秋葉原無差別殺傷事件〈加藤智大被告〉第5回公判2010.3.11〈警察官・被害者〉証人尋問 -上-

2010-03-11 | 秋葉原無差別殺傷事件

秋葉原無差別殺傷事件〈加藤智大被告〉第5回公判2010.3.11〈警察官・被害者〉証人尋問<産経ニュース2010/3/11>
 裁判長「それでは開廷します」
 《証人:現場の実況見分を行った男性警察官。》
 裁判長「宣誓の趣旨はお分かりですね」
 証人「はい」
 検察官「証人は警視庁に所属していますか」
 証人「はい」
 検察官「(秋葉原を管轄する)万世橋警察署に勤務していたことはありますか」
 証人「はい」
 検察官「いつですか」
 証人「平成19年10月25日から平成21年7月17日までです」
 検察官「刑事組織犯罪対策課に所属していましたか」
 証人「はい」
 検察官「事件捜査で実況見分に加わりましたか」
 証人「はい」
 検察官「何をしましたか」
 証人「現場の写真撮影を担当しました」
 《証人が平成20年6月8日の事件後に、現場の実況見分を行った警察官であることを確認した上で、検察官が詳しい質問を始める》
 検察官「では証拠提出済みの写真をお見せします」
 《裁判官には複数の写真が配布されるが、傍聴人席からは見えない》
 検察官「これらは証人が撮影した写真で間違いありませんか」
 証人「はい、間違いありません」
 《法廷内の大型モニターに、事件現場となった秋葉原の交差点の地図が映し出される。検察官は、写真の撮影位置と写っている被害者の位置を、証人に確認していく》
 検察官「この写真は、あなたがどこから撮影したものですか」
 証人「交差点の南辺りから、(大型家電量販店)ソフマップに向けて撮影したものです」
 検察官「あなたが撮影した位置を丸(で囲った)2、被害者の位置を四角(で囲った)2、とお書き入れください…」
 検察官「この現場見取り図は、どのように作成されたものですか」
 証人「(警視庁)本部捜査員を、私が補助して作成したものです」
 《写真と一緒に、複数の現場見取り図が証人や裁判官に配られているようだ。ただ、傍聴席からは見えない》
 検察官「この見取り図は、どの写真撮影位置で作成したものですか…」
 検察官「この写真の見取り図はないのですか」
 証人「それはありません」
 検察官「なぜ、ないのですか」
 証人「それは作成を忘れてしまいました」
 検察官「見取り図のないこの写真に写っている被害者は、誰ですか」
 証人「Bさんと聞いております」

 《警察官の退廷後、今度は検察官による被害者Bさんの供述調書の読み上げが行われた。Bさんは加藤智大被告にトラックではねられ、負傷したとされる被害者》
 検察官「被害者Bさんの供述調書で同意部分だけの読み上げを行います」
 検察官「私は平成20年6月8日の昼間、秋葉原の交差点に同じ大学に通っていたA君とC君、川口隆裕君=当時(19)=と4人でいました。私とC君は交差点に入ってきたトラックにはねられそうになりました。A君と川口君はそのトラックにはねられ死亡しました」
 「私はA君とC君とは同じ大学に通う友人で、川口君は大学は違いましたが、同じ高校に通っていました。私は川口君と3年間同じクラスで部活動も同じでした」
 「私は人の話を聞くより、話すのが好きでしたが、川口君は人の話をよく聞く方だったので仲が良くなり、ゲームセンターやカラオケでよく遊びました」
 「私の家にも川口君はよく泊まりに来ました。先に寝てしまった私が起きると、川口君がパソコンのゲームをしていたのを覚えています。お互いの存在が空気のようで、親友でした」
 《事件の被害者となった川口さんの思い出が、検察官の口を通じて淡々と語られる。無二の友人を奪われた無念さが伝わってくる。一方、加藤被告は無表情のままうつむいている。調書の中のBさんは、亡くなったAさんの思い出について述懐する》
 検察官「A君とは大学で仲良くなって、私たちのムードメーカーのような存在でした。A君とC君は大学の食堂で任天堂のゲームでよく遊んでいました。A君とC君は同じマンガを集めていて、次の新作を楽しみにしていました」
 検察官「アニメ映画を見るため、A君、C君、川口君と私の4人でJR新宿駅東口に集まりました。見終わった後、『戦闘シーンはよかったね』と感想を言いながら、ぶらぶらしていました。誰からともなく『秋葉原に行こう』ということになりました」
 「午前11時ごろに秋葉原に着きました。A君が『つけ麺を食べに行こう』と言ったので、そこで食事をしました。そのあと、パソコンショップに入ってぶらぶらしていました」
 「そのあと、A君は『家に帰る』と言い、川口君も『お弁当屋でバイトがある』と話していました。事件があった今回の交差点のところにさしかかったころ、私たち4人はかたまって歩いていました。C君が私の左側を、その後ろをA君と川口君が歩いていました」
 「後ろのA君が私に『僕の下の名前、分かる?』と聞いてきたので、考えていました。歩道の前で信号が変わるのを待っていました。反対側の人が歩いてきたので、こちら側も歩き始めました。信号が青に変わったのは確認していませんでしたが、一斉に歩き出したので、青に変わったと思っていました。このとき、『A君の名前が何か』と考えていたので、3人とは話していませんでした。3人は映画の感想を話していたようでした」
 《男性被害者Bさんの供述調書の読み上げは、被害に遭う直前の状況で一度、途切れた。弁護側が証拠採用に同意しなかった事件の核心部分は読み上げられず、検察官は、トラックにはねられ、刃物を持った加藤被告が現れた直後の部分から読み上げを再開した。》
 検察官「それで私は刃物を持っている男がいなくなったと思い、川口君とA君を探し始めました。川口君の周りには人が何人かいて、心臓マッサージをしていました」
 「川口君の頭の辺りはべっとりとした血が血だまりになっていて、目は瞳孔が開いた感じになっていました。素人目にも、とても危ない状態と思いました」
 「さっきまで一緒に話しをしていたのに、まるで悪い夢を見ているみたいで現実と思えず、どうしてよいか分かりませんでしたが、とにかく『川口、川口』と叫びました。C君も同じように川口君の名を呼んでいました。でも反応はありませんでした」
 「その後A君を見つけ、周りの4~5人の人とA君をあおむけにし、その場にいた人がA君に心臓マッサージを始めました。A君は川口君と同じように口から血が流れ、着ていた服は、はだけていました。さっきまで話していたA君がこんな状態になっていることが信じられませんでした」
 「A君は目を閉じていたので(瞳孔が開いていた)川口君より良い状態なのではと思いました。助かってほしいと思いながらA君の名前を呼びました」
 「川口君とA君の間を行ったり来たりしました。川口君の生気のない目が私を見つめているように感じました。『助かるのでは』と思い、助かるように祈っていました」
 《その後、けがをしていたBさんはAさんとともに病院に搬送され、手当を受けた。その病院でAさんの容体がBさんに告げられた》
 検察官「A君について『非常に厳しい』と伝えられました。私はとっさに逃げることができましたが、逃げられなければ殺されたはずです」
 「その後、私は川口君とA君の通夜や告別式に参列し、それぞれ弔辞を読ませていただきました。まだ2人が亡くなったことが信じられない気持ちです」
 「事件後にカラオケに行ったとき、川口君がその場にいないことに気付き、亡くなってしまったんだと思いました。それでもまだ信じられない気持ちです」
 「大学の食堂では今もA君がいつものようにニンテンドーのゲーム機DSを持って現れるのではないか、と思います」
 「川口君とA君と会い、他愛もない話しをしたいです。2人が続きを楽しみにしていたマンガや映画を見せてあげたいです。2人はまだ若くやりたいことがたくさんあったはずです。犯人には当然極刑を望みます」
 「犯人は人生に絶望していたという報道がありましたが、『どうして川口君やA君を巻き込んだのか』『どうして1人で死ななかったのか』と言ってやりたいです」
 《Bさんの証人尋問。宣誓の後、検察側尋問》
 検察官「平成20年6月8日午後0時30分ごろ、ソフマップ前の交差点で、あなたは信号を無視して突っ込んできたトラックにはねられ、けがを負いましたね」
 証人「はい」
 証人「私の左隣にCさん、後ろに川口君とA君がいました」
 検察官「前の2人と後ろの2人はどのくらい離れていましたか」
 証人「1メートルも離れていなかったと思います」
 検察官「横断歩道を横断中に何か起きましたか」
 証人「私たちの進行方向にいる人たちがにわかに騒ぎ出して様子がおかしく、右手方向を見たら、トラックが突っ込んでくるのが見えました」
 検察官「あなた方は、まだ横断歩道を渡りきっていませんでしたか」
 証人「はい」
 検察官「トラックはどんな音を出していましたか」
 証人「カーブを速度を落とさずに曲がるような『キュルルルル』という音が聞こえました」
 検察官「どのくらい速度が出ていたように見えましたか」
 証人「50~60キロほどだったように思います」
 検察官「ブレーキをかける様子はありましたか」
 証人「ありませんでした」
 検察官「そのとき、あなた方とトラックとの距離はどの程度でしたか」
 証人「5~6メートルほどだったと思います。そのとき、Aさんか川口さんか分かりませんが、後ろにいた人が自分の背中を押しました。左肩の少し下だったと思います」
 検察官「今、考えてみて、なぜ背中を押されたと思いますか」
 証人「自分を助けてくれたような気がします…」
 検察官「危険を知らせてくれたと」
 証人「はい」
 検察官「トラックが近づいてきて、どうなりましたか」
 証人「よけきれず右の腰のあたりに衝突しました」
 検察官「衝突の瞬間、何かを感じましたか」
 証人「殴られたような衝撃を腰のあたりに感じました。気付いたら交差点に倒れていました」
 検察官「横断歩道上で、進行方向の秋葉原寄りに倒れていたと」
 証人「はい」
 検察官「その後、どういう行動をとりましたか」
 証人「交差点を渡りきって歩道まで歩くと、知らない人が声をかけてくれました。Cさんも交差点からやってきて、同じように声をかけてくれました」
 検察官「Cさんは何と声をかけてくれましたか」
 証人「『大丈夫か?』と声をかけてくれました」
 検察官「その後は」
 証人「Cさんに『Aさんと川口君を探しに行こう』と言われましたが、自分は腰を打って歩けそうになかったので、Cさんに先に行ってもらいました」
 検察官「満足に歩ける状況ではなかったと」
 証人「はい」
 検察官「交差点はどういう状況でしたか」
 証人「かなりの人が集まってきていて、人だかりができていました」
 《加藤被告の表情に変化はない。背中を丸め、うつむいたままで証言に耳を傾けている》
 検察官「その後、何か変わったことは」
 証人「人だかりの方向から『刃物を持った男がいるから逃げろ』と声が聞こえて、皆一斉に逃げ出しました。人だかりがなくなり、安全が確保されたと思い、Cさんと合流して川口君とAさんを探しに行きました。人が遠くに、蜘蛛(くも)の子を散らすように必死に逃げていくのがみえました」
 検察官「川口さんとAさんはみつかりましたか」
 証人「はい」
 検察官「川口さんの様子は」
 証人「あおむけに倒れていました。瞳孔が開き、素人目に見ても危険な状態に感じました。あたりには血だまりができていました」
 検察官「Aさんはどういう状態でしたか」
 証人「うつぶせに倒れていました。救助に駆けつけてくれた人と一緒に、Aさんをあおむけにしました。川口君と同じように、(周辺に)血だまりができていました。Aさんは口から血を吐いて、かなり深刻な状況だと思いました」
 検察官「川口さん、Aさん以外に倒れている人はいましたか」
 証人「3人ほど倒れていました」
 検察官「あなたが記憶しているだけで川口さん、Aさんを含め5人倒れていたということですね」 証人「はい」
 検察官「その後、どのような行動をとりましたか」
 証人「川口さんとAさんの間を行き来して、名前を呼んだりしました」
 検察官「必死に声をかけて励ましていたと?。どのようなお気持ちでしたか」
 証人「まだ自分の身に降りかかったことが信じられない。現実味を感じることができませんでした」
 検察官「救急車が到着するまで、記憶していることはありますか」
 証人「周囲の方が何人も駆け寄って、助けてくれました。川口君やAさん、周りに倒れていた人に応急処置をしていました」
 「川口さんに心臓マッサージをしている人がいましたが、他の方が『肋骨(ろっこつ)が折れている可能性がある』と言って、AEDを持ってきてくれました」
 検察官「Bさんも、最初は腰を打って歩けなかったのですよね」
 証人「はい。でも、そのときはもう痛みを忘れていました」
 検察官「足は引きずって歩いたのですね」
 証人「…はい」
 検察官「Aさんと川口さんが亡くなったのはどこで知りましたか」
 証人「自宅のテレビで知りました」
 検察官「どう感じましたか」
 証人「やはり、信じられないという思いで…。これは現実なのか、と思いました」
 検察官「川口さんとAさんの葬式に行きましたね」
 証人「はい」
 検察官「そのときの気持ちはどうでしたか」
 証人「友達が亡くなったので、喪失感というか…むなしさがあふれ出てきました」
 検察官「葬式で、2人の姿を見ましたか」
 証人「はい」
 検察官「どのような様子でしたか」
 証人「川口君は、見たのは顔だけで、化粧(死に化粧)もしていたので、別人のように見えました。A君は、顔中アザだらけで…とても痛々しいと思いました」
 検察官「被害の様子を今でも思いだしますか」
 証人「はい。今でも川口君やA君が夢に出てきて、危ない状態から回復して、話をするような夢を見ます」
 検察官「どのように話しかけるのですか」
 証人「自分の心境を…。『心底、良かったな』と、2人に話しています」
 検察官「夢から覚めたとき、どのような気持ちですか」
 証人「そうですね…。夢を見ているとき、すごくうれしかったのもあるし、夢から覚めて、『もう2人はいねーんだな』と思って…。悲しさというか、むなしさが、すごく出てきます」
 検察官「2人の様子を思いだしますか」
 証人「はい」
 検察官「どういう場面ですか」
 証人「事件直後に、2人が倒れているところを思いだします」
 検察官「2人を失って、今どう感じていますか」
 証人「やはり、喪失感…それと、憤りも感じますし…。むなしさ、悲しさが一番です」
 検察官「憤りとは?」
 証人「自分の日常を木っ端みじんに壊されたし、それに対する怒りです」
 検察官「今でも車を見て『怖い』と感じることはありますか」
 証人「近くでトラックなどが高速で走っているのを見ると、かなり怖い思いです」
 検察官「友人2人の命を奪われて、今、裁判が行われています。何か思うことはありますか」
 証人「被告は今、何を考えて臨んでいるのかなと思います。2人を殺されたし、何でいま、のうのうと生きているのかな、と思います」
 検察官「どのような処罰を望みますか」
 証人「死刑を望んでいますが、安易に死んで逃げる、というか、楽になるようなことでいいのかと、疑問には思います。ですが、死刑以外では、満足できないという思いです」
 《検察側質問終了。続いて弁護側尋問》
 弁護人「信号待ちをしていたとき、先頭の人との距離はどれくらいでしたか」
 証人「覚えていません」
 弁護人「どのくらいの位置で信号待ちをしていましたか」
 証人「自分たち以外に信号待ちをしていた人はたくさんいたので、(待っていた人の中では)先頭ではなかったと思います」
 《質問は、トラックにはねられた後の状況に移る》
 弁護人「気づいたらうつぶせだったそうですが、トラックがどう走っていったかは見えましたか」
 証人「見えていません」
 弁護人「刃物を持った男がいると(現場で)聞いたとのことですが、自分では見ましたか」
 証人「見ていません」
 弁護人「自分で見てはいないんですね」
 証人「はい」
 弁護人「被告人がなぜ事件を起こしたと聞いていますか」
 証人「まあ…インターネットで軽く見るぐらいのことしか知らないです」
 弁護人「ご自身の供述調書で、『(被告は)人生をあきらめていたらしい』と書いてありますが、そういう認識でいいんですか」
 証人「そうですね」
 弁護人「被告人の手紙をごらんになりましたか」
 証人「見ていないです」
 弁護人「なぜ見ていないんですか」
 証人「何を書いていても、満足というか…そういう…正の感情は…。負の感情以外はわかないから」
 弁護人「将来も手紙を読む気はありませんか」
 証人「いえ。いつか読むつもりですが、いつかは決めてはいません」
 弁護人「先ほど、『死刑以外は満足しないが、死んで楽になるのは…』とおっしゃいましたが、それをもう少し説明していただけますか」
 証人「もっと苦しんでじゃないが…。被告に…もっとつらい思いを…」
 村山裁判長「午前中はここまでです。午後は供述調書の取り調べを行った後、証人尋問を行います」

 ◎上記事は[産経新聞]からの転載・引用です

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 秋葉原無差別殺傷事件〈加藤智大被告〉第5回公判2010.3.11〈被害者〉証人尋問 -中-


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