沖縄返還文書訴訟:日米密約認め、国に開示命令 東京地裁
沖縄返還(72年)を巡る日米間の密約文書を開示しなかったのは不当として、西山太吉・元毎日新聞記者(78)や学者、作家ら25人が国に不開示決定の取り消しなどを求めた訴訟で、東京地裁は9日、密約の存在を認めたうえで、文書の開示を命じる判決を言い渡した。「国民の知る権利をないがしろにする国の対応は不誠実」として原告1人につき10万円の慰謝料支払いも命じ、原告側の請求を全面的に認めた。
裁判所が密約の存在を明確に認めたのは初めて。
国側は昨年3月の提訴を受け、密約の存在を否定したが、9月の政権交代後に認否を留保し、文書は「探したが見つからなかった」と主張。判決は、返還交渉を担当した吉野文六・元外務省アメリカ局長の法廷証言や米国立公文書館で発見された資料の存在などを基に、外務、財務両省が文書を保有するようになったと認めた。
さらに「密約文書は存在や内容を秘匿する必要があり、保管先と思われる部署への機械的・事務的な調査では見つからない」と指摘。「廃棄するには組織的意思決定の必要がある」としたうえで「歴代の事務次官や局長らへの聴取をしなければ十分な調査をしたとは言えない」と国の対応を批判した。また、文書の存在の立証責任は請求者にあるとしながらも「過去のある時点で文書があったことを証明できた場合、行政機関が不存在を立証しない限り、文書は保有されていると推認される」と指摘。「既に廃棄されている疑念があるが、国がそれを証明できない以上、文書がないという主張は認められない」と国側の主張を退け、「漫然と不存在という判断をした」として不開示決定を違法と結論付けた。
原告を含む63人は08年9月、(1)米国の軍用地回復費用400万ドルの肩代わり(2)米国短波放送(VOA)の国外移設費1600万ドルの肩代わり(3)日本側による米国での無利子預金など沖縄返還協定の日本側負担(3億2000万ドル)を超える負担--を合意した三つの密約に関連する計7件の文書の開示を外務・財務両相に請求したが、翌10月に不開示。結審後の今年3月、外務省の有識者委員会と財務省は「広義の密約」を認めた。【和田武士】
▽財務省の話 厳しい判決になったと考えている。今後の対応は判決内容を十分検討し、関係省庁と協議した上で決定したい。
◇ことば 沖縄返還協定を巡る密約
71年の沖縄返還協定の交渉過程で、米軍用地の原状回復補償費などを日本側が肩代わりする密約があったことを示唆する記事を西山太吉・毎日新聞記者(当時)が執筆。西山氏は外務省女性事務官を唆して極秘電文を入手したとして、2人は国家公務員法違反罪で起訴(有罪確定)。日本政府は密約を否定し続けたが、00年以降、密約を裏付ける米公文書が明らかになり、06年には吉野文六・元外務省アメリカ局長が密約の存在を証言。外務省有識者委員会も今年3月、「広義の密約」と認めた。
毎日新聞2010年4月9日16時01分
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岡田外相、控訴を検討=沖縄密約「文書はない」
(時事通信社 - 04月09日 17:03)
岡田克也外相は9日午後の記者会見で、沖縄返還に伴う日本の財政負担をめぐる密約文書の開示を国に命じた東京地裁の判決について「そのまま受け入れることはないと思う。控訴の可能性を検討する」と表明した。外相は、「調査の結果、外務省に(該当の文書が)ないことは明白だ。それ以外の答えはない」と強調した。
これに関し、鳩山由紀夫首相は記者団に「新政権になって、密約に関してはオープンにしていこうという基本的スタンスがある。裁判は国にとって厳しい話になった」と不満を表明。今後の対応については「岡田外相とよく協議をして方向性を定めていきたい」と語った。
外相は昨年9月の就任時に藪中三十二事務次官に命じて沖縄返還に関する密約の調査を行ったが、吉野文六元外務省アメリカ局長がサインしたとされる、米軍基地跡地の原状回復費400万ドルの肩代わりに関する文書などは見つからなかった。外相はこうした経緯を説明した上で、「(判決は)徹底調査したことが十分反映されていないのではないか」と不満を示した。
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◇ 沖縄返還 密約訴訟 原告側全面勝訴 東京地裁 杉原則彦裁判長 2010/4/9 原告評価「気骨ある判決」
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