HP(http://www.k4.dion.ne.jp/~yuko-k/adagio/) 読書noteにupした。
4月27日購入以来、1歩進んで2歩さがるの如く、味わい味わいながらの読書。宮尾作品を時間かけて愉しんだ。何度も読んだ。巧い。上手い。旨い。
宮尾登美子著『東福門院和子の涙』
p413~
かくて寛永三年は暮れ、四年夏には帝ご譲位の発端とも相成りました紫衣事件が起こりました。
朝幕間の行きちがいは、姫君さま以下、われらにとりましてまことに悲しきこと、故に詳しく申上げる勇気はござりませぬが、一言でお話しすれば、これまで朝廷から臨済宗、浄土宗などの僧の方々にお与えになって参りました紫の衣を、幕府側が違法として剥奪したことにはじまるのでござります。
即ち、元和元年以降の綸旨は無効とされ、大徳寺の沢庵さま、玉室さまは流罪、という重いおいい渡しがあったのでござります。
このこと、帝におかせられましてはいかばかりご立腹でござりましたか、何しろ、ひとたび天子のおん口よりい出しお言葉は、いかなることあろうとも、もとへ戻すことはできぬ、といわれておりますほどの、神に近きご口宣にござります。
それを、元和以来、七、八十回にわたる綸旨を一挙に反故になさろうというのでござります故、帝におかせられてはこの上の御恥なき思いにあらせられたことと拝察されるのでござります。
そしてその上、帝の大み心をさらに傷ませられたのは、幕府による仙洞御所の着工にござりました。
仙洞御所と申しますは、ご承知の如く上皇のお住居にて、現在、上皇が在さねば、当今の帝がいずれお入りになるための御所にござります。
幕府が仙洞御所を新造するは有難きことなれど、ただ、後水尾さまは未だ三十三歳のお若さなれば、これは幕府よりの譲位の勧請、とお受取になられてもいたしかたござりませぬ。
考えようによりましては、もはや皇子も挙げられ、亡き大御所さまよりの目的も達しましたるにつき、当今さまはいさぎよくみ位を退かれたし、という圧力とも受取られかねないのでござります。
二条城行幸のあの朝幕お親しきご様子からわずか一年後、しかもこのたびは明らかに、綸旨をくつがえすという挙に出られましたもの故、中宮さまはじめわれら一同、如何身を処してよいものやら、ただただ困惑いたすのみにござりました。
手練といえば、隆慶では、一貫して秀忠は悪党ですが、宮尾さんの描く秀忠はどうですか。『忠輝』なんかでは、お江与も殺伐とした風流音痴です。ゆうこさんのことだから、隆慶の『影武者』や『花・火』なんかを重ねて読まれたのではないですか。
いつも、コメント、心より感謝しています。ありがとうございます。
『東福・・・』では、秀忠夫妻は、この上なくご立派な温かきお人柄にあらせられまする♪ 裏柳生などを刺客に差し向ける酷薄な人物ではござりませぬ(笑)
私は、隆さんの視点の方が好きですし、実際、秀忠が邪魔者(兄弟)を同時期に始末して2代を手に入れたのではないかと思っています。
宮尾さんや瀬戸内寂聴さん、杉本苑子さん・・・、人の悲しみとか心の襞を巧みに描く作家が、今何人いるでしょう・・・。