、ブッシュ大統領が2003年3月、国連安保理での議論を一方的に打ち切り、「有志連合」による軍事行動に踏み切ったイラク戦争は、力に任せた「一国主義」として内外から猛烈な批判を浴びた。
 オバマ氏は外交面の「変革」の具体策として「イラク戦争終結」を真っ先に掲げた。共和党候補のジョン・マケイン上院議員(72)が「戦争に負けるくらいなら、選挙に負けるほうがましだ」と「愛国心」に訴えてもひるまなかった。
 イラク戦争終結。それは長く「世界の指導者」であり続けてきた米国が、多極化する世界で「米国のリーダーシップ」を確立するための前提だからだ。
 オバマ氏は勝利宣言で「私の決断や政策のすべてに賛成しない人も多いだろうが、私はそういうときこそ耳を傾ける」と、対話重視の姿勢を強調した。
 核開発問題をめぐるイランや北朝鮮の指導者との直接対話さえ否定しない。だが、「独裁者」はもとより、だれとの対話でも、米国流の自由や民主主義を押しつけるやり方はもはや通用しない。
 世論調査の安全保障政策面の信頼度で、オバマ氏はマケイン氏の後塵を拝し続けた。経験不足が指摘され、外交手腕が未知数であることは否定できない。
 だが、ブッシュ外交の「負の遺産」を克服していく中で、「一国主義に陥らない米国の指導者とは」という問いに、どんな答えを示すのか。期待と不安が交錯する。(ワシントン・岩田仲弘)中日新聞2008/11/07

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希望の詩人
中日新聞2008年11月8日
 「彼は詩人だ。国民は、詩人を求めている」
 米国のある評論家がテレビで話していた。「彼」とは、予想を上回る圧勝で史上初の黒人大統領に決まったオバマ氏である。
 「われわれの民主主義の力を疑う人がまだいるのなら、今夜がその答えだ」。こう切りだした勝利宣言もまさしく詩だった。
 「老いも若きも、富める者も貧しき者も、民主党員も共和党員も、黒人も白人もラテン系もアジア系も先住民も、すべての人々が出した答えだ」。訴え続けてきた「一つの国」への熱い思いがほとばしる。
 「わが国の真の強さは、武力でも富の豊かさでもなく、民主主義、自由、希望という、朽ちることのない理想の力にある」。高らかにうたい上げ、そして呼び掛けた。「変革のときは、やって来た」「そう、われわれにはできる」
 飾った表現も、凝ったレトリックもない。聞く者の胸に真っすぐ届き、揺さぶらずにはおかない。彼の言葉には、そんな力がある。「ブラック・ケネディ」とも呼ばれるゆえんだ。
 大義なきイラク戦争は、いつ終わるとも知れない。米国民は分裂し、疲れきった。市場原理主義を放任し「強欲」の暴走を許した揚げ句の金融危機に、国民はおののくしかない。
 ブッシュ政権への深い失望と、自信喪失。ここから立ち上がるには、心に希望の火をつける言葉が必要だった。それがオバマ氏の詩だったのだろう。燃え上がった火は、人種という厚い壁をも焼き払った。
 無論、自身が勝利宣言で述べた通り「立ちはだかる試練は途方もなく大きく、道のりは長く、険しい」。
 それでも、超大国の「変革」は、世界を「変革」に導く。彼の詩によって希望の火をともし、これからも詩人であり続けてほしいと願っているのは、決して米国民だけではない。
 (名古屋本社編集局長・加藤 幹敏)


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