助けようとした医師は過失致死の容疑で連行され 2020.9.4 「からだを殺しても、魂を殺すことのできない者どもを恐れるな」マタイ10章

2020-09-05 | 文化 思索

島田雅彦著  パンとサーカス 
 中日新聞 朝刊連載 第35回 2020.9.4 Fri

(前段略)
ーーーまあ、そんなところだが、旅人を助けたサマリア人は「自分が助けなければ、彼はどうなってしまうか」と心配し、素通りした二人は「旅人を助けたら、自分はどうなってしまうか」と悩んだ。
ーーー「自分がビザを発行しないと、あのユダヤ人たちはどうなるか」と考えた外交官がいましたね。
ーーー杉原千畝(すぎはらちうね)。彼も善きサマリア人ということになるだろう。こんな話もある。
 児玉はたとえ話の次に実際にあった出来事をマリアに話して聞かせた。
 飛行機の中で急病人が出て、客室乗務員のドクターコールに応じた医師が診察すると、上気道閉塞が起きていた。呼吸は停止し、意識がなかった。その人の妻に「何としても助けてほしい」と懇願され、医師は機内で気管切開を行った。かなり難しい処置だったが、成功した。飛行機は緊急着陸し、患者は病院に搬送されたが、気管切開をした際に、ナイフの刃先で血管を傷つけてしまい、それが原因の出血多量で死亡した。
ーーーその医師は患者のことを第一に考えて、最善を尽くしたと思います。
ーーー実はその飛行機にはほかにも二人の医師が搭乗していたが、彼らは名乗りを上げなかったことが後でわかった。この二人の医師は善きサマリア人だろうか?
ーーー助けたら、自分がどうなるかを考えた人たちだと思います。
ーーーこの話には後日談がある。助けようとした医師は過失致死の容疑で連行され、遺族からは損害賠償を請求された。もちろん、ほかの二人の医師は何も追及されなかった。
ーーーそれって善きサマリア人は損をするという教訓ですか?
ーーー「善きサマリア人法」というのがあってね、急病人などを救おうと善意の医療行動をとった場合、失敗してもその責任は問われないというものだ。これが日本では適用されにくいので、ドクターコールに応じたがらない医師も少なからずいる。


〈来栖の独白 2020.9.5. Sat〉
 中日新聞連載『パンとサーカス』(島田雅彦著)、最近になって目をやるようになった。
 読んでいて、先般の事件(?)を想起した。その事件はALS患者で意思通りに体が動かせず、近く失明するという女性が医師二人に頼んで死なせてもらった、というものである。医師二人は、殺害容疑で逮捕された。中日新聞の当連載とは異なるが、追い詰められた人間の切なる願いに応えたということでは、同様だ。
 「命は地球よりも重い」と言われて久しい。しかし、これはどうなのか。イエスは「いのちよりもたいせつなものがある」と言われる。私も、その(命よりも大切なものがある)ように思う。が、これを人間が云うのには相当の勇気が要る。考えてみたい。最も大事なものとは何か。

マタイ10章
28また、からだを殺しても、魂を殺すことのできない者どもを恐れるな。むしろ、からだも魂も地獄で滅ぼす力のあるかたを恐れなさい。
34 地上に平和をもたらすために、わたしがきたと思うな。平和ではなく、つるぎを投げ込むためにきたのである。
35 わたしがきたのは、人をその父と、娘をその母と、嫁をそのしゅうとめと仲たがいさせるためである。
36 そして家の者が、その人の敵となるであろう。
37 わたしよりも父または母を愛する者は、わたしにふさわしくない。わたしよりもむすこや娘を愛する者は、わたしにふさわしくない。
38 また自分の十字架をとってわたしに従ってこない者はわたしにふさわしくない。
39 自分の命を得ている者はそれを失い、わたしのために自分の命を失っている者は、それを得るであろう。


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