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「犬とおじさん」スケッチ 2017年作 イタリア・ヴェネチア
※「水色の船のおじさん」の始まり1/3はこちら
おじさんは、「庭木にまんまとはめられたぞ!」と怒ってはいたが、
子犬を見ている姿はどこか嬉しそうである。
帰り道に子犬とペットショップに寄って
犬の育て方の本やらトイレやらドッグフードやらを買って
家で一緒に生活できるようにした。
子犬の名前はルーナと決めた。
ルーナは家の中が目新しいらしく
何でも興味をしめしていたが、
おじさんに「ダメだよ!」と注意されるので
目を白黒してムズムズしているようだった。
翌日、
職場にルーナを連れて行くわけにはいかないので、
少し心配だったがルーナを家において仕事に出かけることにした。
夜になっておじさんが慌てて仕事から帰ると
ルーナは玄関で待っていてピョンピョン飛び跳ね
嬉しそうにおじさんに飛びついてきた。
おじさんはルーナを抱きしめて撫ぜてやり、嬉しい気持ちの中でふと思った。
「ああ~この感じは何年ぶりだろうか・・・心が満たされていく気がする」
が、おじさんの顔はすぐに青ざめた。
なぜなら家の中はハチャメチャになっていて、
とても大切な思い出の品のすべてが噛みちらかされていたのである。
「ああ・・・・」
と、おじさんは声を失った
なんのことやら?
と、ルーナは相変わらずピョンピョンはねて嬉しそうである。
翌日、
あまりのショックに仕事を休んだおじさんは、
ボロボロになった思い出の品を集め、
ため息をつきながら眺めたあと、
何かを決意したかのように大掃除を始めて
思い出の品の全部を捨ててしまった。
そして
疲れて放心状態になってはいたが
ルーナが外に出たがるので一緒に散歩に出かけることにした。
人ごみから抜けて
教会前の静かな庭を歩いていた時
前から子犬を連れたおばさんとすれ違った。
子犬とルーナがじゃれ合って遊びだしたので
二人は立ち止まった。
おばさんが微笑んで「こんにちは~」と挨拶をした。
おじさんも「こんにちは!」と挨拶をかえした。
おじさんは思った。
「挨拶って気持ちがいいもんだな~」
その日から、
おじさんは挨拶が言えるようになり
自然で素直な人生が始まった。
そして今日、
あの挨拶を交わしたおばさんと子犬を
ルーナと一緒に水色の船に乗って迎えにいって、
近くの島まで遊びに行くところであった。
運河沿いの庭にピンクの花が咲いていた
そして花にはミツバチ達が嬉しそうにブンブン集まってるのである。
それを見たおじさんはこうつぶやいた。
「ほんと、こんにちは!って、いいものだな~」
おわり
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