大相撲がある夏 名古屋場所
故郷で軍配 力強く
3 行司 式守昂明
中日新聞 2021年7月1日
故郷で初めて立った土俵を、行司の式守昂明(18)=こうめい、本名橋本昂明、名古屋市北区出身、鳴戸部屋=は忘れられない。2019年7月の名古屋場所。開場したばかりの時間に行われる序ノ口の取組は観客もまばら。所作は間違えていないか。きちんと勝負を裁けるか。デビュー2場所め。緊張ばかりしていた。ある日のこと。会場でばったりと顔を合わせた同級生に声をかけられた。「かっこよかったぞ」。当時16歳の少年は、自分の進んだ道に自信が持てた。
その1年前、45人の定員に空きが出ていた。17年に師匠として独立した鳴戸親方(元大関琴欧洲)がなり手を探していると聞き、名古屋市内の宿舎で面接を受けた。幼いころから相撲ファン。祖父母と一緒にテレビ中継に見入っていた。ずっと競泳を続けていたが、軍配をりりしく振るう行司に憧れていた。
角界入りして1年が過ぎた昨春、新型コロナウイルスの影響が大きくなった。通常なら東京・両国国技館に集まり、所作などの指導を受ける。番付など書き物を相撲字で記すのも大事な仕事。兄弟子の目の前で筆を握り、手取り足取り教わるのが伝統だったが、そんな機会は感染症対策で失われた。
鳴戸部屋で自己鍛錬する毎日。稽古する力士のさばで所作を確認したり、空き部屋で相撲字を書いたり。昨夏は名古屋で本場所は開かれず、東京で行われた。「1年間我慢して、2年分の成長を見せられたらいい」。公正に勝負を裁くため、ビデオ映像を使った決まり手の研究も一層熱がこもるようになった。
今年の初場所千秋楽で序ノ口優勝決定ともえ戦を任された。大勢の観客がいる幕内の時間帯に相撲を裁くのは初めて。取組後、鳴戸親方に言われた。「なかなか、これほど堂々とした姿を見せられるものではない。素晴らしい」。かつて熱心に応援した人気力士の言葉に勇気づけられた。
2年ぶりに故郷で開かれる名古屋場所。序ノ口の取り組みは感染症対策で観客が入れない時間帯に行われ、ネット中継でしか見られない。それでも、ぎこちなかった1年目とは違う自分を届けられる気がする。
◎上記事は[中日新聞]からの書き写し(=来栖)
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〈来栖の独白 2021.7.2 Fri〉
貴重な連載。大相撲の取り組みだけでなく、呼び出しさん、行司さんのことなど、興味深い。なかなか知る機会のない大相撲の周辺。人生。
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* 大相撲がある夏 名古屋場所 ② 呼び出し 照矢 2021.6.30 「中日新聞」
* 「大相撲がある夏」 名古屋場所 2021.7.4 開始