自動車産業は「危機後」をにらんだ布石を  トヨタ、豊田章男副社長が6月末に社長に昇格

2009-01-09 | 社会
日経新聞 社説1 自動車産業は「危機後」をにらんだ布石を(1/7)
 自動車産業が試練の季節を迎えている。2008年の国内新車販売は前年比5.1%減の508万台に落ちこみ、ピークの1990年の3分の2に縮小した。最強企業といわれたトヨタ自動車さえ今期は連結営業赤字に陥る見通しで、収益面でも急ブレーキがかかった。
 世界に目を広げると事態はさらに深刻だ。米国ではゼネラル・モーターズ(GM)やクライスラーは、米政府の支援で何とか持ちこたえている状況だ。欧州や中国でも販売は減速し、「自動車の危機」は世界に広がっている。
 米国発の金融危機はまず各国の金融機関を直撃し、それに続いて自動車産業を窮地に追い込んだ。先行き不安から世界的に個人消費が冷え込んだ上に、信用システムの変調で米国などでは自動車ローンが利用しにくくなった。自動車産業はすそ野が広いだけに、雇用や実体経済への悪影響が懸念されている。
 とはいえ、各国政府は個別メーカーへの直接的な支援にはできる限り慎重であるべきだ。政府の介入は競争による優勝劣敗を否定し、経営内容の悪い企業を救うことで産業構造の転換や業界再編を遅れさせる。自国企業優先主義が世界に広がれば、保護主義にもつながる。
 自動車会社が自力で危機を克服するためには、2つポイントがある。1つは日米欧の先進国市場だけでなく、BRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国)などの新興市場の開拓に注力することだ。
 08年のBRICs4カ国の新車販売は1500万台を突破し、米国を史上初めて上回った。新興市場でも新車の売れ行きは鈍っているが、自動車普及率の低さなどを考慮すると、潜在的な成長性はまだまだ高いとみるべきだ。新興国の中間層を引き付けるような、価格が手ごろで魅力のあるクルマの開発が各社の競争力を左右するだろう。
 もう1つの方向性は環境技術だ。二酸化炭素の排出を減らすために、各国政府は燃費規制の強化を急いでいる。税制面の優遇などで、環境性能の高いクルマへの買い替えを促す政策も広がっている。
 低燃費エンジンやハイブリッド車、さらに燃料電池など環境技術の重要性は高まるばかりだ。「経営が苦しいから」という理由で、環境に手を抜くと致命傷になりかねない。
 自動車を取り巻く状況は厳しいが、各社の経営者はコスト削減や人員削減のような当座をしのぐ策だけでなく、「危機の後」を想定した長期の布石をしっかり打ってほしい。
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トヨタ社長に豊田章男氏、14年ぶり創業家 6月就任
 トヨタ自動車は豊田章男副社長(52)が6月末に社長に昇格する人事を固めた。渡辺捷昭社長(66)は副会長に就任、張富士夫会長(71)は留任する見通し。トヨタは世界的な販売不振で、2009年3月期の連結営業損益は戦後初の赤字に陥る見込み。14年ぶりに創業家出身者を社長とすることで、グループ全体の求心力を高めて、業績改善を急ぐ。
 12日にも渡辺社長以上の最高幹部が会合を開いて内定し、6月末に開催予定の株主総会後の取締役会で正式に決定する。豊田章男氏は事実上の創業者で2代目社長の豊田喜一郎氏の孫で、豊田章一郎名誉会長(83)の長男。2000年に取締役に就任してからは、中国事業や調達部門の担当を経て、現在は副社長として国内営業や海外事業、商品企画部門などを率いている。 [1月9日/日本経済新聞 朝刊]

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