クリスマスを間近に控えた日曜日、僕はマフラーを買うためにTeijin Men's Shopへ行った。
寒さに手をこすりながら歩く街角から聞こえる音楽は、クリスマス・ソングよりも寺尾聡だった。
色とりどりのマフラーを物色し終わり、レジへ向かおうとする僕は、一人の女の子とばったり会った。
僕 「・・・」
女の子「KEVIN君じゃない?」
僕 「ひょっとして、あつ子?」
あつ子と僕は、高校の同級生だった。
バスケット部で活躍していた彼女は、どちらかというとボーイッシュな娘で、気の置けない友達ではあったが、女性を意識したことはなかった。
時に悪友たちが「あつ子は、お前に気があるぞ」と言うことがあったが、僕にはとてもそうは思えなかったし、僕自身もそんな気はなかった。
高校の卒業式を終え、同級生各々が次のステップへ移る束の間の空白である春休みに、男女何人かの仲間が集まり、パブへお酒を飲みに行った。
家で隠れて親父のウイスキーを飲むことはあったが、外の世界でお酒を飲みに行くのは初めてだった。初めてなのは、僕だけではなく、集まった仲間全員がそうだった。
皆、少し緊張しながら、大人へのドアを開けた。
勇気をしぼって入った大人の世界は、思いのほか楽しく、進学が決まった安堵感も手伝って、全員が大いに盛り上がった。
盛り上がりついでに、ある奴がとんでもないことを僕に言い出した。
「お前、ラブ・ホテル行ったことある?」
思わずのけずる。そして、僕がどんな回答をするのか皆が固唾をのんで注目している。
「馬鹿やろう。俺はハードボイルドだから、そんなことしねえよ。」内心ドギマギしながら格好つけて答える。事実、そんな所へ行ったことはなかった。
阿呆の友人は、更にとんでもない提案を持ち出した。
「今日のメンバー、男と女の数、同じだよな。だったら、カップルに分かれて、ラブ・ホテル探検に行かない?!」
酒は悪魔の水だ。勢いに乗って、この馬鹿げた提案に男ならず女の子までが賛成し、僕たちは数組のカップルに分かれてラブ・ホテルへ行ったのである。
男女の組み合わせが、何となく出来た。
僕の相手は、あつ子になった。
無人のフロントで試行錯誤しながらキーを受け取り、「では2時間後に集合ね」と声を掛け合いながら、各々が部屋に消えた。
ホテルの部屋で、あつ子と二人になった。気まずさを誤魔化すために二人で部屋を物色した。でも、そんな遊びは10分もあれば終わってしまい、何もやることがない。
ベッドの端と端に距離をおいて座った。
PUBの中では、お互いに大きな声で馬鹿話をし、爆笑したのに、こうして二人になると話すことが無い。
何となく、時間が重い。
こんな遊びを考えた奴を恨む。それに乗った自分に後悔する。
それが、あつ子と会った最後だった。
大学へ行く僕、専門学校に行くあつ子。
二人の糸は、この日を限りに交わることは無かった。
<つづく>
寒さに手をこすりながら歩く街角から聞こえる音楽は、クリスマス・ソングよりも寺尾聡だった。
色とりどりのマフラーを物色し終わり、レジへ向かおうとする僕は、一人の女の子とばったり会った。
僕 「・・・」
女の子「KEVIN君じゃない?」
僕 「ひょっとして、あつ子?」
あつ子と僕は、高校の同級生だった。
バスケット部で活躍していた彼女は、どちらかというとボーイッシュな娘で、気の置けない友達ではあったが、女性を意識したことはなかった。
時に悪友たちが「あつ子は、お前に気があるぞ」と言うことがあったが、僕にはとてもそうは思えなかったし、僕自身もそんな気はなかった。
高校の卒業式を終え、同級生各々が次のステップへ移る束の間の空白である春休みに、男女何人かの仲間が集まり、パブへお酒を飲みに行った。
家で隠れて親父のウイスキーを飲むことはあったが、外の世界でお酒を飲みに行くのは初めてだった。初めてなのは、僕だけではなく、集まった仲間全員がそうだった。
皆、少し緊張しながら、大人へのドアを開けた。
勇気をしぼって入った大人の世界は、思いのほか楽しく、進学が決まった安堵感も手伝って、全員が大いに盛り上がった。
盛り上がりついでに、ある奴がとんでもないことを僕に言い出した。
「お前、ラブ・ホテル行ったことある?」
思わずのけずる。そして、僕がどんな回答をするのか皆が固唾をのんで注目している。
「馬鹿やろう。俺はハードボイルドだから、そんなことしねえよ。」内心ドギマギしながら格好つけて答える。事実、そんな所へ行ったことはなかった。
阿呆の友人は、更にとんでもない提案を持ち出した。
「今日のメンバー、男と女の数、同じだよな。だったら、カップルに分かれて、ラブ・ホテル探検に行かない?!」
酒は悪魔の水だ。勢いに乗って、この馬鹿げた提案に男ならず女の子までが賛成し、僕たちは数組のカップルに分かれてラブ・ホテルへ行ったのである。
男女の組み合わせが、何となく出来た。
僕の相手は、あつ子になった。
無人のフロントで試行錯誤しながらキーを受け取り、「では2時間後に集合ね」と声を掛け合いながら、各々が部屋に消えた。
ホテルの部屋で、あつ子と二人になった。気まずさを誤魔化すために二人で部屋を物色した。でも、そんな遊びは10分もあれば終わってしまい、何もやることがない。
ベッドの端と端に距離をおいて座った。
PUBの中では、お互いに大きな声で馬鹿話をし、爆笑したのに、こうして二人になると話すことが無い。
何となく、時間が重い。
こんな遊びを考えた奴を恨む。それに乗った自分に後悔する。
それが、あつ子と会った最後だった。
大学へ行く僕、専門学校に行くあつ子。
二人の糸は、この日を限りに交わることは無かった。
<つづく>
子供頃の遊びってどこか残酷だったりするんですよね。
そしてなんかスッパイ!
それがKEVINのBLOGなんです。