秋葉原無差別殺傷事件〈加藤智大被告〉第5回公判2010.3.11〈被害者〉証人尋問 -中-

2010-03-11 | 秋葉原無差別殺傷事件

秋葉原無差別殺傷事件〈加藤智大被告〉第5回公判2010.3.11〈警察官・被害者〉証人尋問 -上- からの続き
 《被害者を救助している途中に刺され、全治約6カ月の重傷を負った元タクシー運転手の△△さん(法廷では実名)の供述調書を検察官が読み上げる》
 検察官「(事件当日の)午前10時に私は会社に出勤し、午前11時前にタクシーで会社から出ました。何人か客を乗せ、最後の人を秋葉原で降ろした後、日比谷方面に向かおうと神田明神通りを神田明神方向に向かい、中央通りとの交差点で赤信号のため停止しました」
 《この後、△△さんは加藤被告に刺されるが、この部分の供述調書は弁護側が、証拠採用に同意しなかったため、法廷では読み上げられない。検察官は、刺された直後の部分から、読み上げを再開する》
 検察官「私は『A3』のあたりで倒れていました」
 《調書の途中がないため、「A3」が何を意味するかははっきりしない。》
 検察官「このまま血が流れ続けると死ぬと思い、左手で傷口の部分を押さえていました。救急車がくるまで20~30分くらい路上に倒れていたと思います。長く感じました」
 検察官「私は交通事故にあった人たち(事件の被害者)を助けに行っただけなのに、まさかこんな目に遭うとは思いませんでした。事故の救護に向かった人を両刃のナイフで切りつけるなんてひどいと思います」
 「私は搬送先の病院で3日間意識がありませんでした。医者からは『よくがんばりましたね』と言われました。死んでもおかしくない傷を負わされたので、被告には厳しい処罰を望んでいます。何の関係もない人を切りつけるなんて卑怯(ひきょう)としか思えません。(犯行動機の1つとして)『誰も相手にしてくれなかった』と言いますが、そんなのは甘えだと思います。7人が死んで多くの人がけがをしているのだから死刑を望むしかないです」
 《調書の読み上げは終わり、△△さん本人が出廷。検察側による証人尋問が始まる。》
 検察官「交差点で車を停車した後はどういう行動を取りましたか」
 証人「停止して(客を探そうと)周りをきょろきょろしていたら、『ドーン』という音が聞こえ、『キャー』という叫び声が前方から聞こえました。そちらの方を向いたら(加藤被告の運転していた)トラックが見えました」
 検察官「それからトラックはどのような動きでしたか」
 証人「私の方に向かって直進してきました」
 検察官「トラックはブレーキをかけている様子はありましたか」
 証人「そうは見えませんでした」
 検察官「騒ぎを見て何が起こったと思いましたか」
 証人「単に交通事故が起こったのだと思いました」
 検察官「トラックにはねられた人はいましたか」
 証人「私から見て右前方の方向に2人いました」
 検察官「2人はどういう状態でしたか」
 証人「倒れて寝っ転がっている状態でした」
 検察官「トラックが走り去った後、あなたはどうしましたか」
 証人「私は救急救命の講習を受けたことがあったので、救助をしようとAさんのところへ行きました」
 検察官「Aさんの様子はどういう感じでしたか」
 証人「顔がぱんぱんに腫れていて、年齢が分からないほどでした。口、鼻、耳から血が流れていて、何か液体のような物も出ていました」
 検察官「Aさんを見てどのように判断しましたか」
 証人「私の持っている知識と技術では処置できないと思いました」
 検察官「それを見てどう考えましたか」
 証人「下手に私が手を出すより、ほかに私が何とかできる被害者がいないかと思って、Bさんの方に向かいました」
 検察官「Aさんのところにはほかに誰かきていましたか」
 証人「先に女性がきていて『大丈夫』と声をかけていました」
 検察官「女性とは何か話しましたか」
 証人「『(Aさんを)救命するのは無理だ。何とかできる人のところに行こう』と話しました」
 検察官「他の人を助けることにしたんですね。どこに向かったのですか」
 証人「はい、ほかの場所に倒れていた男性のところに向かおうと思い、立とうとしました」
 検察官「そこで立とうとしたとき、どうしたのですか」
 証人「はい、『ドン』と後ろから、人のようなものがぶつかりました」
 検察官「どっちの方向からぶつかったんですか」
 証人「右後ろのような感じがしました」
 検察官「それが何か分かりましたか」
 証人「すぐは分かりませんでしたが、人がぶつかったようでした」
 検察官「それからどうしたのですか」
 証人「後ろを振り返りました」
 検察官「そこで、ぶつかってきたらしい人を見つけることができましたか」
 証人「左の方に、ぶつかったらしい人が、ふらっと歩いているのが見えました」
 検察官「どんな様子でしたか」
 証人「はい、警察官に向かって、右手でナイフのようなもので刺している人がいました」
 検察官「犯人らしき人が、警察官を刺す姿をたまたま見たのですか」
 証人「はい」
 検察官「どのような様子でしたか」
 証人「警察官の右胸を刺していました」
 《刺されたのは、加藤被告を取り押さえるために立ち向かった秋葉原交番の巡査部長のようだ。巡査部長は、対刃防護服を着ていたため、幸い、負傷はしなかった》
 検察官「ところで、あなた自身はどのような状態でしたか」
 証人「はい、警察官が刺されているのを見ているうちに、自分の下腹のあたりが熱くなり、体が支えにくくなって、自分のシャツを見たら右胸から血が噴き出していました」
 検察官「それでどのように対処したのですか」
 証人「手で止血をしました」
 検察官「血の量は多かったんですか」
 証人「かなりの量だったと思います」
 検察官「見ましたか」
 証人「はい。自分の鼓動にあわせて、血がシャツを突き上げるように吹き出していました」
 検察官「そこで、あなたはどのような行動に出たのですか」
 証人「『あいつが犯人だ!』と何度も叫びましたが、刺されたところに激痛が走ってその場に倒れ、のたうち回ってしまいました」
 検察官「そのときの気持ちで、覚えていることはありますか」
 証人「私は過去に交通事故で、左ひじを複雑骨折してしまったことがあるのですが、そのときとは比べようもないほどの激痛が走りました。転がっていても、痛みがあまりにひどくて、のたうち回ってしまう痛みでした」
 検察官「周りの様子は覚えていますか」
 証人「医者だという人が来てくれて、『動脈が切れています』と言われたのを覚えています」
 検察官「救急車で搬送されたときの記憶はありますか」
 証人「何となくあるんですが、病院に着いた後は記憶を失っていました」
 検察官「あなたは3日間、意識不明の状態が続いたのでしたね。危険な状態だったんですか」
 証人「意識が戻った後、兄から『6000CCの輸血を受けた』と聞かされましたので」
 検察官「では、この写真を見てください。事件当時の現場の写真です」
 検察官「この写真に、犯人やあなたはいますか」
 証人「はい」
 検察官「では○をつけてください」
 証人「はい」
 検察官「こちらの写真を見てください。このパンツ姿で倒れている人が誰か分かりますか」
 証人「私です」
 検察官「覚えていますか」
 証人「いえ、全然記憶にありません」
 《けがを負った△△さんは、応急処置のために服を脱がされていた》
 検察官「では、この写真を見てください。この路上に倒れている人は誰か分かりますか」
 証人「はい、私が最初に助けに行こうと思ったAさんです」
 検察官「Aさんはどのような様子でしたか」
 証人「ええ、さっきも言いましたが、顔はぱんぱんに腫れ上がり、目、鼻、口、すべての体の穴からは血や体液のようなものが流れ出し、とても大変な状態でした」
 検察官「(刺された後の)被害状況や後遺症について聞きます。病院で意識が戻ったあと、病院でどんな話をしましたか」
 証人「友人たちに『生きていて良かった』と言ってもらったのを覚えています」
 検察官「みなさん、喜んでいましたか」
 証人「はい」
 検察官「痛みについてのエピソードはありますか」
 証人「はい。手術から3日たって目が覚めましたが、そのとき、両腕にあざがありました」
 検察官「なぜあざができたのですか」
 証人「あとで兄に聞いたら、『痛みで暴れるものだから、両腕をベッドに縛って手術した。そのときのあざだろう』と話していました」
 検察官「現在、仕事はしていますか」
 証人「昨年9月いっぱいで退職しました」
 検察官「なぜ、退職されたのですか」
 証人「事件後、労災が認められ生活費の援助を受けていましたが、その後に労災が打ち切られると、暮らしていけなくなったので、仕事を辞め、ハローワークに行くようになりました」
 検察官「痛みはまだありますか」
 証人「腕にしびれが残っています」
 検察官「それで、タクシーの運転が続けられない、と…」
 証人「はい」
 検察官「今は無職ですか」
 証人「はい。こんなご時世で、年齢も年齢ですから…。今は、区からヘルパーの仕事を勧められて学校で資格の勉強をしています」
 検察官「痛みは残っていますか」
 証人「はい。1日に10回ぐらい痛みを感じます。1回4、5秒ぐらい続きます」
 検察官「具体的には、どんな痛みですか」
 証人「傷は治ったのですが、手術の時に神経を切っているので…。押さえつけられるような痛みです」
 検察官「今回の裁判を傍聴されていますが、痛みで苦労したことはありませんか」
 証人「痛くなって冷や汗が止まらなくなったことがありました」
 検察官「痛みやしびれの治療はしていますか」
 証人「労災が終わった以降は、治療を受けていません。高額治療でもありますし…」
 検察官「昨年9月から治療を受けていないということですね」
 証人「はい」
 検察官「(加藤)被告についてどんな思いですか」
 証人「これまでと変わりませんが、(亡くなった被害者の)遺族にすれば家族を失った悲しみは大きい。極刑しかないと思います
 検察官「事件で亡くなった人にはどんな思いですか」
 証人「事件後は現場で献花してご冥福(めいふく)を祈っています。遺族には思いやることしかできません。励ますことはおこがましくて…。何とか乗り越えてほしいです」
 検察官「事件後、携帯電話のサイトに加藤被告が書き込んだ言葉が明らかになりましたが、ご覧になりましたか」
 証人「はい。こんなくだらないことで、尊い命が奪われてしまったのか、と改めて遺族がかわいそうだと思いました」
 検察官「尋問を終わります」
 《続いて、弁護人反対尋問》
 弁護人「△△さん(法廷では実名)は、事件が起きた交差点でトラックの運転手の顔を見ましたか」
 証人「見ていません」
 弁護人「△△さんは交差点で倒れた人がトラックとぶつかるところを見ましたか」
 証人「見ていません」
 弁護人「この法廷では、被害者がトラックのタイヤに踏まれたところを見たと証言する人もいましたが、そういう状況は見ていませんか」
 証人「見ていません」
 弁護人「トラックについては、どういう状況を見ましたか」
 証人「私の横を通り過ぎるのを見ました」
 弁護人「(加藤被告に刺される際に)『体がぶつかった』と証言されましたが、どんな衝撃でしたか」
 証人「体がぶつかったような衝撃でした」
 弁護人「(男が)制服を着た人(巡査部長)を刺そうとしたとき、ナイフは見えましたか」
 証人「見えませんでした」
 弁護人「歩行者天国にはどれだけの人がいましたか」
 証人「かなりの人がいました」
 弁護人「手紙を送らせていただきましたが、読まれましたか」
 証人「読みました」
 弁護人「どのような印象を持たれましたか」
 証人「字がきれいで、文章も上手でした。なぜこんな犯罪を起こしたのか疑問に思いました」
 弁護人「読む前と後で印象は変わりましたか」
 証人「疑問だけが強くなりました」
 弁護人「なぜこのような事件を起こしてしまったのだと思いますか」
 証人「世間一般に言われているように、本人の甘さを感じます。そういう思いをしている同じ世代の人たちはたくさんいる。なぜ加藤被告だったのかと思います」
 弁護人「加藤被告が掲示板に書き込んだ記述についての検察官の質問に、『くだらないことだと思う』とおっしゃいましたが、どのような点をそう思ったのですか」
 証人「『自分がブスだ』とか『友達が離れていく』というところなどに感じました」
 弁護人「今までの裁判も傍聴されていますよね。それはどういう気持ちからですか」
 証人「(傍聴しなければ)自分が体験した事実だけしか見えなかった。もっと深く事件のことを知りたいと思いました」
 弁護人「弁護士を通じて加藤被告あてにお手紙をくださいました。これはどういう気持ちから書いたのですか」
 証人「事件を知るには加害者を知る必要があると私自身で判断して、こういう形をとらせてもらいました」
 弁護人「午前中の証人尋問で(別の証人から)『単に死刑になるだけでなく、苦しんでから』という話がありましたが、どう思いますか」
 証人「それは人それぞれで…。被害にあった立場がそれぞれ違います。それはそれで…」
 弁護人「あなたは死刑までにどういう過程をふんでほしいと思いますか」
 証人「どういう過程って…。裁判制度にのっとって進んでいけば…。私はその流れを見ていきたい、そういうふうに思っています」
 弁護人「終わります」
 《続いて、検察官による被害者Gさんの供述調書の読み上げ。Gさんは腹を刺され、重傷を負った女性。検察官は「同意部分を朗読します」》
 検察官「私は平成20年6月8日午後0時半すぎごろ、千代田区内のソフマップ秋葉原本館近くの交差点内で見知らぬ男におなかを刺され、大けがを負いました」
 「その日は友人たちとテニスをする予定があり、午前11時ごろ秋葉原で友人と合流し、テニスに行く約束をしていました。携帯電話で連絡をとり、11時30分ごろ、ソフマップ秋葉原本館で友人と会いました」
 「その日、私は短い袖のベージュ色のカットソーに紺色のズボンを着ていました。テニスラケットが6本入る大きめのラケットバッグを持っていました」
 「友人がパソコンの部品を引き取ってもらうというので、店内をぶらぶらして時間をつぶしていました」
 「この後、不同意部分ですので朗読を控えます」
 《読み上げが再開されたのは、Gさんが加藤被告に刺された後、座り込んだ場面から》
 検察官「友人が『座った方がいいよ』というので、私は地面に座りました。何人かの人が周りに来て、医者だという男性が『寝て頭を低くした方がいい』というので、私はあおむけに寝て、救急車が来るのをおなかを押さえて待っていました」
 検察官「傍らに友人と見知らぬ男性がいて、私のおなかを押さえたり脈をとったりしていました。友人以外の2人は初めて会う人で、今も名前も分かりません。そのときもありがたいと思いましたが、今も感謝しています。救急車が来るまで痛みは感じませんでした」
 「私より、交通事故に遭った人(トラックではねられた人)を早く診てほしいと思いました。救急車で病院に運ばれるまでがとても長く感じました」
 「病院で診察を受け、傷が背中まで達していたことを知り、とても驚きました。そこで右の腎臓を摘出しなければならないと聞きました。私はほかに刺されたり、車にはねられたりした人のことが心配で、意外なほど大きなショックは受けませんでした」
 「自分はよくこれだけで済んだと思いました。手術を終えると、腎臓の摘出だけで済んだと知り、不幸中の幸いだと思いました」
 「その後、犯人がトラックで交差点につっこみ人をはね、ナイフで次々と人を刺し、大勢の人を傷つけたと知りました」
 「私は悔しい気持ちでいっぱいです。犯人のこともよく知りません。今はまだ、犯人のことは考えられません…」
 《調書の読み上げが終わると、裁判長が休廷を告げた》

 ◎上記事は[産経新聞]からの転載・引用です

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