2時間で村人30人を惨殺…「津山30人殺し」は日本の犯罪史上最大の悲劇【大量殺人事件の系譜】
2016.08.12 雑学
戦後最悪の殺人事件となった、相模原障害者施設での惨劇から2週間が過ぎた。犯行の動機や容疑者の心の闇、そして弱者がターゲットにされた犯罪史上類を見ない事件の全容解明は、今後、司直の手に委ねられるが、こうした大量殺人事件はこれまで幾度となく繰り返されてきた。「事件は社会を映す鏡」という。いくつかの大量殺人事件を振り返りながら、浮かび上がってくる時代と事件の背景を探り、大量殺人事件の系譜を考察してみる。
■津山30人殺し（1938年）大量殺人事件の系譜～第1回～
相模原事件では、わずか1時間で19人が命を奪われた。だが、2時間ほどのあいだに1人の男が村人30人を惨殺し、集落全体を鮮血に染める大惨劇が過去にあった。それは戦前にまでさかのぼる。
1938（昭和13）年5月21日未明。日本の犯罪史上最大の悲劇が起こった。「津山30人殺し」である。鳥取県境に近い、岡山県西加茂村（現在の津山市）貝尾集落。山間の寒村だ。21歳の都井睦雄は用意周到にも、電線に細工を施し村を停電させた上で凶行におよんだ。闇夜の中、その出で立ちは異様そのものだった。
黒い詰襟の学生服を着て、鉢巻をした頭には2本の懐中電灯を角のように差し、首からもライトをさげていた。午前1時すぎ。まず、斧を振り下ろして自分の祖母の首を撥ね飛ばす。そこから村人を次々に襲撃。集落の約半数にあたる12戸を襲い30人を殺害、3人に重傷を負わせた。凶器は斧のほか、日本刀と匕首、改造した猟銃だった。無防備な老人や女子供にも襲いかかり、刃物でメッタ刺しにし、銃を乱射。
「こらえてつかわさい……」
そう哀願する老婆にも容赦がなかった。その冷酷さは、とても人間の所業とは思えない。恐怖のどん底に陥った殺戮現場は、凄惨な地獄絵図と化す。この残忍極まりない事件をモチーフに描かれたのが、ベストセラーとなった横溝正史の小説『八つ墓村』である。犯人の都井は犯行直後、集落から3.5キロ離れた山へ登り、猟銃で胸を撃ち抜き自ら命を絶った。自決する直前にしたためた遺書に、都井はこう記している。
＜病気は悪くなるばかりとても治らぬ様な気分になり世間の人の肺病者に対する嫌厭白眼視、とくに××××と言う女のつらくあたること、僕は遂にこの世に生くべき望み若人の持つすべての希望を捨てた。そうして死んでしまおうと決心した時の悲しさは筆舌につくせない＞（「××××」は原文では実名）
＜にくめばにくめ、よし必ず復讐をしてかやつを此の社会から消してしまおうと思うようになった＞
都井にいったい何があったのか。そこには、当時の時代背景と社会情勢も大きく関係していることが垣間見えてくる。
地元の人たちは否定するが、同地方にはそのころ「夜這い」ともいえるような風習が残っていた。当時、メディアはそれを「非常にルーズな男女関係の因習」「原始的淫風」などと表現した。都井も村の複数の女性と肉体関係を結んでおり、そのことが事件の一つの引き金になったというのが定説になっている。
事件の前年（1937年）、時代は盧溝橋事件により日中戦争が勃発、国家総動員法が政府によって制定されていた。世の中は急速に、戦時体制へと移行していた。幼いころに両親を相次いで亡くし、姉とともに祖母に育てられた都井は、学業成績がかなり優秀だった。だが、徴兵検査（1937年）では、結核と診断され不合格。非国民とされ、一人前の男として認められなかったことを、都井は悩んでいたという。
そんな時、夜這いで迫った何人かの女性に、患った病を侮蔑され、関係を拒絶される。村では、「病人であるのに関係を迫る変質者」という噂を広められた。都井はそう思っていた。こうした蔑みに対し恨みを抱くに至ったことと、戦争にも行けない半人前で、厭世的な気持ちに陥ったこと。これが事件の大きな動機とされている。都井にとっては、女性を中心とする村人たちと大きなトラブルを抱え、それが30人あまりを殺傷する着火点となったのだ。
だからこそ、都井の遺書には複数の女性を名指しし、
＜奴に大きな侮辱を受けた＞
＜ああ言うものは此の世からほうむるべき＞
＜芽生えて来たのはかやつに対する呪いであった＞
などと怨念を募らせたのだ。事件の被害者は、都井と関係があった女性か、あるいは、都井を侮蔑した人、そして巻き添えを食った人もいた。恨みの深い女性の下半身には、原型をとどめないほど銃が撃ち込まれたという。
都井のねじれた復讐心が未曾有の事件の動機だが、幼いころの両親の死、自らの肺結核、当時の農村ならではの風習、そして、風雲急を告げる戦局などが複雑に絡み合っているともいえるのではないか。時代と社会、抗えない運命、そして本人の弱さによって、一つの村と一人の男が悲劇に包まれたのだ。都井は自ら命を断ち切る直前、遺書にこう記している。
＜今度は強い強い人間に生まれてこよう。もはや夜明けも近づいた、死にましょう＞
事件の原因、動機はさまざまあるが、ぎりぎりの臨界点に達した時、「大量殺人」という形を伴って、人間の底知れない恐ろしさが悪魔へと姿を変えるのかもしれない。 ＜取材・文／青柳雄介＞
◎上記事は[日刊SPA！]からの転載・引用です
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◇ 都井睦雄・津山事件（津山三十人殺し） 元警官遺族宅に資料（中日新聞 2017/2/8）
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◇ 「山口連続殺人（山口県周南市金峰）」と「津山30人殺し（岡山県苫田郡 都井睦雄）」の3つの類似とは？
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