曲がり角に立つ中国の工場
2010/6/9 日経新聞 社説
日本企業にとって生産拠点である中国の工場が曲がり角に立っている。ホンダは8日、広東省にある2つの自動車工場の操業を停止することを決めた。中国にある子会社の部品工場で、賃上げを求める従業員がストライキに入ったためだ。
ホンダは先週まで、別の部品工場でも賃上げを要求する従業員による職場放棄に見舞われ、2週間近く中国での自動車生産の休業に追い込まれていた。この部品工場の再開に当たっては、ホンダは賃金を約2割引き上げると提案し従業員を説得したが、賃上げを求めるストがさらに広がっている格好だ。
ホンダだけの問題ではなく、根は深いところにある。
最近では米アップルのiPad(アイパッド)などを受託生産する台湾の大手企業、鴻海(ホンハイ)精密工業が中国での賃金を5月までに比べ33~122%引き上げることを決めた。生産拠点の中国工場で自殺者が相次ぎ、内外から批判が高まったからである。
中国の労働争議は2009年に60万件と06年の2倍に達した。経済の改革開放や一人っ子政策のもとで以前より豊かに育った世代が労働市場を担い始め、勤労意欲が変化しだしている。解雇の条件を厳しくするなど労働者の権利を強めた法が08年に施行され、働き手の意識を変化させたともいわれている。
中国の賃上げは避けられない流れである。労働組合の全国組織である中華全国総工会によれば、09年までの5年間に賃金が上昇していない労働者が全体の4分の1を占めている。経済は成長しても労働者への配分は低く抑える。そんな経営手法は通用しなくなっている。
日本企業は労働市場の変化と向き合うことになる。いま必要なのは従業員がどんな生活をし、不満を持っているかをきちんと把握することだ。問題があれば待遇や職場環境の見直しを進める必要がある。
中国は生産拠点ばかりでなく、販売拠点としての重要性がいっそう高まっており、日本企業にとって引き続き成長のけん引役である。中国の経済社会の変化を踏まえ、事業が安定的に続けられるよう細心の注意で経営にあたることが重要だ。
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【自動車産業ニュース】
ホンダ、中国で生産再停止
2010年6月9日
ホンダは8日、中国の広東省広州市にある2つの完成車工場の9日の生産を停止すると発表した。系列部品メーカーのユタカ技研(浜松市)が出資する中国の部品工場でストライキが起きた影響で、部品の在庫が不足しているためとしている。
ホンダは別の部品工場でストが発生した影響で中国にある4つの完成車工場の操業がストップし4日に生産再開したばかりだった。