哀しみに打ちのめされず新たな「対策」を
「津波」という途方もない「自然のエネルギー」。まるで怒りを込めて襲いかかるかのような形相と勢いを感じました。激しく押し流しながら形ある物を消失させ、地上におびただしい瓦礫を残しました。かって存在した建築物、構造物、車両、そして街、村、集落。何という“存在と無”の不条理なのでしょうか。貴い生命を奪い、家族や人々を引き裂きながら、哀しみと絶望を残して去った天災の残酷さ。
累々と残された「コンクリート基礎」を目で追いながら、訳のわからない昂りを抑えていました。「建物の基礎」には、間違いなく「人々の暮らしの拠点」があったのです。「基礎」に支えられた「建物」には、「家庭の団欒」や「家族の絆」が繰り広げられていたのです。
何と無情な光景でしょうか。しかし、哀しみにくれるばかりではいけません。「地震」そして「津波」は、必ずまた訪れるわけですから。現に余震として繰り返されているのですから。次の「地震」や「津波」などの「被害」を少しでも回避するためにも、今回の大震災を教訓とした「あたらなる対策」を講じなければと思います。
今回の「東日本大震災」は、「建築構造」に関する一つの限界を浮き彫りにしたように思います。結論的に言えば、「建築基準法」は、基本的には「地震」や「火事」を想定したものであり、「津波」に対する「建築構造」まで言及するものではありません。というより「津波」は別格だと思います。
確かに「建築基準法第39条」に、「津波」という「用語」が出てきます。
第三十九条 地方公共団体は、条例で、津波、高潮、出水等による危険の著しい区域を災害危険区域として指定することができる。
2 災害危険区域内における住居の用に供する建築物の建築の禁止その他建築物の建築に関する制限で災害防止上必要なものは、前項の条例で定める。
しかし、これだけなのです。そこで「津波」に関する直接的な法令があるはずと思って探してみました。やはりありました。
ただし、残念ながら「公布・施行以前の法案」の段階です。これを期に、早急に再検討や整備が進み、一刻も早く「公布・施行」となることを願うばかりです。
『地デジ化推進』よりも『津波対策推進』が先にあれば……
もしこの『津波対策』が、『地デジ化対策』のようにあれだけの「長い期間」と「頻度」でなされていればと、つくづく思います。「法案」に目をとおしていただければ判るのですが、「公布」の予定は「昨年中」のようでした。
もし『津波対策推進法』が公布そして施行されていれば、あるいは今回の大震災ことに「津波」に対する人々の意識や対応も、もっと現実対応型になっていたかもしれないと思わざるを得ません。
少なくとも、このたびの『地デジ化対策』同様、かなりの意識の浸透と行動の実践を呼び起こしていたのではないでしょうか。そう思えてなりません。
テレビ、ラジオ、新聞、あらゆる雑誌や媒体を通して、機会あるごとになされていれば……。そしてあの【地デ鹿】のように、連日連夜「津波のキャラクター」が画面に登場していたら……。そして法が規定するような「津波対策」のための「教育・訓練」がなされていたら……。それらに即した「地方」の「各自治体」「民間組織」さらに「各個人」レベルでの「対策」や「対応」がもっともっと図られていたのでは……。おそらくさまざまな「報道」や「議論」や「日常的会話」が繰り返されていたことでしょう。「結果論」として簡単に割り切れないものを感じます。
そこで少し長いかもしれませんが、重要なものであるため以下に「法律案」の「全文」(第174回、衆第28号)を掲載します。
しかし、「法令文」になれない方は大変だと思いますので、「第一条の目的と「第二条の津波対策を推進するに当たっての基本認識」の「二条」だけで充分です。「第三条」以降は、「総論」ともいうべき「第一条と第二条」の「各論」のようなものですから。(※「アンダーライン」及び「文字の彩色・強調」は筆者)
(目的)第一条 この法律は、津波による被害から国民の生命、身体及び財産を保護するため、津波対策を推進するに当たっての基本的認識を明らかにするとともに、津波の観測体制の強化及び調査研究の推進、津波に関する防災上必要な教育及び訓練の実施、津波対策のために必要な施設の整備その他の津波対策を推進するために必要な事項を定めることにより、津波対策を総合的かつ効果的に推進し、もって社会の秩序の維持と公共の福祉の確保に資することを目的とする。
(津波対策を推進するに当たっての基本的認識)
第二条 津波対策は、次に掲げる津波に関する基本的認識の下に、総合的かつ効果的に推進されなければならない。
一 津波は、一度発生すると、広域にわたり、国民の生命、身体及び財産に甚大な被害を及ぼすとともに、我が国の経済社会の健全な発展に深刻な影響を及ぼすおそれがあること。
二 津波は、他の自然災害に比べて発生する頻度が低いことから、津波及び津波による被害の特性、津波に備える必要性等に関する国民の理解と関心を深めることが困難であること。
三 津波は、その発生に際して国民が迅速かつ適切な行動をとることにより、人命に対する被害を相当程度軽減することができることから、あらかじめ、津波について防災上必要な教育及び訓練、防災思想の普及並びに避難施設の着実な整備等を推進することが特に重要であること。
四 津波は、被害の発生を防止し、又は軽減するためにその規模等を迅速かつ適切に予測する必要があること、津波による被害の詳細な予測がいまだ困難であること等から、観測体制の充実並びに過去の津波及び将来発生することが予測される津波並びにこれらによる被害等に関する調査研究を推進することが重要であること。
五 津波は、国境を越えて広域にわたり伝播する特性を有していること、各国における調査研究の成果を国際的に共有する必要性が高いこと等から、観測及び調査研究に係る国際協力を推進することが重要であること。
(この法律の趣旨及び内容を踏まえた津波対策の実施)
第三条 国及び地方公共団体は、災害対策基本法(昭和三十六年法律第二百二十三号)、地震防災対策特別措置法(平成七年法律第百十一号)その他の関係法律に基づく災害対策を実施するに当たっては、この法律の趣旨及び内容を踏まえ、津波対策を適切に実施しなければならない。
(連携協力体制の整備)
第四条 国は、津波対策を効果的に推進するため、国、地方公共団体、大学等の研究機関、事業者、国民等の相互間の緊密な連携協力体制の整備に努めなければならない。
(津波の観測体制の強化及び調査研究の推進)
第五条 国は、津波による被害の発生を防止し、又は軽減するため、津波の観測体制の強化に努めなければならない。
2 国は、津波の発生機構の解明、津波の規模等に関する予測の精度の向上、地形、土地利用の現況その他地域の状況を踏まえて津波による被害を詳細に予測する手法の開発及び改善、津波による被害の防止又は軽減を図るための施設の改良、津波に関する記録(国民の津波に関する体験の記録を含む。)の収集その他津波対策を効果的に実施するため必要な調査研究を推進し、その成果の普及に努めなければならない。
(地域において想定される津波による被害の予測等)
第六条 都道府県及び市町村は、地形、土地利用の現況その他地域の状況及び津波に関する最新の知見を踏まえ、津波により浸水する範囲及びその水深その他地域において想定される津波による被害について、津波の規模及び津波対策のための施設の整備等の状況ごとに複数の予測を行い、その結果を津波対策に活用するよう努めなければならない。
2 都道府県及び市町村は、前項の予測の内容を、津波により浸水するおそれのある地域の土地利用の現況の変化、津波に関する最新の知見等を踏まえて、適宜、適切な見直しを行うよう努めなければならない。
3 国及び都道府県は、市町村が第一項の予測及びその結果の津波対策への活用を適切に行うことができるよう、情報の提供、技術的な助言その他必要な援助を行うよう努めなければならない。
(津波に関する防災上必要な教育及び訓練の実施等)
第七条 国及び地方公共団体は、第五条第二項の調査研究の成果等を踏まえ、国民が、津波に関する記録及び最新の知見、地域において想定される津波による被害、津波が発生した際にとるべき行動等に関する知識の習得を通じ、津波が発生した際に迅速かつ適切な行動をとることができるようになることを目標として、学校教育その他の多様な機会を通じ、映像等を用いた効果的な手法を活用しつつ、津波について防災上必要な教育及び訓練、防災思想の普及等に努めなければならない。
(地域において想定される津波による被害についての周知等)
第八条 都道府県及び市町村は、地震防災対策特別措置法第十四条第一項及び第二項の規定により津波により浸水する範囲及びその水深を住民に周知するに当たっては、第六条第一項の予測の結果を活用するとともに、印刷物の配布のほか予測される被害を映像として住民に視聴させること等を通じてより効果的に行うよう努めなければならない。
2 都道府県及び市町村は、津波により浸水すると想定される範囲に地下街その他地下に設けられた不特定かつ多数の者が利用する施設又は主として高齢者、障害者、乳幼児その他の特に防災上の配慮を要する者が利用する施設で津波からの迅速かつ適切な避難を確保する必要があると認められるものがある場合にあっては、当該施設の所有者又は管理者への前項の周知に特に配慮するものとする。
3 第六条第三項の規定は、市町村が行う第一項の周知について準用する。
(津波対策のための施設の整備等)
第九条 国及び地方公共団体は、津波対策に係る施設の整備等においては、次の事項に特に配慮して取り組むよう努めなければならない。
一 最新の知見に基づく施設の整備の推進
二 既存の施設の維持及び改良
三 海岸及び津波の遡上が予想される河川の堤防の性能(地震による震動及び地盤の液状化により破壊されないために必要とされる性能を含む。)の確保及び向上
四 海岸及び津波の遡上が予想される河川の水門等について津波が到達する前の自動的な閉鎖又は遠隔操作による閉鎖を可能とするための改良
五 津波避難施設(津波により浸水すると想定される地域における一時的な避難場所としての機能を有する堅固な建築物又は工作物をいう。)の指定の推進
(津波対策に配慮したまちづくりの推進)
第十条 地方公共団体は、まちづくりを推進するに当たっては、津波対策について考慮した都市計画法(昭和四十三年法律第百号)第八条第一項第一号の用途地域の指定、建築基準法(昭和二十五年法律第二百一号)第三十九条の災害危険区域の指定等による津波による被害の危険性の高い地域における住宅等の立地の抑制、津波が発生した際に沿岸部の堅固な建築物を利用して内陸部への津波及び漂流物の侵入を軽減する仕組みの構築、沿岸部の多量の危険物を扱う施設における安全対策の推進その他の津波対策の推進に配慮して取り組むよう努めなければならない。
(災害復旧)
第十一条 災害復旧に関する国の制度は、津波による被害からの復旧にも十分配慮されたものでなければならない。
(津波対策に関する国際協力の推進)
第十二条 国は、津波が、国境を越えて広域にわたり伝播する特性を有していること、各国における調査研究の成果を国際的に共有する必要性が高いこと及び我が国において蓄積された津波に関する知見の国際的評価が高いことにかんがみ、津波による被害の発生を防止し、又は軽減するための国際協力の推進について、次に掲げる事項に特に配慮して取り組むよう努めなければならない。
一 国際的な観測及び通報のための体制の整備
二 海外への研究者の派遣
三 外国人研究者及び外国人留学生の受入れ並びに帰国後のこれらの者との継続的な交流及び連携
四 我が国において蓄積された知識、技術、記録等の海外への提供
五 海外の被災地域に対する適切かつ迅速な援助の実施
(津波の日)
第十三条 国民の間に広く津波対策についての関心と理解を深めるようにするため、津波の日を設ける。
2 津波の日は、十一月五日とする。
3 国及び地方公共団体は、津波の日には、その趣旨にふさわしい行事が実施されるよう努めるものとする。
(財政上の措置等) 第十四条 国は、津波対策の推進に関する施策を実施するため必要な財政上又は税制上の措置その他の措置を講ずるよう努めるものとする。
2 国は、都道府県又は市町村が、地形、土地利用の現況その他地域の状況及び津波に関する最新の知見を踏まえ、津波により浸水する範囲及びその水深その他地域において想定される津波による被害について、津波の規模及び津波対策のための施設の整備等の状況ごとに複数の予測を行う場合又はその内容を住民に視聴させるための映像を作成する場合には、その費用の全部又は一部を補助するものとする。 ―続く