35kmを通過して新川通りに戻ってきた。30km手前では感じなかった呼吸にも乱れが出ていた。脚の重さもピークに達してきていた。並走しているH氏には余裕はあるのだろうか。表情からわからなかった。宮の森北24条通りには戻らずに、新川通りを、左手に北大の広大なキャンパスを見ながら、進路を南に取る。そして昨年のリタイヤ地点である36kmを通過した。すべての重荷を取り払った。後は未知の領域に入るだけだ。
ここまで3時間以上。日はもう西に傾き、容赦ない日差しを浴びせかけてきた。ゆるい登りがやけに気になる。そして37.5kmの給水地点が見えた。ここではアミノのメンバーであるcocoさんとみりんさんがボランティアをしている。今年はここまで来ると約束した。手前で水を取り、口に含む。もう沢山は飲めない。それより頭からかぶった。ボランティアの皆さんは、次々と来るランナーみんなに水が行き渡るよう、一生懸命動いていた。二人を見つけられなかった。でもそんな一生懸命の姿が元気をくれた。
その時だ。H氏が腹痛を訴えたのだ。脇腹が痛いと。おそらく水分を取り過ぎたせいだと言っていた。「気にしないで先に言ってくれ」と言った。ここまで一緒に走ってきた彼をおいて行くことには躊躇いを感じないわけはなかった。一緒にゴールすると決めていたから。しかし彼は言った「大丈夫だから」と。彼は、ここでペースを落としてまで一緒に完走することは望んでいない。そう、ライバルなのだ。残りは5km弱。走れていないわけではない。ここで先に行くことを決めた。逆に行かなければ、地力で勝るH氏が回復したら、ついていけないと思うことにした。(事実危なかったのだから)
ペースを戻した、その瞬間、「KENさん!」誰かが軽く肩を叩いて前に出た。
波平さんだった。後ろいることはわかっていたが、距離は分からなかった。ずっとついて来ていたのか?彼がすっと前に出た。すぐわかった。彼にはまだまだ余裕があると。3m、5m、7mと開いていった。今までH氏と並走していたおかげもあって、ペース作りに気を使わなくてよかった。しかし一人となった今、残りが5kmとはいえ、自分でペースを作っていくのは至難の状態だった。手にはしびれが来ていた。
「ついていかないと」。
そう思った。ペースを上げた。そして波平さんに言った。
「つけるとこまでつかせて下さい」と。
並走が始まった。新川通りから石山通りに入った。もう目の前は大通り。39km地点でまたまたオレンジ帽子のタンバリン隊が目に入った。まさかここにいるとは思わなかったから嬉しかった。最後の元気をもらった。それでも何気にペースが上がっている。波平さんが上げているのだ。離されたらだめだ。
大通りに入る。声援が一気に増えた。波平さんのペースは落ちない。全身にしびれを感じる。限界だった。もう目の前は駅前通り。波平さんが遠のいていく。しかし、終わりじゃない。
あと2.195km
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