敗戦色濃い、昭和19年の夏の終わりに
「赤紙」がきました
その出征前日、慌しい婚礼がありました
たった一夜の契り・・・
翌日、日の丸と軍歌と歓喜に送られて
それはそれは、立派な出征だったそうです
間もなくして、戦死の知らせが届きました
花嫁さんは、やむなく実家に戻り
男児がうまれました
しばらくして、良縁に恵まれ
子どもを実家に残し、再婚しました
先妻の子も、自分の子も立派に育てました
あの日からずうっと
春の彼岸、お盆、秋の彼岸と
年に三度の墓参りは、かかしませんでした
その人の名を 「オアキさん」 と呼んでいました
子ども心に
「自転車で来るオアキさん」は 偉いとおもいました
毎年、必ず来るからです
こんなにも
切なく、やるせない、過去があったことなど
知る由もありません
知ったのは、父と母の死後のことです
思うほどに
悔やまれて、胸がつまります
その「オアキさん」は、今年から来ません
二日前、二人の夫の元へ旅たちました
享年 91歳
戦争に翻弄された人生が
またひとつ、消えていきます
父の代に納めた位牌があります
昭和19年10月4日
硫黄島ニ於イテ戦死
陸軍兵長 叶 清十郎
行年 28歳
合掌・・・
Ps:名前は仮名です。