『感性創房』kansei-souboh

《修活》は脱TVによる読書を中心に、音楽・映画・SPEECH等動画、ラジオ、囲碁を少々:花雅美秀理 2020.4.7

・後日譚:『靴下の失踪と捜索』

2012年12月15日 14時38分27秒 | ■つれづれに(日記)

 

 前3回シリーズの『靴下の失踪と捜索』(上・中・下)は、数人の友人・知人に活気ある議論の場を提供し、さながら《靴下フォーラム》の観を呈した。

 筆者と同じ「団塊世代」のO氏は、『まったく同感であり、自分のことを言われているようだ』と、いかにも嬉しそうに語った。今回の件で、筆者にいっそう親近感を持ったとの彼の言葉に、『失踪靴下もまんざらではない』と秘かに快哉を叫んだ。何よりも“同じ感性”の「寡夫の同志」を勝ち得たことは心強い。
 
 だが、四十代の独身華族W君は、わが愛弟子U君同様、『靴下の片方だけが失われることなど想像できない』と、筆者の繊細な感性を悲しませた。のみならず、『どうしてそういうことが起きるのだろうか』と、可愛げのない口調で一気にビールを飲み干した。彼が「失踪靴下」の「調査委員長」にでもなれば、執拗な追及は必至と思われた。
 
       ☆
 
 その一方、この「フォーラム」において大変興味深い発言がもたらされた。妻帯者の某君(三十半ば)だ。彼は結婚前、“几帳面”でもなければ、“細心の注意を払う”タイプでもなく、どちらかと言えば、「ずぼら族」に分類されていたという。
 しかし、結婚後しばらくして、〈転向〉したようだ。その「理由」は「或る筋からのお達し」として明かされなかったが、家のあちらこちらに、某君の物とは異なった靴下が散見されるようになったからとのこと。
 
 なるほど「寡夫でない者」は、それはそれで大変のようだ。筆者は、某君邸における彼の奮闘の様子を想像した。「靴下取扱管理責任者」をめざして、自らに特訓を課している某君――。その涙ぐましいそして健気(けなげ)な姿に、筆者はしみじみと実感した。……よかった! 一人身で……。
 
       ☆
 
 それ以来、筆者の意識の片隅を、「某君邸」がちらちらと掠めるようになった。
 そこで数日前、筆者は勇気を奮い起して「或る女性」に尋ねることにした。筆者が講師をしている「職業支援訓練校」事務局のAI嬢だ。
 「質問」が質問だけに、壊れものに触るように恐る恐る尋ねた。彼女は、両親と三人で住んでいるという。
 
 ――あのう……。つかぬことを……。
 
 と言いだしたものの、一瞬、怯(ひる)んだ。それでも勇気を奮って、
 
 ――女性は……靴下を脱ぐでしょ……そのあと脱いだものは……。
 
 途切れがちの言い方となった。だがAI嬢は筆者が言わんとすることを瞬時に察した。
 
 ――ああァ。私って片づけや整理が得意ではない人なんです。
 
 筆者は思わず『やった~!』と心の中で叫んだ。
 
 ――脱いだ靴下でしょ? 
 
 AI嬢は、講師控室の「チリカゴ」に視線を走らせながら、 
 
 ――脱いだあとって丸くなりますよね。それで、転がってこういう隅っこの「チリカゴ」なんかの後ろに入り込んだり……。
 
 
 ……『丸くなり……転がって……後ろに入り込んだり』……言葉が断片的に、筆者の全身を電撃的な早さで駆け巡った。
 
 何という表現! 何と本質を突いた言葉だろうか! 
 
 これだ! 丸くなる → 転がりやすくなる → 失踪……の可能性が格段に上がる
 
 ここに靴下失踪“究極の原点”が言い尽されている。その本質を見事に言い表したAI嬢の怜悧な分析と、優れた言語センスに驚きかつ敬服した。
 
 まさしく《コロンブスの卵》の「逆バージョン」である。丸い卵は転がる。but しか~し、卵の一部をフラット(又は「窪み」を付ける)にすれば転がることはない。
 同様に、本来、転がるはずのない「フラットな靴下」が、脱いだ状態のまま「丸く」なっていれば、自然に「転がる」。まさしく「真理」は、そして「真実」は、実に身近なところにあり! しかも、超シンプルなのだ!
 
 彼女は続ける――。
 
 ――父から「転がっている靴下」を指摘されたり……。
 
 学校の事務の仕事をテキパキそつなくこなす彼女――。一方、脱いだ靴下について父君から諭されている彼女――。その“二つの彼女”が、なかなか結び付かなかった。AI嬢はさらに続ける。
 
 ――脱いだ靴下って、よく洗濯機のまわりやその下にありますよね……。
 
  『その下に』という言葉に、筆者は超高速反応を示した。
 ……そうか。「洗濯機」の「まわり」だけでなく、「洗濯機の下」か……。
 
  「洗濯機周囲」の捜索だけで諦めていた筆者は、微かな希望の光を感じた。
  ……初心に帰り、新たな気持で「捜索」をやり直してみよう……。
 
         ☆
 
 その数日後、「不動産流通業務科」の教え子T氏と話す機会があった。年齢がひとまわり下の同氏は無論「寡夫」。『煙草を止めきれない』と自嘲気味に言う。
 
 ――アメリカであれば、「太った喫煙者」など、まず出世しませんからね。自己管理ができないということで……。
 
 然(しか)り。それは今や欧米及び日本における「グローバル・スタンダード」と言えるのかも知れない。
 ……ではあっても彼は、「脱いだ靴下の処置」については、俄然、活き活きとした眼差しに変わり、語気も弾んでこう言うのだった。
 
 ――靴下が行方不明? いやあ、あり得ないです。揃えて脱ぐし、洗濯したものは一組ずつきちんと干すわけですから。あり得ないです。絶対に……。部屋にチリが落ちていることに気づいた場合、僕は夜中であっても飛び起きて掃除をしますからね。
 
 筆者の耳の底でこだまのように繰り返される『あり得ないです。絶対に』……。
 しかし、紛れもない事実としてこの身に起きているという現実そして真実。その“真実の追求”のためにも、一刻も早く“捜索”の再開をしなければならない。
 
 そう決意した筆者は、まずは「洗濯機の」を捜索するべく力強く立ち上がった……。(
 
        ★   ★   ★
 
 ――立ち上がったそばから申し上げるのもなんですが……。 あたくし、「靴下失踪の究極の原点」が、「丸められて転がりやすくなった靴下」にあるとはとても思えないの。もし「究極の原点」いえ「究極の真実」があるとすれば、それはおそらく「靴下をそのように放置した行為者」にこそあるような気がして……。
 


1 コメント

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ありがたくはあるものの (靴下28号)
2014-10-22 11:30:51
 「靴下の失踪と捜索」シリーズ、楽しく拝読。ほんとに靴下はありがたいものであり、やっかいなもののようで。
 当方も大いに悩んでいます。しかし、丸くなった靴下はころがりやすいとはまさに大発見。感服。
 
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