民主党にとって後期高齢者医療制度の廃止は、象徴的な政策。社民、国民新両党とも廃止の方針で合意。

2009-09-14 | 政治
「政策転換へ~後期高齢者医療制度」
朝日新聞2009/9/9Wed. http://www.k4.dion.ne.jp/~yuko-k/adagio/kohki-iryoh.htm
 「廃止」 世論の期待も
 民主党にとって「後期高齢者医療制度(後期医療)の廃止」は、政権交代に向けた象徴的な政策だ。連立政権樹立に向けた社民、国民新両党との調整でも、後期医療廃止の方針では既に合意している。
 08年4月の衆院山口2区補欠選挙。導入されたばかりのこの制度がお年寄りの反発を買い、大きな争点となった。75歳以上を対象に別建ての医療制度を作ったことが、「うば捨て山のような制度」と批判を浴びたのだ。
 補選告示の前日、野党幹部は「おばあちゃんの原宿」と呼ばれる東京・巣鴨のとげ抜き地蔵で「廃止」に向け、のろしをあげ、補選を制した。それ以来、民主党は底堅い支持率を維持し、今回の総選挙で圧勝した。総選挙後にNHKが実施した世論調査でも、民主党の政権公約のうち最優先で実現してほしい項目として、「後期高齢者医療制度の廃止」が2番目に挙がった。
 高松市に住む南部敬一さん(79)も、政権交代による制度廃止に期待する一人だ。2年前の暮れ、会社勤めをやめた。保険料負担は年間20万円弱だった。ところが、昨年暮に「後期高齢者」の枠組みに入ると保険料負担は10万円も増えてしまった。「高齢者の働こうとする意欲をそぐ制度。廃止の方針は歓迎だ」
 後期医療は、75歳以上を独立させて新設。負担割合を高齢者1割、現役世代4割、公費5割にした。それまでの老人保健制度であいまいだった現役世代と高齢者の負担割合を明確にする狙いだった。ただ、周知不足に加え、新たな保険料負担や年金天引きに不満が集まり、当初、窓口の自治体は対応に追われた。
 東京都国分寺市では、導入前に20回にわたる住民説明会を開いた。それでも制度が導入されると、多い時で1日400件の問い合わせや苦情が殺到。担当者は電話や窓口での対応に追われてきた。
 ただ制度導入から1年半。今、同市の担当者は「仕組みが理解されるには手間も時間もかかる。廃止したら今のシステムは使えなくなり、改修費用もかかる」と話す。制度の定着に努力してきたのに、今さら時計の針を元に戻すことに抵抗感がぬぐえない。
 今月5日、京都府内の全市町村が参加し、後期医療の運営を担う京都府広域連合議会は「制度廃止反対」の決議を採択した。決議文では「廃止された場合、現場に大きな混乱が生じる」と指摘した。 批判を受け政府も保険料払いで口座振替を選べるようにしたり、低所得世帯の保険料を9割軽減してきた。
 確かにその効果も出始めている。NPO法人「日本医療政策機構」が今年1月実施したアンケート(有効回答約千人)では、70代以上の56%が制度維持に賛成。同機構は「他の年代と比べ、最も支持が多く、当事者である高齢者世代が比較的落ち着いた反応を見せている」という。
 ただ、度重なる負担軽減策で政府が昨年来投じた税金は合計1168億円になる。高齢者に応分の負担を求めるという後期医療の「理念」は揺らぐ。高齢者の反発が薄れつつあるのはその結果だ。(中村靖三郎、堀内京子)
 医療負担 どう配分
 厚生労働行政に詳しい民主党議員は「制度が始まって1年半がたち、トップスピードで走っている仕組みを簡単に止めるのは難しい」と語る。
 すぐ制度の廃止に踏み切るのではなく、1~2年かけて新制度の結論を出す。当面は現行制度を続けながら、新制度のあり方を探る「現実路線」だ。
 08年5月、民主党が野党4党で提出した後期医療廃止法案では、老人保健制度の復活を明記していたが、今回のマニフェストでは「廃止に伴う国保の負担増は国が支援する」という表現にとどめた。
 かつての老健制度では高齢者と現役世代の負担割合が不明確だったため、現役世代の負担が際限なく膨らむ可能性があった。厚労省の水田邦雄事務次官は3日の記者会見で、「老健制度にさまざまな批判があって、ああいう制度改革がなされた」と老健制度への回帰論にくぎを刺した。
 少子高齢化が進む中、増え続ける高齢者の医療費をどう支えるのか---。後期医療を廃止しても、この問題自体が解決するわけではない。
 国民医療費は07年度で34兆円にのぼり、うち75歳以上が3割を占めている。25年度には医療費の総額が70兆円に迫るという試算もある。膨らむ医療費を国民全体でどんな形で支えるのか、新たな枠組みづくりが求められる。
 だが、民主党が描く医療制度の将来像もはっきりしない。マニフェストではサラリーマンが入る健保や、自営業者・無職者らが入る国保など各制度を段階的に統合していき、「将来、地域保険制度として医療保険制度の一元的運用を図る」とうたう。高齢者も現役世代も、全員が同じ制度に加入すれば、制度間の負担割合や給付の格差が解消できる---というわけだ。
 ただ、一元化へのハードルは極めて高い。上智大の堀勝洋教授(社会保障法)は「会社員に比べ、自営業者の所得捕捉が進んでいない。同じ保険料率を課せば、著しい不公平が生じる」と指摘する。
 では、どう高齢者の医療費をまかなえばいいのか。
 高齢者の加入率が高い国保を、比較的ゆとりのある健保組合などが財政面で支援する「財政調整」案もある。しかし、負担の配分があいまいになり、高齢者医療に対する責任はぼやけかねない。後期高齢者医療制度「65歳以上」に拡大する案もあるが、批判がある「年齢区分」が続くうえ、公費負担が膨らみそうだ。
 少子高齢化が進む中、国民一人ひとりが負担する医療費の増加は避けられない。厚労省幹部は「制度を支えるには保険料を上げるか、税を上げるか、医療の自己負担率を引き上げるかしかない。国民に『痛みの分配』を強いることには変わりない」と言う。
 堤修三・大阪大教授(社会保障論)は、後期医療の決定過程について「族議員や厚労省、関係団体の幹部など一部の人の内部調整で制度の大枠が決まった」と言う。「政策決定過程を透明にし、『痛みの分配』について国民を納得させられるかどうかに、新しい仕組みの成否がかかっている」(太田啓之)

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