【逮捕の田母神俊雄元空幕長】なぜ自らの信頼を失墜させるような事態を招いたのか

2016-04-20 | 政治

 産経ニュース 2016.4.15 15:56更新
【失墜-田母神元空幕長逮捕(上)】政治資金…陣営の深い闇 横領罪で互いに告発、内部崩壊
 本部長400万円、事務局長200万円、会長付100万円、ウグイス50万円…。
 平成26年2月の東京都知事選での落選から間もなく、田母神俊雄(67)は、選対事務局長の島本順光(69)から文書を見せられた。表題は「収支概算報告書」。しかし、並んだ数字は選挙運動での貢献度に応じて配る現金をまとめた「報酬リスト」だった。総額は2千万円に上った。
 「みんなにお礼がしたい」と話す島本。田母神はこう思った。「2週間やって200万円にもなるんなら、いい商売だな」
 公職選挙法は選挙運動員への報酬支払いを原則禁じている。しかし、田母神はそんな認識はなかったと振り返る。報酬の原資は政治資金。新たな保守の流れに期待した人々が寄せた浄財だった。都知事選では落選したものの、約61万票を得た。票の、そして、寄付の重みを田母神はどう考えていたのか。ある元陣営幹部は「結局、田母神さんが配布にOKを出してしまった」とため息をついた。
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 田母神陣営には「カネ」をめぐるトラブルがつきまとう。
 昨年3月、政治資金を着服したとして、田母神が業務上横領罪で元会計責任者を告訴すると、今度は元選対本部長らが田母神本人を同罪で東京地検特捜部に告発。選挙を一緒に戦った陣営は内部崩壊した。「誰かがあえて報酬リストをリークし、田母神さんを陥れたのではないか」と声を潜める陣営関係者がいるように、陰謀論も渦巻く。
 ただ、リストをはじめとした物証は、特捜部の捜査を公選法違反(運動員買収)容疑に向かわせることになった。
 「しゃべらないと私が悪いと国民が思う。大悪人と思われるのはつらく、耐えられない」。特捜部の強制捜査を3月7日に受けた後も沈黙を守っていた田母神。同23日になって会見を開いて以降、堰(せき)を切ったように報道陣に何度も持論を展開した。当初は「冤罪(えんざい)」と訴えたが、その後、昨年2月時点で「公選法に違反すると思っていた」と話すなど、その説明は変遷した。
 検察関係者の一人は「話がころころ変わり、マスコミを使って口裏合わせをしているようにも見えた」と打ち明けた。
 買収の実態を示すかにみえる報酬リスト。ただそれは複数存在する。なかには「会長指示自衛隊関係」と書かれた項目に、308万5千円と記載されたリストもある。「会長」とは田母神を指すが、田母神は「指示なんかしていない」と強調する。田母神の知らないところで、陣営の誰かが田母神の名をかたったのか。陣営が抱える「カネ」の闇は深い。
 「よくしておいてやったから」
 関係者によると、田母神は200万円を受け取った空自の後輩男性から謝意を伝えられた際、自分が報酬を増やしたと自慢げに話したという。実際は島本が差配し、増額していたものだが、そんな発言が田母神らしさだ、という声もある。
 田母神の元後援会幹部は話す。「日本を変えていくには必要な人間だと思っていたが、慎重さが足りないところがあった」(呼称略)
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 政界進出を目指した元空自トップは「本日、田母神は逮捕されるようです。何とも理不尽さを感じますが、国家権力にはかないません」とツイッターに書き込み、身柄を拘束された。なぜ、自らの信頼を失墜させるような事態を招いたのか、事件の背景を探る。

2016.4.19 09:35更新
【失墜 田母神元空幕長逮捕】(中)「なぜ選対に入り込めたのか」 自衛隊人脈と不可解な会計処理
 「今日は小沢先生の勉強会だから」
 平成26年2月の東京都知事選で落選した田母神俊雄(67)。その選対事務局長を務めていた島本順光(69)はこう言っては事務所を抜け出すことがあった。小沢先生とは当時、生活の党代表だった衆院議員、小沢一郎(73)のことだ。
 「閣下(田母神)の事務所で堂々と『先生』と呼ぶことに違和感があった」。そんな陣営スタッフをよそに、島本はいそいそと勉強会に赴いた。
 航空自衛隊出身の島本。実は退官後も、2人の“将軍”経験者に仕えた。1人は空将から参院議員に転身し、20年に死去した田村秀昭だ。田村は「豪腕」「壊し屋」と呼ばれた小沢の腹心で、島本は請われて、公設秘書に就任した。
 田村が政界を退くと、島本は小沢に近い議員らのもとを渡り歩き、もう1人の将軍、田母神と出会うことになる。
 「正直、僕らと一緒に新しい保守の流れを作ろうという思いは感じなかった。彼がなぜ選対の中枢に入り込めたのかは分からない」(陣営関係者)
 陣営幹部にはほかにも自衛隊出身者らが名を連ねる。だが、彼らが集まった理由について、田母神の思想や政策への「共鳴」とは別の何かを感じ取った陣営関係者も少なくない。
 「収支概算報告書(A案)」。運動員への報酬配分を示す複数のリストの1つには「B事務所」との項目がある。複数の関係者によると、自衛隊出身者が幹部を務める防衛関係の2つの会社を意味している。このうち1つは島本が副代表を務めている。
 島本の欄にある金額200万円のうち、B事務所の項目に155万円が計上され、残りの45万円は「都民の会」の項目に記載がある。これは田母神の資金管理団体の前身だ。
 ある関係者は「なぜ項目が分かれているのかは、島本にしか分からないが、選挙報酬に関する不正な会計処理を示していることは間違いない」と語る。
 報酬配布について、田母神は「政治家の秘書を20年もやっている島本が言うのだから、選挙というのはそんなものなのかと思った」と振り返る。
 一方、空自では田母神の先輩に当たる島本は逮捕直前、「自衛隊におり、上司の許可を得ずに独断ですることは戒められていた」と語り、「(田母神の)了承を得ずに報酬を出すことはない」と言い切った。
 今回の事件について、田母神との共著書がある作家の拳骨拓史(げんこつたくふみ)(39)は「法である以上、(田母神が)知らなかったでは通じない」と指摘する。その上でこう悔やんだ。
 「選挙違反を勧めたのも元自衛官だとすれば、陣営の人材の薄さを露呈している。(田母神の)カリスマを利用しようとしていた魑魅魍魎(ちみもうりょう)に囲まれていたのだろう」(呼称略)

2016.4.20 05:00更新
【失墜-田母神元空幕長逮捕(下)】“浄財”の認識あったのか 高級クラブ、婦人服…「まるで生活費」
 おかしい-。黙々とパソコンの表計算ソフトに向かっていた元航空幕僚長は、その数字に目を疑った。平成26年12月の衆院選に敗れて迎えた年末年始、そんな田母神俊雄(67)の姿があった。
 陣営の資金をつかさどるはずの元会計責任者は帳簿すらつけていなかった。資金管理団体「田母神としおの会」の口座の通帳と、膨大な領収証を突き合わせる作業だった。
 団体の26年の収入は約1億3200万円。同年2月の都知事選後には約6千万円の残高が確認されていたが、同12月の衆院選後の残高は限りなくゼロに。田母神は正月早々、陣営関係者らを呼び、声を荒らげた。
 「5千万足りないぞ!」
 田母神は27年2月中旬、2度にわたって、「正直に話さないと大変なことになる」と元会計責任者を詰問し、不明金の使途をただした。そして、記者会見で運動員買収を否定した上で、横領疑惑を公表した。
 その1年後。田母神は側近の事務局長、島本順光(69)とともに、運動員買収の公職選挙法違反容疑で東京地検特捜部に逮捕されることになる。
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 政治資金の流用、それは元会計責任者だけの問題だったのか。
 「島本さんのボトルはカラにしないでくれと言ったじゃないか!」
 東京・赤坂の高級韓国クラブ。元会計責任者はママに怒りをぶつけた。毎週木曜日は島本を慰労する「メンテナンスデー」。島本は韓国語のカラオケを熱唱するのが楽しみだった。使途不明になっている政治資金の一部は、そんな遊興費に費やされたとみられている。
 使途不明金の総額は約5千万円。うち約2千万円は運動員の買収資金とみられるが、残りの使途について、ある陣営関係者は「まるで生活費のようだった」と振り返る。
 高級スーツやコートなどに200万円近く、墓の修理費にも…。こうした証言に、田母神は「私の背広は3万円以下」と反論する。そして、強制捜査後の記者会見には、ある“仕掛け”をして臨んだという。
 「何が200万だ。500万だ、と見せるつもりだったんだ」。疑惑を一笑に付したかったのか、田母神はスーツの裏地に「500万」と書いた紙を貼っていたと明かす。それは実現しなかったが、そんな田母神には、空自トップだったころ、自衛隊のイラク派遣を「一部違憲」とした判決を受け、「そんなの関係ねえ」と流行語を言い放った姿がかぶる。
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 《秘書業務並びに原稿添削業務の月額100万円》
 21年12月、田母神は交際相手の女性と契約を交わし、事務所に迎え入れた。この交際相手の婦人服代に「接待交際費」として支出していたとの証言もある。
 田母神や島本に言われるまま口座から毎週50万円以上を引き出し、2人に渡していたという元会計責任者は周囲に「自分はキャッシュディスペンサー(現金自動支払機)のようだった」とこぼしていた。
 田母神は公私混同とも取れる使途について、「私的な領収証であっても状況によっては政治資金から支出される場合がある」と釈明する。「1500万円近い金を資金管理団体や後援会に入れており、それを考えれば、横領といわれる筋合いはない」とも言う。
「浄財という認識がどこまであったのか」。これが検察幹部の率直な感想だ。田母神を支援してきた元後援会長も「若者が事務所で現金を出して『日本のために使ってほしい』という場面を見てきた」と振り返る。そして、続けた。
 「その浄財を使ってしまった。日本が良くなるかもしれない、と思って出してくれたものだったのに…」
 (呼称略) この連載は大竹直樹、今仲信博が担当しました。

 ◎上記事は[産経新聞]からの転載・引用です
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週刊朝日
逮捕の田母神元幕僚長 本誌が直撃でつかんだネタ
  dot.  (更新 2016/4/20 11:30)
「本日、田母神は逮捕されるようです。何とも理不尽さを感じますが、国家権力にはかないません──」
 ツイッターを使った、前代未聞の逮捕予告で、世間を騒然とさせた。4月14日に公職選挙法違反(買収)の容疑で逮捕された元航空幕僚長で、軍事評論家の田母神(たもがみ)俊雄容疑者(67)。
 陣営の選挙対策本部事務局長を務めた島本順光(のぶてる)容疑者(69)も同法違反(買収、被買収)の容疑で逮捕された。2014年の東京都知事選に落選後、田母神容疑者は、島本容疑者に現金200万円を払った疑い。また、2人は選挙運動の報酬として、5人に計280万円を払った疑いがある。
 田母神容疑者は、都知事選で61万票を獲得。保守派のスター論客へと一気に躍り出た。個人献金を中心に、約1億3千万円の政治資金が集まったのが裏目に出た。
 14年の衆院選では、公明党の太田昭宏国土交通相(当時)の地盤である東京12区から出馬。絶頂からの転落は早い。約3万9千票で4候補中、最下位に沈む。次世代の党(当時)の元幹部が言う。
「田母神容疑者の支援には、石原慎太郎、平沼赳夫両氏が熱心でした。都知事選でやめておけば、田母神容疑者への期待感はまだ続いていたかもしれない」
 今回の事件をたどると、この衆院選前後に表面化した田母神容疑者の愛人問題にたどりつく。妻と泥沼の離婚訴訟となり、政治資金から「愛人に数十万円のコートを買った」との疑惑も取りざたされた。本誌が当時、田母神容疑者の携帯電話を鳴らすと、編集部に折り返し電話がかかってきた。
「今交際している女性を守らないといけない。(妻とは)もう不愉快で一緒にいられない。僕は逃げも隠れもしない。堂々とします」
 田母神容疑者とのやりとりは20分ほど。「これって本(週刊朝日)を送ってもらえるんですか」。過激な言動とは裏腹に、謙虚さが印象深かった。
 逮捕を受けて田母神容疑者側近はこう振り返った。
「田母神さんは、報酬を支払うことが、法に触れるなど深い考えはなかった。(同容疑で逮捕された)選対事務局長に『通例だ』と言われて、細かなことに口出ししなかったようだ。親分肌で格好つけて、『よう頑張ってくれたから、払ってやった』などと現場の運動員に口にしたから失敗したのです」
 逮捕前に聞いた田母神容疑者の言葉が忘れられないという。
「犯意がなく次期選挙も考えていた自分に、なぜこのタイミングで捜査なのか」
 空自トップにまでのぼりつめた“愛国者”は初めて、権力の怖さを知ったのかもしれない。(本誌・牧野めぐみ)
 ※週刊朝日 2016年4月29日号

 ◎上記事は[ dot. ]からの転載・引用です
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