<罪人の肖像>第6部・依存 (1)孤立 2022.3.22.

2022-03-22 | 社会

<罪人の肖像>第6部・依存 (1)孤立
 中日新聞 2022年3月22日Thu
 すがる相手は、もう誰もいなかった。昨年五月の夜。愛知県内の自宅マンションで、女性(30)は透明な袋に入った白い結晶を口に含んだ。かみ砕いて、水で流し込む。やがて視界がぼやけ、意識が薄れていく。「このまま死にたい」。でも、目は覚めた。三日後の朝、自分で一一〇番した。「私、覚醒剤を使いました」
 薬物での逮捕は初めてではなかった。最初は二〇一七年。前の夫と別れた後、同居していた交際相手に覚醒剤を注射された。拒めず、同じことが続く。怖くなって、この時も自ら通報した。常習者だった男は服役し、不起訴になった女性はホステスや風俗の仕事で食いつないだ。
 三年半後、男が刑務所から出てきた。「これから一緒にいてくれ」。孤独だった日々。プロポーズの言葉が心に染みた。指輪を受け取り、籍を入れた。
 だが、男は夫になった後も、覚醒剤をやめなかった。むしろ、エスカレートしていく。女性は何度も注射を打たれた。「旦那はもう、おかしくなっていた」。昨年四月、錯乱状態の夫は「妻と二人で覚醒剤を使った」と一一〇番し、また二人で捕まった。
 刑務所に戻ることになった夫。女性は夫に無理やり打たれたとして釈放され、一人でマンションに帰った。当時、仕事はなかった。夫と知り合ってからの消費者金融などへの借金は7百万円近く。「家賃も払えない。どうしよう…」。生活保護を受けようと考えたが、マンションの家賃の高さを問題視され、認めてもらえなかった。
 夫との乱れた生活のストレスからか、うつ病の診断を受けた。処方された薬を飲んでも、気分は落ち込んだまま。頼ったのが、ライター用のガスだった。「宙に浮いている感じになって、嫌なことをわすれられる」。袋にガスをためて、吸い込んだ。
 車の鍵を回し、衝動的に向かったのは県外にある実家だった。前の夫との間にもうけた小学生の子ども二人が暮らす。17年に覚醒剤の事件を起こした後、実母が引き取っている。「親権を取られた」。女性にとっては不本意だった。
 スマートフォンに保存している写真の子どもは、まだ幼い。構ってほしいのか、洗い物をせかすように、台所のカウンターに上ってママをのぞき込んでいる。どう育てていくか、当てはなかったが、「ごめんね」と謝って一緒に帰るつもりだった。朝、ランドセルを背負って出てくるはずの二人を車で待った。でも、気付いた実母に「警察呼ぶわよ」と追い返された。顔を見ることさえかなわなかった。
 覚醒剤を一気に飲み込んだのは、その直後だった。
「生活苦から自暴自棄になったからといって、正当化されるものではなく、特段酌むべき事情はない」ー。起訴後、被告人として立った法廷。この先のことで頭がいっぱいで、検察官の言葉は頭に入ってこなかった。自首した時、一人で生きていくぐらいなら、「刑務所暮らしの方が良い」と思っていた。昨年7月末に出された判決には執行猶予が付いた。
 その日のうちに釈放され、収容先の名古屋拘置所から出た。すると、一人の女性が待っていた。

             ◇

 薬物事件に対する世間の目は厳しい。第6部「依存」は、追い詰められた末に覚醒剤を使い、逮捕された女性(30)を取材した。目の前の現実から抜け出そうとする決意も、弱さを克服できず、「罪人」となった女性の実像に迫る。(連載はは全4回です)

 ◎上記事は[中日新聞]からの転載・引用、及び書き写し(来栖)です

 ◎上記事は[中日新聞]からの書き写し(=来栖)
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* 地域の信頼 再起の力(6)支え 罪人の肖像「中日新聞」2012/6/21


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