ドゥテルテ大統領の発言は本心か政治的演技か、推察する [宮家邦彦のWorld Watch 2016/10/27] 

2016-10-27 | 国際/中国/アジア

産経ニュース 2016.10.27 09:00更新
【宮家邦彦のWorld Watch】拝啓、ドゥテルテ大統領閣下 貴方の発言は本心か政治的演技か 推察すると…
 初めてお便りします。このところメディアは貴方(あなた)の発言をおもしろおかしく報じています。例えば、「北京で米国との決別を宣言」「米国は地獄に落ちろ」「米比合同演習は意味がない」「麻薬中毒者など喜んで殺す」「露中を武器調達先にする」「国連が無礼なクソ野郎ならわれわれは去るだけ」といった具合。こうした品のない発言は貴方の本心なのですか。それとも政治的演技なのでしょうか。私は後者だと推測します。理由は、貴方が法律家の父と教師の母の家庭で育ち、大学卒業後は検察官だったからです。私には貴方が非常識・無教養の政治家とは思えません。ただし演技とはいえ、もう少し抑制した方が効果的ですよ。
 また、内外メディアは貴方を「反米」と決めつけます。貴方のオバマ大統領に対する発言は確かに礼を失しています。なぜそんなに米国が嫌いなのですか。貴国が米国の植民地だったからですか。それとも、大学時代の恩師がフィリピン共産党の創始者だったからでしょうか。貴国には米国に対し、異常なこだわりを持つ政治家が多いのですが、「反米」にも限度はあります。この点は後ほど詳しく触れます。
 貴方は筋金入りのナショナリストですね。ダバオの犯罪発生率はフィリピンでも最悪でした。市長時代の貴方は超法規的措置を活用して犯罪組織に対する取り締まりを強化し、治安の劇的改善を実現しました。フィリピンに対する強い愛着がなければとてもできない芸当でしょう。しかしながら、元検察官の貴大統領が「法の支配」の意味を知らないはずはありません。一日も早く、法に基づく犯罪対策に復帰してほしいものです。
 そんな反米ナショナリストの貴方をメディアの一部は「親中」と報じています。これも私には信じられません。習近平国家主席の前でなぜ貴方はわざわざポケットに手を入れたり、ガムを噛(か)んだりしたのですか。単なる無礼と見る向きもありますが、私はこれも演技ではないかと疑っています。
 大衆迎合的ナショナリストである貴方が、領有権問題について、国民に説明できない「対中譲歩」を行う余地はゼロであり▽南シナ海の領有権問題で中国と出口のない対立を続けても短期的には実益がなく▽当選間もない貴大統領にとって、中国からの経済援助取り付けは至上命令だったからでしょう。
 その意味で、中国での貴大統領の言動は「戦術的」だったはずです。しかも、今回中国は貴国に対し相当の譲歩を迫ってきましたね。もしかしたら、貴方は今回の訪中に必ずしも満足していなかったのではありませんか。
 これに比べれば、貴大統領の訪日は戦略的意味を持ちます。日本は米国ではありません。フィリピンと同じ西太平洋の島嶼(とうしょ)国として海洋権益を共有しています。南シナ海での「航行の自由」の維持は貴国は勿論(もちろん)のこと、中国を含め、世界の利益となるでしょう。
 そもそも現在の中国による南シナ海軍事化は、1991年に反米傾向を強めた貴国が駐留米軍を追い出したことがきっかけではありませんか。今は点と線による支配ですが、いずれ中国は貴国EEZ(排他的経済水域)内のスカボロー礁に滑走路のある人工島を建設し、南シナ海の航空・海上優勢を面で確保しようとするでしょう。さらに、来年前半、中国は米新大統領の出方をテストすべく米艦船・航空機などに対する挑発を強める可能性があります。
 同様のことは2001年4月と09年3月に実際に起きました。その時、貴大統領はフィリピンの中長期的国益をいかに守るお積(つも)りなのですか。この点について安倍晋三首相とじっくり議論してください。どうか、今回の訪日が成果あるように。 敬具
 【プロフィル】宮家邦彦
 みやけ・くにひこ 昭和28(1953)年、神奈川県出身。栄光学園高、東京大学法学部卒。53年外務省入省。中東1課長、在中国大使館公使、中東アフリカ局参事官などを歴任し、平成17年退官。第1次安倍内閣では首相公邸連絡調整官を務めた。現在、立命館大学客員教授、キヤノングローバル戦略研究所研究主幹。

 ◎上記事は[産経新聞]からの転載・引用です
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