中日新聞を読んで「マニフェストはどうなった?」後藤昌弘(弁護士)
2010/04/11
1日の夕刊、2日の朝刊に、足利事件に関する警察庁と最高検察庁の報告書の記事が掲載されていた。各報告書には、足利事件の捜査に対する反省の弁が書かれていた。しかし、取り調べの可視化については触れられていない。
そして、このニュースから時をおかずに、今度は名張の名張毒ぶどう酒事件について、最高裁は再審開始を取り消した名古屋高裁の決定を取り消した。名張事件においても、犯行を裏付ける直接的な証拠がなく、有罪の決め手となったのは捜査段階での自白である。仮にこの事件が冤罪であったとすれば、被告人は約50年にわたって、人生の大半を奪われたことになる。冤罪による被害はかくも悲惨である。
自白偏重の現在の捜査方向を是正し足利事件のような冤罪を防ぐためには、取り調べの全面可視化は最も適切な手段であることは誰の目にも明らかである。ちなみに、民主党は野党だったころは、取り調べの可視化について熱心に主張し、参議院で可決したこともあった。民主党のマニフェストにも書かれていた。
しかし、政権に就いて半年たつが、今のところ取り調べの全面可視化法案が上程される様子はない。
聞くところでは、捜査の現場では、取り調べの全面可視化に対する反対論が強いようであり、それが取り調べ全面可視化法案の先送りの理由ではないかとも聞く。
足利事件の結果を真摯に反省し、本当に今後冤罪を起こさないとの思いがあるのであれば、捜査機関自らが取り調べの全面可視化指摘してしかるべきものである。
この点に言及することなく、報告書において自白偏重の捜査の改善を口にしても、実効性など期待できるはずはない。
今こそ、冤罪の悲劇を無くすために、政治主導で捜査の在り方を変える必要があるのではないかと思う。
◎上記事は[中日新聞]からの書き写し(=来栖)
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◆ 名張毒ぶどう酒事件 異議審(再審取消し)決定 2006.12.26. 名高裁刑事2部 門野博裁判長/ 柳川善郎氏の話