「闇サイト殺人事件」存在感増す遺族 自首によって残りの2人が早期に逮捕されたことは確かだ

2009-03-25 | 死刑/重刑/生命犯

中日新聞夕刊【大波小波】2009/03/25
 闇サイト殺人事件の3人の被告への判決を伝えるテレビのニュースやワイドショーの多くは、判決への客観的な分析よりも、無念を訴える被害者の母親のインタビューを前面に出しながら、1人が死刑ではなく無期になったことへの異を唱えることに終始した。
 確かに犯行はあまりにもむごたらしい。でもむごたらしいからこそ冷静に考えねばならない。反省のない自首など評価すべきではないとの論調が多いが、自首によって残りの2人が早期に逮捕されたことは確かだ。自首しても減軽が見込めないとの前例を作れば、今後は同種の事件の解決が困難になることも予想される。 殺人事件のほとんどは、その過程を克明に描写すれば、この事件と同様にむごたらしい。闇サイトなどで世間から注目された事件だったからこそ、今回はその残虐性が浮き彫りになった。同時に3人の男たちの護送中の映像が、あまりにふてぶてしくて悪人面であったことで、世間の憎悪がヒートしたことも確かだろう。
 厳罰化は加速している。その自覚があるならそれもよい。でもその自覚がないままに、「悪いやつはみな死刑だ」式の世相が高揚することに対して、(特に感情に訴える映像メディアは)もう少し慎重であるべきだ。
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闇サイト事件で地検が控訴、無期判決に不服
(読売新聞 - 03月27日 19:59)
 名古屋市千種区の契約社員磯谷利恵さん(当時31歳)が2007年8月、インターネットの「闇サイト」で知り合った3人組の男に拉致、殺害された事件で、強盗殺人と営利略取などの罪に問われ、1審・名古屋地裁で無期懲役(求刑・死刑)とされた住所不定、無職川岸健治被告(42)について、名古屋地検は27日、判決を不服として名古屋高裁に控訴した。
 川岸被告と、死刑判決を言い渡された愛知県豊明市、元新聞セールススタッフ神田司(38)、名古屋市東区、無職堀慶末(33)両被告の弁護側は既に控訴している。
 同地裁は今月18日の判決で、川岸被告が自首したことなどから死刑を回避した。
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 <毎日新聞中部>
曲がり角で:18日・闇サイト殺人判決/上 意思疎通なき寄せ集め集団
 名古屋市千種区の派遣社員、磯谷(いそがい)利恵さん(当時31歳)が07年8月、拉致・殺害された事件で、強盗殺人などの罪に問われた3被告の判決公判が18日、名古屋地裁(近藤宏子裁判長)である。検察側は3被告全員に死刑を求刑。携帯電話の闇サイトで結び付いた3被告の異様な関係や変わる司法制度、刑の厳罰化など、時代の曲がり角を映し出した特異な事件の審理を追った。【秋山信一】
 ◇責任なすり合い 遺族「まるで10代の子」
 「こうやってがん首並べとるのは、お前らが悪いんじゃ」。08年11月7日、名古屋地裁2号法廷で行われた被告人質問の途中で、川岸健治被告(42)が突然声を荒らげた。神田司被告(38)がにらみつけると、川岸被告は「ガンをつけとんな」と畳み掛けた。堀慶末(よしとも)被告(33)は下を向いた。検察幹部は法廷の3人を「事件を人ごとと思っている現代的な犯罪集団」と表現した。
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 3人が初めて会ったのは07年8月21日。闇サイトで「愛知県の人で何か組みませんか」と誘った川岸被告に、他の2人が応じた。3人のうち川岸被告は「山下」、堀被告は「田中」と偽名を使った。
 神田被告は当時新聞販売店、川岸被告は直前まで家電製造工場に勤務。06~07年ごろにそれぞれ闇サイトを悪用した別の詐欺事件で執行猶予付き有罪判決を受けたが、金欲しさからサイトへの書き込みや閲覧を続けていた。堀被告が閲覧を始めたのは07年6月。外装工事の仕事を辞めて趣味のダーツにのめり込み、400万円以上の借金を抱えていた。
 3人は犯罪歴を誇示し合い、強盗を計画する中で相手を殺害することも「仕方がない」と虚勢を張った。3日後、路上で物色を重ね、最後に目に留まった磯谷さんを襲った。
 東海学院大の長谷川博一教授(犯罪心理学)は「初対面の仲間は互いの力関係を探って駆け引きするので、何が起きるか分からない。暴力的な方向に出れば冷静な判断ができなくなる」と指摘する。  ■    ■
 法廷で神田被告は闇サイトを悪用した一連の犯罪行為を「仕事としてやっていた」と述べ、川岸被告は自分たちの殺害場面を「サスペンス劇場を見ている感じだった」と表現。神田、堀両被告は互いに「相手が殺害を提案した」と主張した。
 裁判長がみけんにしわを寄せる場面が増え、証言の際に涙を見せた堀被告にさえ「他人のせいばかりにして本当に反省しているんですか」と厳しく問いただした。3人の弁護人は被告が語る言葉の軽さなどから逆に「寄せ集めの集団で、意思の通じ合いがない行き当たりばったりの犯行」と計画性を否定し、死刑回避を訴えた。
 傍聴を続けた磯谷さんの母富美子さん(57)は「まるで10代の子のよう。常識や感覚が違いすぎる」と話す。公判最後の意見陳述で、川岸、堀両被告は初めて謝罪の言葉を述べ、傍聴席の遺族に頭を下げた。富美子さんは目をそらした。
 ■ことば
 ◇闇サイト殺人事件
 起訴状によると、携帯電話の闇サイトで知り合った3被告が07年8月24日夜、名古屋市千種区の路上で帰宅途中の磯谷さんを拉致。25日未明、愛知県愛西市の駐車場で磯谷さんの頭をハンマーで殴り、粘着テープを顔に巻くなどして殺害し、現金約6万2000円が入ったバッグを奪ったとされる。
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18日・闇サイト殺人判決/中 被害者の「無念」代弁
 ◇存在感増す遺族 情緒面強調に疑問も
 2960。拉致された磯谷利恵さん(当時31歳)は川岸健治被告(42)ら3人に脅され、銀行口座の4ケタの暗証番号を教えた。磯谷さんを殺害した後、川岸被告が愛知県知立市内のATM(現金自動受払機)で預金を引き出そうとするとエラー表示が出た。「命をとられてまで、うそをつくはずがない」。もう一度キャッシュカードを差し込んだが、同じだった。
 「語呂合わせで『憎むわ』という意味です」。08年12月8日の第13回公判に証人として出廷した母富美子さん(57)が検察官の質問に答えた。続けて「(磯谷さんは)誰に一番伝えたかったのか」と問われ、富美子さんは正面の裁判官席を見据えた。「裁判官の皆様ではないでしょうか」
 名古屋地検は事前にこれを他言しないよう富美子さんに口止めまでしていた。幹部は「(暗証番号は)被害者の無念さを象徴するキーワード。一番ふさわしい人に言ってもらった」と明かす。
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 法廷での犯罪被害者や遺族の存在感が増している。被害者らが公判を優先的に傍聴する権利などを記した犯罪被害者保護法は00年11月施行。08年12月には被害者らが被告に直接質問したり、量刑意見を述べられる被害者参加制度が始まった。
 闇サイト事件が起きたのは制度導入前だったが、検察側は制度を先取りし、公判前整理手続きの段階から期日ごとに内容説明するなど遺族に配慮した。法廷では、磯谷さんの幼少期から事件直前までの16枚の接写写真をスライド上映。富美子さんによると、検察側は「よりきれいな姿を証拠にしたい」と撮り直しもする熱の入れようだったという。
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 証人の富美子さんに検察側の質問が続く中、3被告の弁護人の一人は質問をためらっていた。3被告に極刑を求める署名活動をした趣意などを確認したかったが「被害感情を刺激する恐れがある」と感じた。結局、親族らも含めた5時間の証人尋問で、弁護側は沈黙を続けた。
 「利恵ちゃんが残したメッセージはきちんと裁判官に届けました。31万5876人というたくさんの人が、極刑に賛同してくださいました」。1月20日の論告求刑公判で、富美子さんは署名活動の結果も報告した。傍聴席で女性がもらい泣きしていた。
 「犯罪事実と直接関係がない情緒的な面を強調する立証が、本当に望ましいのだろうか」。検察側のペースで進む法廷で、弁護人の疑問は膨らんだ。【秋山信一】
 ■ことば
 ◇犯罪被害者の司法参加
 00年11月の犯罪被害者保護法施行と同時に刑事訴訟法も改正され、被害者や遺族が法廷で被害心情について意見陳述できるようになった。04年12月には、被害者らを支援する施策の実施義務を国や自治体に課した犯罪被害者等基本法が成立。08年12月には被害者参加制度が始まった。
毎日新聞 2009年3月15日 中部朝刊
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18日・闇サイト殺人判決/下 被告の父も「極刑妥当」
 ◇変わる死刑基準「最後は裁判官の心証」
 「異議があります」。08年12月19日の第16回公判で、検察官が神田司被告(38)の父親(72)に「どんな刑が適切か」と尋ねると、弁護人がすかさず「意見を求めるのは不適切だ」と撤回を求めた。既に遺族が何度も極刑を訴えており、父親まで極刑と言えば情状面で不利になる。だが裁判長は異議を退けた。父親は「極刑が妥当じゃないかと思います」と息子を突き放した。
 弁護人の一人は「検察側は公判の早い時期から死刑求刑を意識していた」とみる。公判の最大の争点は、一貫して「死刑の適否」だったといえる。
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 死刑の適否を争う事件では「永山基準」と呼ばれる9項目の判断基準が必ず引用される。基準の一つが「結果の重大性(特に殺害の被害者の数)」だ。
 日本弁護士連合会によると、永山判決(83年7月)以降、被害者1人で死刑が確定した被告は26人。身代金目的誘拐や仮釈放中の事件が大半を占める。被告が3人で全員の死刑が確定した例はない。
 一方、04年の刑法改正で殺人罪などの法定刑が引き上げられるなど厳罰化が進む。死刑確定者数は89~03年に年1けただったが、04年以降は2けたに増え、07年は永山判決以降で最多の23人に上った。08年5月の長崎市長射殺事件の1審判決は「選挙を妨害し、民主主義の根幹を揺るがした」として被害者1人でも死刑を選んだ。
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 「今は死刑か無期かの判断基準が分からなくなっている」。94年に愛知など3府県で4人が殺害された連続リンチ殺人事件で、強盗殺人罪などに問われた元少年=上告中=の弁護を担当した村上満宏弁護士はそう語る。3被告のうち元少年ら2人は1審で「追従的な立場だった」として無期懲役だったが、2審では死刑となった。
 闇サイト事件では、川岸健治(42)、堀慶末(33)両被告とも「神田被告が殺害を主導した」と訴えている。だが、村上弁護士は元少年の例から「従犯でも積極的に殺害に関与すれば死刑になりうる」とし「行き当たりばったりの犯行」との弁護側の主張に対しても「最近は統制がない集団こそ厳罰にする傾向にある」と指摘する。さらに遺族が極刑を求めて集めた署名に触れ「(処罰感情の)厳しい遺族がいれば判決も厳しくなる」と話す。
 遺族は「3人への死刑判決を聞きたい」と望む。弁護人は「死刑なら基準から一歩も二歩も踏み込んでしまう」と懸念する。ある検察幹部は言う。「最後は裁判官の自由心証だ」【秋山信一】
 ■ことば
 ◇永山基準
 最高裁が83年7月、連続射殺事件の永山則夫元死刑囚への判決で示した。(1)事件の罪質(2)動機(3)態様(特に殺害手段の執拗=しつよう=性・残虐性)(4)結果の重大性(特に被害者数)(5)遺族の被害感情(6)社会的影響(7)犯人の年齢(8)前科(9)事件後の情状--を総合的に考慮し、責任が極めて重大でやむを得ない場合に死刑選択が許されるとした。


闇サイト殺人事件判決の要旨  追記事(闇サイト殺人判決/上・中・下)
【讀賣新聞 連載「死刑」第4部 闇サイト殺人「極刑を」32万人署名2009/06/06 】を考える
闇サイト殺人「極刑を」32万人署名…連載「死刑」第4部


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