3月14日朝、大学時代の親友S君から、去年の5月以来久しぶりにメールが来た。『小生、この3月15日で現職を退任します。帰京する前に3月21日から九州に旅行しますが、22日に博多で会えればと思っています。都合はいかがですか。その日に神戸に帰る予定です』とある。
彼が会いたいと言うその日22日は、翌日に控えた母の「三回忌」のため、神奈川と東京在住の実妹二人が来福する予定。いつもは筆者が迎えに行くのだが、今回は運がよいことに実兄の担当となっていた。
彼との再会は3年振りだろうか。筆者は拙宅に泊まるよう促し、一杯やりながらゆっくり話をしよう。と返信した。
数年前に細君に先立たれたS君。サラリーマンとしての後半は、ほとんどあちこち単身赴任を繰り返しており、最後は神戸に赴任していた。そしてバツイチで一人暮らしの筆者。
……誰に気兼ねすることなく飲み明かすことができる……と互いにそう思ったはずだ。そして現実もまさにその通りになった。
22日昼過ぎ、筆者は博多駅まで迎えに行った。その後、いつものように彼が好きな『因幡うどん』を食べ、筆者同様海が好きな彼のために百道(もも)浜まで案内し、二人して人工の海岸を歩いた。ほとんど人気がないだけに風が一段と冷たく感じられた。
夕食を簡単に済ませ、晩酌用にと互いの好物の「辛子めんたい」を調達した。和室に座卓を出し、いつでも布団に潜り込める態勢でささやかな宴が始まった。メインはこれまた共に大好きな「ジャックダニエル」。筆者はその「お湯割り」を勧めた。彼は「お湯割り」は初めてという。飲みすぎることなく心地よく酔えると筆者が言うと、彼はひどく感心していた。
舞台が整えば後はもうこれしかないと、筆者は22日午前0時にアップしたばかりの『三つのアヴェ・マリア』に目を通してもらった。そして、“三大アヴェ・マリア”それぞれに耳を傾け始めた彼は、いたく気に入った様子で目を瞑り、心地よさそうに俄か指揮者を演じ始めた。
『電気を消して聴くのも悪くないな』と呟く彼のため、筆者は法事用の大きな蝋燭を灯して電気を消した。
シューベルト、カッチーニ、そしてグノー(バッハとのコラボ)の三つの「アヴェ・マリア」が何度も繰り返された。
彼はいっそう興にのってきた。クラッシック好きの彼のためにと、筆者はスペシャルメニューの楽曲を用意した。それはJ.S.バッハによるカンタータだった。彼の満足度が一段とアップした。
「バロックみたいだ」と呟くS君。後で調べたところ、バロックとはまさにこのJ.S.バッハを最後とするようだ。
有名な『主よ。人の望みの喜びよ』のタイトルで知られるこのカンタータ。読者もぜひお試しあれ……。
下のリンク先に3つの「You Tube」の画面が出てきます。その一番目と三番目がそうです。それぞれに味のあるバロック調のカンタータです。
試聴:『主よ、人の望みの喜びよ』
★バロック:1600年頃からJ.S.バッハが死去する1750年頃までの西洋音楽
★カンタータ:バロック時代の重要な声楽形式の一つ
※出典はいずれも「ブリタニカ国際大百科事典」より抜粋。