朝刊連載小説『逃亡者』中村文則 作 2018年10月1日スタートした

2018-10-09 | 日録

〈来栖の独白〉
 10月1日から始まった新聞小説。始まり当初は何が何だか分からなかったが、第2章<神への質問>になり、俄然面白くなった。私は「キリスト」というワードに、めっぽう弱い。ワクワクする。
 
 * 朝刊小説「逃亡者」 連載を前に 中村文則さん 2018/9/21 

    


2018/10/8 朝刊
逃亡者 中村文則 作 宮島亜希 画 
 <8> 
<神への質問>3
 観光客の中の、黒い髪の女性。一瞬身体が硬直し、でもすぐあの女性が当然アインでないと認識する。もう違うと意識ではわかってるのに、遅れて鼓動が乱れていく。大きく息を吸う。あの女性のどこがアインなんだ? そう思いたいだけだ。不可能を期待し、苦しみたいだけだ。
 (中略)
 ケルンに来た理由は、この大聖堂だった。自分の人生を終える前に、自分が行きたかった場所に、自分の人生において、本来行かなければならなかった場所に、行こうと思った。

   

 悲劇の戦争が終ったときに鐘を鳴らし、断絶を促すデモに対しては、明かりを消し抗議の意を示した教会。
 そして僕が一番見たかったものは、ゲルハルト・リヒターのステンドグラスだった。
 教会のステンドグラスには、通常、キリストの物語を描くものが多い。受胎、誕生、人々を救っていく歩み。裏切られ、十字架に磔(はりつけ)にされ、復活する一連の物語。
 しかし2007年に設置されたリヒターのステンドグラスは、モザイク柄だった。
 何度目かもうわからないが、僕は観光客達に混ざり、仰ぎ見る。さっきのアインの姿を打ち消すように。
 圧倒的な混沌とも言える細部の色の集合が、美しく光輝いている。コンピューターのプログラムによりランダムに、しかし最高値の無秩序になるよう、綿密に計算しつくられたと聞いた。現代的すぎると批判もあったが、僕はそう思えない。時間や歴史というものを、超越しているように感じる。やはりあまりに、美しい。
 見て、勝手に確信したことがあった。神の言葉/意志は、キリストを介し、弟子達が解釈すると聖書のようなものになる。だが本来の神の言葉は、本質は、人間からするとこのようなデータに似たものではないのかと。
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『逃亡者』<14> 神。もし僕を見ているなら、もう見ないでいい。2018/10/15
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