産経ニュース 2018.2.3 19:04更新
【トランプ政権】オバマ前政権の理想主義と決別 米、新たな核戦略指針で多様化する脅威を直視
【ワシントン=黒瀬悦成】トランプ米政権が2日発表した新たな核政策指針「核戦略体制の見直し」(NPR)がオバマ前政権の理想主義的な核軍縮方針から決別し、「安全で確実、効果的な核抑止力」を確保する立場を明確にしたのは、オバマ時代に「ライバル強国」のロシアや中国が核戦力を充実させるなど、米国が多様な核の脅威にさらされているという現実を直視したものだ。
米国が「潜在敵国」の中で最も警戒を強めるのがロシアだ。新指針はロシアについて「米国と北大西洋条約機構(NATO)を自国の地政学的な野心に対する第一の脅威とみなしている」と指摘。また、国防情報局(DIA)の分析として「ロシアは短距離弾道ミサイルや、中距離爆撃機で運搬可能な重力爆弾、水中爆雷に搭載された非戦略核約2千発を保有している」とした。
新指針が新たな措置として爆発力を低下させた小型核を潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)に導入すると提言したのも、戦術核の先制使用をちらつかせて周辺諸国を威嚇するロシアに対し、戦術核による報復攻撃も辞さない姿勢を示すのが狙いだ。
新指針はさらに、ロシアが「自律制御式原子力核魚雷」を開発中であることを米政府として初めて確認。同魚雷は通称「ステータス6」と呼ばれ、水中を何千キロも航行し米沿岸の軍事基地や都市を攻撃。米国の弾道ミサイル防衛(BMD)システムに危機感を抱いたロシアが対抗措置として開発に着手したとされる。
米政権が魚雷の情報を進んで公開したのは、露核戦力の急速な拡充に対する危機感の表れともいえる。
一方、新指針は北朝鮮に関し、「あと数カ月で米国を核弾頭搭載の弾道ミサイルで攻撃できるようになる」と分析した。「北朝鮮が米国および同盟諸国を核攻撃すれば(金正恩)体制は終わる」と警告。北朝鮮が地下に構築した核施設や軍事施設を核と通常兵器で破壊する能力を確保するとともに、北朝鮮が発射したミサイルを迎撃するか、発射基地を破壊して北朝鮮の攻撃能力を減衰または喪失させると強調した。
南シナ海などで膨張政策をとる中国に対しては通常・核戦力の双方で常に優位を保ち、中国の「核使用は多大な損害を伴うため割に合わない」との現実をアジア太平洋地域で恒常的に軍事演習を実施することなどを通じて示すとした。
新指針はさらに、ロシアが「自律制御式原子力核魚雷」を開発中であることを米政府として初めて確認。同魚雷は通称「ステータス6」と呼ばれ、水中を何千キロも航行し米沿岸の軍事基地や都市を攻撃。米国の弾道ミサイル防衛(BMD)システムに危機感を抱いたロシアが対抗措置として開発に着手したとされる。
米政権が魚雷の情報を進んで公開したのは、露核戦力の急速な拡充に対する危機感の表れともいえる。
一方、新指針は北朝鮮に関し、「あと数カ月で米国を核弾頭搭載の弾道ミサイルで攻撃できるようになる」と分析した。「北朝鮮が米国および同盟諸国を核攻撃すれば(金正恩)体制は終わる」と警告。北朝鮮が地下に構築した核施設や軍事施設を核と通常兵器で破壊する能力を確保するとともに、北朝鮮が発射したミサイルを迎撃するか、発射基地を破壊して北朝鮮の攻撃能力を減衰または喪失させると強調した。
南シナ海などで膨張政策をとる中国に対しては通常・核戦力の双方で常に優位を保ち、中国の「核使用は多大な損害を伴うため割に合わない」との現実をアジア太平洋地域で恒常的に軍事演習を実施することなどを通じて示すとした。
◎上記事は[産経新聞]からの転載・引用です
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トランプ政権 新たな核戦略発表 軍縮に逆行の声も
NHK NEWS WEB 2018/2月3日 14時14分トランプ大統領
アメリカのトランプ政権は新たな核戦略を発表し、核なき世界を目指すとしたオバマ前政権からの方針転換を打ち出しました。ロシアや中国の脅威に対抗するため、「低出力核」と呼ばれる威力を抑えた核兵器の増強など、抑止力の強化を柱に据えており、核軍縮の流れを逆行させるという懸念の声もあがっています。
アメリカのトランプ政権は、中長期の新たな核戦略を示した「核態勢の見直し」を策定し、2日午後、日本時間の3日朝早く、発表しました。核戦略の見直しは前のオバマ政権以来、8年ぶりです。
新戦略ではまず、ロシア、中国の核戦力の増強や北朝鮮による核開発などで、世界的な脅威が急激に増しているとし、特にロシアについて、限定的な核攻撃も辞さない構えを見せていると指摘しています。
そのうえで、こうした脅威に対抗し、攻撃を未然に防ぐには、核による抑止力を強める必要があるとして、核戦力全体の近代化を進めるとともに、「低出力核」と呼ばれる威力を抑えた核弾頭を搭載した、SLBM=潜水艦発射弾道ミサイルを導入するとしています。
また、オバマ前政権が退役させた潜水艦や艦艇から発射可能な核巡航ミサイルの再開発にも着手するとしていて、核戦力を強化する方針を打ち出しています。
さらに、アメリカによる核兵器使用の可能性については、オバマ前政権が示した「極限の状況下でのみ検討する」とする原則を引き継ぐ一方、通常兵器による攻撃であっても核兵器で報復する余地を残し、核兵器を先に使用しない「先制不使用」は妥当ではないとしています。
新戦略について、国防総省のスーファー次官補は「今、重要性を増しているのは抑止力と同盟国に対する保障だ」と述べて、抑止力の強化の必要性を強調し、核兵器なき世界を目指すとしたオバマ前政権からの方針転換を鮮明にしました。これに対して核軍縮の専門家からは、「低出力核」は核の使用のハードルを下げる危険があり、核軍縮の流れを逆行させるなどと強い懸念の声もあがっています。
*核使用の範囲「広げていない」
新戦略では、アメリカが核兵器を使用する可能性がある状況について「アメリカと同盟国、友好国の死活的な国益を守るという極限の状況下でのみ検討する」とするオバマ前政権が示した原則をそのまま記しています。
一方で、これに加える形で極限の状況をより明確に定義し「極限の状況にはアメリカと同盟国、友好国の国民やインフラに対する重大な非核兵器による戦略的な攻撃が含まれる」として、大規模な攻撃に対しては通常兵器によるものであっても核攻撃によって対抗する可能性を示しています。
これについて、核兵器を使用できる範囲をオバマ前政権の時より広げたのではないかという指摘が出ていることについて、戦略を取りまとめた国防総省の責任者の1人は、これまでの戦略でもさまざまな可能性を排除していなかったとして、「今回の戦略は範囲を広げてはいない」と説明しています。
*新戦略の狙いと背景
オバマ前政権が核なき世界を目指し核兵器の役割を減らすとする方針を示したのに対し、トランプ政権が抑止力の強化へと方針を転換した背景には、もう1つの核大国、ロシアに対する強い危機感と警戒感があります。
国防総省は、核兵器の脅威について北朝鮮への対応を喫緊の最重要課題に位置づける一方、中長期的にはロシアの核戦力がより深刻だと見ています。中でも、最大の脅威だとしているのが局地的な攻撃に使用するいわゆる「戦略核」です。
ロシアは、急激な増強をはかり、およそ2000発を保有していると見られるのに対し、アメリカは冷戦後の軍縮で現在の保有数は300発程度とされています。さらに国防総省がロシアの軍事戦略を詳細に分析した結果、このまま米ロ間の「戦術核」をめぐる戦力差を放置すれば、抑止力が作用しなくなり、ロシアの核攻撃を止められなくなると結論づけたとしています。
このため、ロシアの戦術核に見合った反撃力を確保し、抑止力を維持することを主な狙いとして、局地的な攻撃に使う「低出力核」の増強を決めたと説明しています。
一方、核軍縮に取り組む専門家から、威力を抑えることにより核兵器の使用が容易になるのではないかという指摘が出ていることに対し、国防総省のルード次官は2日の会見で、報復能力を確保することにより、相手国に核兵器の使用を思いとどまらせる狙いがあると強調しました。
*トランプ大統領「現実的な評価に基づく結論」
新たな核戦略についてトランプ大統領は2日、声明を発表し「世界の安全保障環境の現実的な評価に基づく結論だ」と強調しました。そして「過去10年にわたってアメリカは核兵器の役割や数を減らすため取り組んできたが、ほかの核保有国は保有量を増やしたほか核開発を進め、他国に脅威を与える国もある」と指摘しました。
そのうえで「この戦略は21世紀のさまざまな脅威に対処できるものだ。アメリカや同盟国に対する攻撃への抑止力を高める」と狙いを説明しました。
*米国防副長官「効果的な抑止力維持したい」
シャナハン国防副長官は3日、トランプ政権の新戦略の発表に合わせた記者会見で、「世界は前回、核態勢を見直した2010年とは違う。困難な安全保障環境のもと、抑止力の強化に向けたしっかりした行動が求められている」と述べました。そのうえで「われわれは核兵器を使いたくない。われわれはアメリカと同盟国、友好国の安全を確保するため、効果的な抑止力を維持したいのだ」と述べて、抑止力を強化する必要性を強調しました。
*「低出力核」とは
「低出力核」は、核の威力を抑えた核弾頭で、アメリカ軍では戦域に近い距離から局地的な攻撃に使用する、いわゆる「戦術核」とも呼ばれる核兵器に搭載してきました。
壊滅的な破壊力を持つ、いわゆる「戦略核」が、TNT火薬に換算しておよそ15キロトンだった広島の原爆の数十倍の威力があるとされているのに対し、国防総省では「低出力弾頭」の威力は、おおむね広島の原爆より低く抑えられているとしています。
冷戦後の核軍縮の流れの中、「戦術核」の削減を進めたアメリカは現在、「低出力核」については、ヨーロッパの同盟国に配備されている戦闘機に搭載する核爆弾など、一部の保有にとどめています。
「低出力核」について国防総省は、あくまで抑止力の強化と反撃が目的で、より使いやすい核戦力を持つことが狙いではないと主張しているのに対し、核軍縮を訴える専門家らは、核の使用のハードルを下げ、拡散も助長するなどとしてその危険性を指摘しています。
また今後、「低出力核」の使用が想定されるケースについて、今回の新戦略に詳しい専門家は、紛争で相手国が「戦術核」による核攻撃に踏み切った時に、その攻撃拠点など、局地的な目標を迅速に破壊するような状況が考えられるとしています。
*策定の裏にロシアなどの存在
トランプ政権が発表した新たな核戦略は、多様で柔軟な抑止力を構築する必要性を強調していて、その理由にロシアや中国、北朝鮮などの存在をあげています。
このうちロシアについては、「核兵器の先制使用、もしくは脅しによりロシアに有利な形で紛争をおさめられると誤解している」として、紛争時に限定的な核攻撃に踏み切るおそれがあると分析しています。
そのうえで限定的な攻撃に使用するいわゆる「戦術核」と核兵器の生産能力でアメリカを大きくしのいでいると強い警戒感を示しています。また核軍縮をめぐるアメリカとの条約に違反し、さらなる核軍縮を目指す努力を拒絶していると非難しています。
中国については、新型の移動式ICBMやSLBM=潜水艦発射弾道ミサイルの導入に加え新たに戦略爆撃機の開発を公表するなど、能力、保有数、防衛力のあらゆる面で核戦力の増強を進めているとしています。一方で、これらの核戦力の建設計画は透明性を欠いており、その意図に疑問があるとして懸念を示しています。
さらに北朝鮮については、「数か月のうちにアメリカ本土を核弾道ミサイルで攻撃できる能力を獲得するかもしれない」として核ミサイル開発の急速な進展に危機感を示しています。そのうえで「われわれは北朝鮮によるアメリカとその同盟国、友好国に対するいかなる核攻撃も許さない。それが体制の終えんとなることはわれわれの抑止戦略からも明白だ」として強い警告を発しています。
*核戦力重視はロシアも
アメリカやヨーロッパの主要国が加盟するNATO=北大西洋条約機構が、東ヨーロッパの国々を取り込みながら拡大していることに、ロシアは警戒を強めてきました。
さらに4年前、ロシアがクリミアを併合したあと、NATOが東ヨーロッパのルーマニアやポーランドで迎撃ミサイルの運用や配備を進め、バルト3国では部隊を増強したことにロシアが強く反発し、NATOとの間で緊張が高まっています。
こうした中、ロシアが重視しているのが核戦力です。ロシアにとって核戦力は、戦闘機や戦車といった通常戦力の劣勢を補う手段とされ、仮に、通常戦力による侵略で国が存亡の危機に立たされた場合、「対抗手段として核兵器を使用する権利を持つ」と軍事ドクトリンで規定されています。
実際、プーチン大統領は、クリミアを併合する際、情勢が不利になった場合に備えて、核兵器の使用に向けた準備を進めるよう指示していたことを、3年前明らかにしました。
ロシアは現在、ヨーロッパに照準をあわせた核戦力の増強を図り、NATO加盟国のポーランドやリトアニアと国境を接する飛び地、カリーニングラードでは、核弾頭を搭載できる短距離弾道ミサイル「イスカンデルM」を配備する計画を進めています。
1月下旬には配備に向けた準備が整ったとするなど、今後も、核戦力を使ってNATOに対抗していく姿勢を鮮明にしています。
*米専門家 賛否割れる
新戦略をめぐり、国防総省の関係者らと議論を交わしてきた、安全保障問題が専門のジョージタウン大学のマシュー・クローニグ博士は「低出力核」の増強などについて「これらの能力が主にロシアへの対応策として必要なことは明らかだ」と指摘しています。
その理由について、クローニグ博士は、ロシアとNATO=北大西洋条約機構のヨーロッパの加盟国とのあいだで紛争になった場合、ロシアがいわゆる「戦術核」を使って限定的な核攻撃を仕掛ける可能性があると分析しています。
しかし、アメリカには現在、これに効果的に報復する能力がないとして、「ロシアとの核戦争につながる大規模な核攻撃という自殺行為に出るか、それとも降伏するかという状況に陥ることになる」と指摘して、ロシアに攻撃を思いとどまらせるため、アメリカとして限定的な核攻撃の戦略を持つ必要があるとしています。
一方、アメリカが現在、保有する戦闘機などによる局地的な核攻撃能力は、ロシアの防空網に阻まれるほか、陸上型はこれを受け入れる国との政治問題を招くおそれもあるとして、「低出力核」は潜水艦に搭載するのが最も適していると主張しています。
これに対して、オバマ前政権で軍縮に取り組んできたカントリーマン元国務次官補は、今回の戦略について、「50年にわたってアメリカの核兵器の数を減らそうと取り組んできた流れを逆行させている」と述べて、冷戦後の核軍縮の流れを逆戻りさせると批判しています。
さらに、国防総省が「低出力核」の導入などにより、抑止力の柔軟性を高めることになるとしていることについて、「核兵器に柔軟性を求める考え方は、金づちに柔軟性を求めることと同じだ。金づちを使えばその力を行使することになる。それは柔軟性を活用することにはならない」と批判しました。
そのうえで、アメリカはすでに強大で柔軟に運用できる核戦力を保有していると主張し、「ロシアが持つ1つ1つの能力に匹敵しなければ危険だと言うのは闘争本能に引きずられた幻想であり、かつてアメリカと旧ソビエトを危険で愚かな軍拡競争へと導いた時そのものの考え方だ」と述べて、冷戦時代の核開発競争に逆戻りする危険性があると指摘しました。
そして「われわれがやらなければならないのは、外交をさらに活用することでアメリカの指導力を強めることだ」と述べて、核に依存するのではなく外交による取り組みを強化すべきだと訴えました。
*河野外相「高く評価する」
河野外務大臣は3日午前、談話を発表し、「今回発表された新たな核戦略は北朝鮮による核・ミサイル開発の進展など安全保障環境が急速に悪化していることを受け、アメリカによる抑止力の実効性の確保とわが国を含む同盟国に対する拡大抑止へのコミットメント・関与を明確にしており、わが国は厳しい安全保障認識を共有するとともに、高く評価する」としています。
また河野大臣は、新たな核戦略ではアメリカが核兵器などの廃絶に向けた取り組みに継続的に関与することに言及しているなどと指摘したうえで、「核廃絶を主導すべきわが国としては現実の安全保障上の脅威に適切に対処しながら、現実的かつ具体的な核軍縮の推進に向けて、引き続き、アメリカと緊密に協力していく考えだ」としています。
◎上記事は[NHK NEWS WEB]からの転載・引用です
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