『感性創房』kansei-souboh

《修活》は脱TVによる読書を中心に、音楽・映画・SPEECH等動画、ラジオ、囲碁を少々:花雅美秀理 2020.4.7

・「家族」の“形”に込められたもの……/『六月の綻び』(下:3)

2014年09月25日 00時05分51秒 | ●演劇鑑賞

 

  前回最後からの続き――

兄「どっちだよ! どっちがやったんだよ!」

 〈〉と〈〉の双方に包丁を突き付けながら迫る〈〉。

 

弟「やめなよ。危ないよ。」

兄「どっちかなんだろ!」

妹「やめなって。振り回したら危ないよ。」

兄「どうしてあと少しの我慢ができなかったんだよ! あと少し我慢すればさ、俺たちは社会出れたんだよ! この家から出れたんだよ! なあ!」

 そう言って〈兄〉は、〈弟〉と〈妹〉の二人にあらためて包丁を突き付ける。

弟「怪我でもしたらどうするんだよ。」

 と言って〈兄〉を制する。

兄「(包丁を二人に向け)俺から居場所をとるなよ。……お前らなんかさ、殴られていればよかったんだよ。殴られていれば、俺たちはまともな家族でいられたんだよ。」

妹「近所迷惑だよ。」

兄「どっちだよ。どっちが殺したんだよ!」

 半ば怒鳴りつけるように、二人に凄む〈兄〉。

弟「何言ってんだよ。兄貴。」

妹「しっかりしてよ。お兄さん。」

兄 ★1「……父さんたち殺したんだろ? お前か! それともお前か!(そう言って順次、弟と妹に相手に包丁を向ける)。どうしてあとちょっと我慢が出来なかったんだよ。あと少し我慢してさ、この家から出れば、自分で金稼いで、結婚して、子供産んで、新しい家族作ってさ。お前らの苦しみなんて笑い話にできただろ? 俺は幸せになれたんだよ! お前らが余計なことをしなければさ。殴られてばよかったんだよ。無抵抗に殴られていればよかったんだよ。そうやって殴られていれば…それがお前らの役割で…それが俺たちの家族の形だったんだよ。聞いてんのかよ!」

妹「出てって……この家から出てって。」

兄「何で俺が出て行かなきゃいけないんだよ

妹「いいから。出てって!」

 〈妹〉の叫びと同時に、〈弟〉が分厚い本の角で〈兄〉の後頭部を殴る。〈兄〉は倒れるものの、殴られた頭を抱え込むように起き上がろうとする。その〈兄〉に包丁を突き付ける〈妹〉。殴られた頭を押さえながら、後じさりする〈兄〉。

 ――激しくなる雨音

 

兄「何だよ。」

妹「ルール破った。お兄さんは自分で作ったルールを自分で破った。」

 包丁を突き付けながら〈兄〉に迫る〈妹〉。

兄「そんなもん、人に向けたら危ないって。」

妹「出て行け。」

兄「落ち着けって。」

妹「(いっそう包丁を突き付けながら)出て行け!」

兄「なあ。おい。」

妹「出て行け!」

 強い厳しい口調で叫ぶ。

 ――さらにいっそう激しくなる雨音

 ――暗転(舞台の照明が消える)。

      ☆

 

  「次のシーン」の「始まり」は、NTTの「時報」を告げる女性の声。10秒ごとに時間が刻まれていく。朝の9時になろうとしている――。

   その薄暗い中を、〈〉と〈〉の二人が動いています。

  〈(次兄)〉がにある “布製の物” を “剥ぎ取る” ような動作をしています。しかし、〈弟〉の視線の先は観客には “見えない” ため、すぐには “それ” が何であるのかは判りません。“脱がせた” ように見えなくはありませんが、やはり “その物”は “剥ぎ取った” と言う方が適切な表現なのかもしれません。「その物」とは、どうやら「シャツ」のようです。〈〉は今 “剥ぎ取った白いシャツ” をハンガーに掛けようとしています

   照明が入り、シャツの「模様」が見えています。どうやら、“赤い液体が飛び散った”ようなサイケデリック調であり、〈(長兄)〉が着ていた「シャツ」とよく似ているような気がするのですが……。

 

   ――雨の音。

   部屋の中に、〈〉と〈妹〉の二人が座っている。

 〈妹〉は「雨の音」についてあれこれその「オノマトペ(擬声語)」を呟いている。その間、〈弟(次兄)〉は、俯き加減に沈んだ表情で黙っている。ひどく落ち込んだ様子。それでもときおり、〈妹〉に対して力のない小さな声で『ごめん』と言う。

        ☆

弟「あのさあ。兄貴はいなくなっちゃったけどさ。でていっちゃったけど……兄貴はカッコいいよ。ちゃんと僕たちのことを考えてくれていたし、いつも見てくれてた。」

 〈弟〉はそのあと、小さい頃、〈兄〉が遊んでくれたことを〈妹〉に語る。

        ☆

弟「僕は兄貴がいなくなって正解だと思ってるよ」

妹「(弟に視線をおくりながら)ルール。」

弟「……」

妹「ルール破った前の家族の話……禁止。」

 〈弟〉は了解したように軽く頷く。その〈弟〉を見つめる〈妹〉。二人の間に沈黙が流れる。(続く)

        ★   ★   ★

 ※註:上記の「台詞」は、「DVD」の「2回の公演」から筆者自身が、いわゆる「テープ起こし」をしたものです。“聞きとり”が可能な部分を中心にまとめましたが、多少、「省略」したり、「要約気味にまとめた部分」もあります。

 以上、ご理解ご了承ください。 花雅美 秀理



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