「変革」に託す③ オバマの米国 人種の壁 融和へ試練

2008-11-09 | 国際
「変革」に託す③オバマの米国 人種の壁 融和へ試練
 「民主党支持の州も共和党支持の州もない。あるのはアメリカ合衆国だ」。4日夜、次期大統領に当選を決めたオバマ上院議員が“決めぜりふ”を発した瞬間、7万人超の祝勝会場では星条旗がちぎれんばかりに振られ興奮が最高潮に達した。
 国内融和はオバマ氏の一大テーマ。海外や白人家庭で育った出自を背景にして米国の多様性の体現を演じ、あえて人種の強調を避けた。だが勝利の歴史的な価値は、人種問題抜きには語れない。
 「本当なのか」。ミュージシャンの若者も人種を理由に教育を受けられなかった老婦人も、多くの黒人が声を詰まらせた。米国初の黒人大統領の誕生は、人工の約13%、奴隷制と過酷な差別の下で生き抜いてきたアフリカ系米国人には格別の意味がある。翌日にはブッシュ政権のライス国務長官も、黒人女性高官として「驚異的な前進」と目を潤ませた。
 テレビが選挙結果に沸く世界中の表情を伝えていたその時、ライス氏が生まれ育った米南部アラバマ州では、やや異質な空気が流れていた。
 「イスラム教徒がホワイトハウス入り?冗談じゃないぜ」「社会主義者オバマは、テストの成績も平等にするの?」。大学キャンパスでオバマ氏勝利を祝う学生の集いを、周りから別の学生たちがはやしたてた。
 大学生フランク・オロナさん(24)は街の雰囲気を説明する。「聖書の『黙示録』に、世の中を支配する獣が出てくる。多くの人が、オバマの登場に結び付けて考えていますよ」
 一方、医療機関勤務のナタリー・ボールドウィンさん(30)は「この選挙は『人種』一色で息苦しかった」と振り返る。医療保険改革も争点のはずだったが、職場で大統領選の話が出ることは一切なかった。「この州に刻まれた差別の歴史はあまりに鮮明。オバマ支持でなければ差別主義者とレッテルを張られる」
 オバマ氏の地元シカゴも、黒人地区と白人地区が分断されていることで知られる。だが「彼は南部の黒人地区で票を取り、北部の白人地区でカネを集めるという芸当をやってのけた」と地元黒人ジャーナリスト、エイドリーン・サミュエルズさん(31)は舌を巻く。
 今回選挙は、選挙人獲得数ではオバマ氏が圧勝したが、得票率で見ると、共和党のマケイン氏は得票総数の46%を獲得している。シカゴでの「芸当」が今後、全米規模で通用するのかどうか、それが融和の物差しになるのかもしれない。(ニューヨーク・阿部伸哉)2008/11/09中日新聞

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