盲導犬の育成価値認める 誘導中交通死で賠償命令 「サフィー、歩くから応援してね」

2010-03-05 | Life 死と隣合わせ

盲導犬事故死、294万円賠償命令「価値、白杖と違う」
 asahi.com2010年3月5日16時2分
 視覚障害の男性と盲導犬がトラックにはねられ、盲導犬が即死した事故で、盲導犬を育成し、無償で貸与していた財団法人「中部盲導犬協会」(名古屋市港区)が、高知県内のトラック運転手と運送会社に計607万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が5日、名古屋地裁であった。松田敦子裁判官は「盲導犬は視覚障害者の目の代わりとなり、精神的な支えともなっている。その価値は白杖(はくじょう)とは明らかに異なり、育成に要した費用をもとに考えるべきだ」として、計294万円の支払いを命じた。
 原告弁護人によると、盲導犬の交通事故をめぐる判決は全国初。また、男性が盲導犬を失い精神的苦痛を被ったとして計220万円の損害賠償を求めた訴訟については、棄却した。
 松田裁判官は盲導犬の価値について、「盲導犬としての特別な技能を付与され、付加価値を得ている」として、「盲導犬は歩行器具にすぎない」とする運転手側の主張を退けた。
 その上で、判決は損害額を検討。同協会の1頭あたりの育成費用(453万円)を踏まえ、盲導犬の平均的な活動期間(10年)から、事故で即死した盲導犬の残りの活動期間を約5年と算出した。
 判決によると、事故は2005年9月26日午前10時ごろ、静岡県吉田町の交差点で、近くに住む視覚障害の熊沢尚(たかし)さん(74)と、ラブラドルレトリバーの盲導犬「サフィー」(当時6)が右折してきたトラックにはねられた。熊沢さんは頭などに重傷、サフィーは即死した。
 同協会は盲導犬の特殊性と希少性を主張。一方、運転手側は同犬種の子犬の価格(10万円)など計20万円が損害と反論していた。(志村英司)
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盲導犬の育成価値認める 誘導中交通死で賠償命令
2010年3月5日 中日新聞夕刊
 目の不自由な男性(74)を誘導中に交通事故で死んだ盲導犬をめぐり、盲導犬を育て無償貸与していた中部盲導犬協会(名古屋市港区)と男性が、トラック運転手(56)らに計約800万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が5日、名古屋地裁であった。松田敦子裁判官は「盲導犬の社会的価値は育成費用をもとに考えるべきだ」と訴えの一部を認め、運転手と運送会社に計約290万円の支払いを命じた。
 原告代理人の弁護士によると、盲導犬としての価値評価が争点となった初めての判決。
 松田裁判官は、盲導犬の訓練過程で約6割の犬が失格となる現状から、育成費用の算定基準について「すべての訓練犬に要した費用を盲導犬になれた頭数で割った額とすべきだ」と判示した。
 一方、盲導犬を失ったことに対する慰謝料など220万円を求めた男性の訴えは「人身損害に伴う示談金は精神的損害も考慮した上で成立している」として退けた。
 協会側は「盲導犬育成には多額の費用がかかる」として育成費を損害額に算入したのに対し、被告側は無償貸与を理由に事故による経済的損失はないと主張していた。
 訴状によると、男性とラブラドルレトリバーの盲導犬「サフィー」(雌、当時6歳)は2005年9月、静岡県吉田町の男性宅近くの横断歩道でトラックにはねられ、サフィーは即死、男性は頭などに2カ月のけが。運転手は業務上過失傷害罪で罰金50万円の略式命令を受けた。男性は示談金約210万円を受け取っている。


 主かばい盲導犬事故死 「サフィー、歩くから応援してね」 盲導犬事故死で主人の熊沢さん 
 2008年2月5日 中日新聞夕刊 
 トラックにはねられ、盲導犬「サフィー」=当時6歳、メス=は死んだ。事故の直前もいつも通りしっぽを誇らしげに振りながら、目の不自由なお年寄りに寄り添って横断歩道を歩いていた。サフィーを訓練し、無償で貸与していた中部盲導犬協会(名古屋市港区)は希少な盲導犬を失ったとして、トラックの運転手らに約540万円の損害賠償を求める訴訟を名古屋地裁に起こした。トラックの前に身を挺(てい)してくれたおかげで命を拾った静岡県吉田町の熊沢尚(たかし)さん(72)は、サフィーを今でも忘れることはない。 (社会部・長田弘己)
 事故は2005年9月26日午前10時ごろに起きた。町内の信号交差点を渡っていた熊沢さんとサフィーの左側に、右折してきた大型トラックが突っ込んできた。熊沢さんの左側を歩いていたサフィーが最初に衝突。その直後に熊沢さんもはねられたが、サフィーが間に入ったおかげで頭などに全治2カ月間の重傷を負いながらも、傷は癒えた。
 即死だった。事故の記憶はあまりないが「サフィーが守ってくれた」と思っている。サフィーだけなら逃げることができたのに、危険を知らせるために「自分の横で、重い石のように動かなくなった」に違いないと。中部盲導犬協会の田嶋順治所長(45)も「とっさに主(あるじ)を守る行動をとったのかもしれない」と話す。
 熊沢さんは50歳ごろから病気で視力が落ち、今はほぼ全盲。サフィーが初めての盲導犬だった。出会ったのは2歳の時。熊沢さんの足元へ走り寄ってくると、ひざにゴツゴツと頭を下げてなすりつけてきた。「人なつっこいなあ」。すぐにいとおしく思えた。
 おとなしい性格で、子どもたちが歓声を上げて駆け寄ってきても、動じなかった。クリーム色の美しい毛並みは近所のアイドルとなり、ほめられると自信たっぷりに歩く様子が伝わってきた。音楽が大好きで、熊沢さんが童謡を歌うと、リズムを取るように前脚を「お手」をするように交互に預け、控えめに甘えてきた。
 今は、新しい盲導犬を迎えた。それでも熊沢さんは時々、サフィーの首輪をさする。「父さんは元気になったよ。歩くから応援してね」。サフィーのかけがえのなさは、誰よりも分かっている。
*1頭育成に500万円 国内では絶対数不足
 目の不自由な人に寄り添う盲導犬は、厳しい訓練を経て一人前に成長する。訓練が長期間にわたるため、育成費用は、1頭当たり約500万円。協会の運営資金とあわせて、ほとんどが寄付金でまかなわれている。
 誕生して親犬の元で2カ月間過ごした後は、すぐに「パピーウォーカー」と呼ばれる“育ての親”に託される。家庭の中で人間が愛情をかけて育てることで、人との基本的な信頼関係を学ぶ。その後、訓練センターへ戻ると、約1年間を費やして盲導犬として特訓され適性を検査。ここで認められると、視覚障害者との共同訓練を4-6週間かけて行い、再び適性が認められるとようやく盲導犬としてデビューすることができる。
 中部盲導犬協会によると、性格や視覚障害者との相性が大切なため、盲導犬になれるのは訓練を受けた4割ほど。協会では年間約10頭の盲導犬を世に送り出しているが、国内では慢性的に不足しているという。


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