手足の指6本の奇形で生まれた赤ちゃん、「人工呼吸器からはずして」と父親が・・・ 松永正訓(ヨミドクター)2017/10/9

2017-10-09 | Life 死と隣合わせ

手足の指6本の奇形で生まれた赤ちゃん、「人工呼吸器からはずして」と父親が…
2017/10/9(月) 7:10配信   読売新聞(ヨミドクター)
小児外科医 松永正訓
 赤ちゃんの命は大変頼りなくか弱いものです。そうした命は医者や親によって守られるべきです。ところが、生まれる前の胎児の命は必ずしも100%守られているとは言えず、障害を負った命は見放されてしまうことがあります。
  私が赤ちゃんの命の重さについて深く考えるようになったきっかけは、医師になってわりとすぐの頃に起きた出来事にありました。
  関東地方の田舎で双子の赤ちゃんが生まれました。第1子は死産でした。第2子は生きて生まれましたが、腹壁破裂という先天性の奇形がありました。おへそのすぐ脇にあなが開いていて、そこからすべての小腸が体外に飛び出していたのです。もちろん緊急手術が必要です。放置すればたちまち感染が起きますし、外に出た小腸からどんどん体温が奪われますので赤ちゃんは低体温になります。何十枚ものガーゼでくるまれた赤ちゃんは救急車で深夜、私が勤めていた大学病院の小児外科に搬送されてきました。
  体外に飛び出している腸は、羊水に晒(さら)され続けていたために分厚くむくんでいます。そのため、すべての腸をおなかに中に納めて腹壁を縫合すると、赤ちゃんのおなかはパンパンに膨れ上がりました。おなかが胸を圧迫しますので、赤ちゃんは自分の力で呼吸することができません。手術は終了したのですが、私たちは赤ちゃんを人工呼吸器の付いた状態で病室に連れて帰りました。
*対面した家族から小さな悲鳴、騒然、やがて沈黙…
 家族控室には、赤ちゃんの父親と両家の祖父母が集まっていました。私たちは赤ちゃんの様子を口頭で伝え、それから面会してもらうことにしました。ただ、ちょっと心配がありました。赤ちゃんの奇形はお腹だけではなかったのです。両手両足の指が6本ずつあったのです。いえ、でもこうした奇形は形成外科の先生に手術してもらえばきれいになります。「命には関係ありません」と家族に念を押しました。
  家族に病室へ入ってもらいました。すると誰も赤ちゃんの顔やお腹を見ません。両手両足を入念に見ています。深夜の病棟に小さな悲鳴のような声があがります。病室は騒然となり、やがて誰もが黙りこくってしまいました。
  手術の後、私たちはねぎらいの言葉をもらったり感謝の言葉をかけられたりすることが多いのですが、その時は気まずい雰囲気だけが部屋に充満し、家族はほとんど無言で帰宅の途につきました。
*「今、呼吸器から外すと命はない」と声を上げる教授、父親の答えは…
 手術から2日たった日の午後、父親が小児外科の外来診察室に姿を現しました。教授の診療が終わるのを待っていたのです。父親は頭を深々と下げて、赤ちゃんを今すぐ人工呼吸器からはずして自宅に連れて帰りたいと言います。教授は目を丸くして、「今、呼吸器から外したら赤ちゃんの命はない」と大きな声を上げました。父親の答えはこうでした。
 「赤ん坊を、上の子と同じ穴の中に埋めてやりたいんです」
  教授と父親のやりとりをそばで見ていた私はびっくり仰天しました。そして父親を廊下の隅へ連れ出して、赤ちゃんの命は赤ちゃんのものであり、親が勝手なことをしてはいけないと懸命に説得しました。父親は、「先生には分からないよ。田舎でこういう子を育てるのが、どんなに大変なことなのか」と悲しそうにうなだれて、廊下を去って行きました。
*母親の涙が一滴、赤ちゃんの頬に…それが転機に
 私は、母親が赤ちゃんに初めて面会する時までに何としても赤ちゃんの状態を良くしようと決意しました。連日病棟に泊まり込んで徹夜の術後管理を続け、術後6日目に呼吸器を外すことができました。そして7日目に母親が病棟にやって来ました。
  赤ちゃん用のベッドの上で、手足をバタバタさせている我が子を見て、母親は顔を紅潮させました。私は母親に赤ちゃんを抱っこさせました。まだ酸素が必要だったので、私は酸素チューブを赤ちゃんの口元にあてがいました。涙が一滴、赤ちゃんの頬に落ちました。これが転機になりました。家族は一人また一人と赤ちゃんを受け入れていきました。もちろん父親もです。私は障害を持って生まれた赤ちゃんを受け入れるのは、単純なことではないと思い知らされました。
<筆者プロフィール>松永正訓(まつなが・ただし)
 1961年、東京都生まれ。87年、千葉大学医学部を卒業、小児外科医になる。99年に千葉大小児外科講師に就き、日本小児肝がんスタディーグループのスタディーコーディネーターも務めた。国際小児がん学会のBest Poster Prizeなど受賞歴多数。2006年より、「 松永クリニック小児科・小児外科 」院長。
 『運命の子 トリソミー  短命という定めの男の子を授かった家族の物語』にて13年、第20回小学館ノンフィクション大賞を受賞。著書に『小児がん外科医 君たちが教えてくれたこと』(中公文庫)、『呼吸器の子』(現代書館)など。

 ◎上記事は[Yahoo!JAPAN ニュース]からの転載・引用です
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コメント欄
  碓井真史 
 「障害者は不幸をもたらすだけ」。そんなことは決してないと、強く否定します。しかし、圧倒的な現実の苦しさが、理念を押しつぶします。きれいごとでは済みません。障害児が産まれて、一家離散することもよくあることです。障害は個性だと言う人もいるけれど、でもその個性をあえて選び取る人はいないだろうと、ある障害児の親は語っていました。障害を肯定的に受け入れ、前向きに生きている人も、産まれてくる我が子には「五体満足」を望んだりするものです。
 命に関わる腸のことよりも、見た目に関わる指に目がいってしまう。障害児を育てる困難は、周囲の無理解が大きくしているのでしょう。
 子供の命と人生が大切だと言うならば、社会の理解と支援が不可欠です。様々な事情の子供と家族がいます。みんなが笑顔になれますように。大きな障害を抱えながら乗り越えてきた家族のみなさんが、異口同音に語ります。「この子こそ、私たちの宝だ」。
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