南シナ海領有権問題と日本/尖閣問題を抱え人ごとではない

2011-09-01 | 国際

記者の目:南シナ海領有権問題と日本=佐藤賢二郎
 ◇ASEAN結束強化、後押しを
 インドネシア・バリ島で7月に開かれた東南アジア諸国連合(ASEAN)と日中韓その他を加えた一連の外相会議は、南シナ海問題が焦点だった。複数のASEAN加盟国と中国が領有権を巡って対立、米国も一枚加わってやり合った。現地で取材中、ASEANと米中の思惑が交錯する問題の「わかりにくさ」を何度も感じた。ASEAN10カ国も決して一枚岩ではないからだ。
 ◇「米中ゾウ」戦えば「シカ」つぶされる
 どうすればわかりやすく伝えられるかと考え、地元に伝わることわざを思い出した。「2頭のゾウが戦えば、シカは踏み殺される」。南シナ海問題に当てはめると「ゾウ」は米国と中国、「シカ」はASEAN10カ国だ。ゾウのけんかに巻き込まれたシカは、どう対処したのか。そう考えると背景が見えてくる。
 南シナ海には石油など地下資源が豊富な南沙(英語名スプラトリー)諸島がある。近年、中国が軍事活動を活発化させ、フィリピンなどの資源探査活動を妨害、ASEANとの摩擦が強まっている。一方、米国はこの海域でベトナムなどと合同軍事演習を繰り返し、ASEANを巻き込んだ「対中包囲網」作りに躍起だ。
 問題の発端は中国「ゾウ」が南シナ海のほぼ全域を「自分の海」と言い出したこと。これに複数の「シカ」が反発。話し合いが始まったが、力が強くお金持ちの中国はASEAN各国と個別に協議する「当事者間での解決」を主張。シカは10頭まとまっての「多国間協議」に持ち込みたい。そこに米国という別の「ゾウ」が加勢に現れ、2頭のいがみ合いが始まった--というのがこれまでの構図だ。
 今回の会議では2頭の直接対決に注目が集まったが、ゾウ同士の争いを避けたいシカが中国に大幅に譲歩。「多国間協議」という文言を削除し今後の協力の在り方を定めた「南シナ海行動宣言」の指針で合意、対決は回避された。
 なぜ譲歩したのか。領有権を巡る争いはASEAN内にもあるからだ。南沙諸島は中国、台湾に加え、ベトナム、フィリピン、マレーシア、ブルネイが領有権を主張している。他にもインドネシアとマレーシアはリアウ諸島沖の領有権を巡って度々衝突。陸上では、タイ・カンボジアの国境紛争で2月以降、交戦により双方で計28人が死亡した。
 ASEANは2015年の共同体創設を目指し、経済・政治統合を加速させている。ナショナリズムを刺激する領土問題でこれ以上「火種」を増やせば、共同体の行方に影響する。「米中の覇権争いに巻き込まれれば、ASEANはゼロに戻ってしまう」。インドネシア政府高官は米中対立がASEAN分断につながることに危機感を示した。
 もう一つ、領有権問題の当事国と非当事国との温度差も大きい。当事国で米国と歩調を合わせるフィリピンは中国との妥協に最後まで反対。一方、当事国でないカンボジアやラオスは、中国と経済的結び付きが強いこともあり、この問題には消極的だ。カンボジアが議長国を務める来年には、南シナ海問題の進展は難しいとの見方が強い。今回は議長国インドネシアが危機感を強め、フィリピンなどを説得して結束を保ったが、肝心の協議の枠組みを巡る議論は先送りされ、法的拘束力のある「行動規範」策定のめども立っていない。
 事態打開のためクリントン米国務長官は会議最終日、当事国に対し、国際法に基づいて領有権の根拠を明確化するよう要求。日本の松本剛明外相も同調した。シカの集まりであるASEANが中国ゾウに対抗するためには、国際法を武器に一枚岩にならなければならない。だが、タイ・カンボジア国境紛争を巡る交渉難航が示す通り、ASEAN内の調停能力には限界がある。
 ◇尖閣問題を抱え人ごとではない
 東シナ海の尖閣諸島で中国とのあつれきを抱える3頭目のゾウ、日本にとっても、南シナ海問題は人ごとではない。11月にバリ島で開かれる東アジアサミットでは再びこの問題が主要議題になる見通しだ。中国を「多国間協議」に引き込むことは、東アジア全域の海上での領有権問題解決の第一歩であり、日本も「当事国」といえる。
 今回の会議で日本は、ASEAN域内の海上物流の連携を強める「海洋ASEAN経済回廊」構想を表明。また02年以降、海上保安庁からフィリピンやインドネシアなどに専門家を派遣し、海上保安体制の強化を支援している。こうした非軍事部門での連携を拡大、深化させ、日本を軸とした海洋安全保障分野での結束を強化することで、ASEAN域内の領有権問題の解決を積極的に後押しすべきだ。(ジャカルタ支局)毎日新聞2011年9月1日0時11分
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