<少年と罪>第3部 塀の中へ再び(特集) 実名・匿名割れ続け
中日新聞 2017/8/27 朝刊
メディアの少年事件報道は試行錯誤を続けてきた。重大事件のたびに議論を呼ぶのが、逮捕されるなどした未成年者を報じる上で「実名か匿名か」という問題だ。1999年に愛知県西尾市で、17歳でストーカー殺人を犯した加害男性が、30歳になった2012年に「通り魔傷害事件」を起こした際も、新聞各紙の判断は割れた。実名・匿名問題を検証するとともに、ストーカー殺人で犠牲になった少女の親友の思いを伝える。
■各紙・雑誌は
事件報道は実名が大原則だが、罪を犯した者が未成年者の場合、少年法は61条で氏名や住所、容貌など、個人の特定につながる記事や写真を新聞などに掲載することを禁じている。一方で、戦前の旧少年法にあった罰則規定は削除され、報道機関の自主規制に任されている。日本新聞協会は1958年の見解で、少年事件の場合は匿名を原則としつう、実名を出す場合を例外的に①犯人が逃走中で殺人などの凶悪な累犯が予想される②指名手配中の犯人捜査に協力する--と明記した。
68年、当時19歳の永山則夫・元死刑囚が4人を射殺した事件では、本紙を含む多くの新聞が「まれな凶悪犯罪」「歴史的事件の当事者」として実名で報道した。最高裁判決で示された死刑適用基準は「永山基準」と呼ばれ、その名前は語り継がれる可能性がある。
近年では死刑判決が確定した際に各紙で判断が分かれるケースが続く。最初の例は94年、当時18,19歳の少年3人が計4人を殺害した木曽川・長良川リンチ殺人事件だ。3人はいずれも2011年に死刑が確定。この際、匿名を維持したのは本紙と毎日だった。本紙は3人との面会や手紙のやりとりから内心の変化がうかがえるとして「現時点では少年法が定める配慮の必要性は消えていない」と論じ、毎日も再審や恩赦が認められて社会復帰する可能性に言及した。実名を選んだ朝日は「生命を奪われる刑の対象者は明らかにすべきだ」、読売は「社会復帰を想定した61条は事実上、意味を失う」と説明。同様の見解は、山口県光市の母子殺害事件や宮城県石巻市の3人殺傷事件の加害少年らの死刑が確定した際も示された。
少年時に罪を犯し、成人後に再び事件を起こした場合も判断が分かれる。西尾ストーカー殺人事件を起こした加害男性による通り魔傷害事件の際は、本紙と毎日は匿名で「元少年」などと報じ、朝日と読売は実名。この2紙は両事件の動機や手口に類似性がある点などを根拠にした。
再犯時、加害男性は30歳。ストーカー事件で殺害された水谷英恵(はなえ)さん=当時(18)=の父博司さん(68)は、少年法の考え方を尊重した上で「30歳にもなって『何が元少年だ』と思った。成人しても少年法で保護されることがあると気付いた」と、匿名報道を批判。実名を報じた新聞を評価する。
「成人後に再犯」の例では、88~89年の女子高生コンクリート詰め殺人事件の加害少年の1人が成人後に起こした別の監禁暴行事件など、本紙が実名で報道した例もある。
週刊誌などは「確信犯」的に実名を報じる例も少なくない。女子高生コンクリート詰め殺人で、逮捕された4人の実名を掲載した週刊文春の編集長(当時)は「野獣に人権はない」と述べ、波紋を広げた。写真誌フォーカスは97年、神戸連続児童殺傷事件で逮捕された少年の顔写真を掲載。週刊新潮は2014年の名古屋大の元女子学生による殺人事件や、15年の川崎市の中1男子リンチ殺人事件でも実名と顔写真を報じた。
■本紙見解
少年事件報道で「実名か匿名か」を巡る寺本政司・中日新聞編集局次長兼社会部長の見解は次の通り。
【少年時代に罪を犯し、成人後に再犯】少年犯罪は、少年法の理念を尊重し、「報道は原則実名」の例外として、匿名で報じている。この方針は成人後の再犯の場合も変わらず、記事で少年時代の犯罪に触れる場合は原則匿名としている。山口市・母親撲殺事件の場合は警察の調べに大阪市の姉妹殺害を認めたため、事件の重大性を考慮し、強盗殺人容疑で再逮捕された時点で実名に切り替えた。
【少年時代の罪で死刑判決が確定】木曽川・長良川連続リンチ殺人事件で、この問題を編集局内で本格的に議論した。「死刑が確定すれば更生の可能性が事実上なくなる」との理由で、実名への切り替えも議論された。だが再審や恩赦の制度があり、更生の可能性が直ちに消えるわけではなく、「少年法が定める配慮はなお必要」と判断し、匿名とした。
【少年時代の罪による死刑執行】現在、議論を進めているが、実名に切り替えることもありえる。死刑執行で更生可能性が消えるのはもちろんだが、国家が人の命を奪う究極の刑罰である死刑が「誰に対して行われたのか」を曖昧にすることはできないと考えている。
◎上記事は[中日新聞]からの書き写し(=来栖) なお、《識者は 実名は大事な情報 事件ごと慎重判断を 上智大・田島康彦教授》《発生18年「事件を、彼女を忘れないで》は省略
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〈来栖の独白〉
記事中「確信犯」という言葉について。誤用ではないか。従来(本来)は「思想犯」との意味だったと記憶する。
いつまでも再審だの恩赦だのと言っていては、「判決」や「確定」の意義がない。
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◇ <少年と罪>第3部 塀の中へ再び [1]更生の道 なぜ捨てた 17歳でストーカー殺人 出所後に通り魔事件(中日新聞2017/8/17)
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◇ 元少年A酒鬼薔薇聖斗『絶歌』と山地悠紀夫死刑囚(2009/7/28 刑死)『死刑でいいです』
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◇ 石巻3人殺傷事件 元少年の死刑確定へ 最高裁が上告棄却 2016/6/16 NHK・JNN…実名報道
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◇ 元少年に死刑判決 報道 実名か匿名か/光市事件 木曽川長良川リンチ殺人事件 /少年法の理念尊重貫く
◇ 光市事件 差し戻し上告審 元少年の死刑確定へ/毎日新聞・中日新聞は、これまで通り匿名で報道します。 2012-02-20
◆ 木曽川・長良川リンチ殺人事件「少年法が求める配慮の必要性から、中日新聞は3被告を匿名で報道します」 2011-03-11
◇ 少年の死刑判決と更生余地/しかしそれでもなお、更生の余地がある場合にその道を閉ざすことが相当だろうか 2012-02-26
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