検査から結果の出る1週間は思ったほど落ち込むことはなく『癌だったとしても・・・決して諦めない。検査結果は願
いである良性の結果に間違いない』を念仏のように唱え洗脳していた。寝つきが極端に悪くなったとか夜中に目が
覚めて『癌だったら・・・』と禅問答をすることもなかった。
かと言って全てが順調に行っている時のような爽快な気分で過ごしていた訳ではなかった。
世間は仕事納めの日、病院に向かう道も完全に年末モードに入り車の通りも少ない。病院につくと、ここも日頃とは
異なり通院する人の数も極めて少ない。診察室の前にある椅子に座り呼ばれるのを待つ。
俎板の鯉、ジタバタしても仕方がない。
診察室に入り椅子に座るや否や『結果は悪性ではないようです。黒であることは直ぐに分かるけど白であることの証
明は難しい。だからこの結果でも手放しで喜べずグレーと考えられる。最悪の悪性結果はなかったので取り敢えず
は良かったことになります』
大きな条件付きとはいえ、これまで何度も『結果は良性でした』との先生の説明を唯一の希望にして耐えてきたことが
現実となり飛び上がらんばかりの嬉しさだった。
臨床診断 胃癌再発の疑い
所 見 組織2片。いずれも幽門腺型の胃型粘膜で、びらん再生変化がみられる。
粘膜固有荘は浮腫状で軽度の好酸球の浸潤も伴っている。1片はびらん
面も採取されており、びらん面の肉片組織には異型な細胞が散在性に認め
られるが反応性の間葉系細胞の可能性もあり、明らかな腫瘍細胞の浸潤と
は判定できない。以上、標本上はびらん・びらん再生変化が基本であり、
腫瘍細胞の浸潤は明らかではないように思えるが、臨床的に悪性が疑われ
るのであれば再検を要する。
詳細はディスプレーに表示された報告書に沿って説明された。私の場合、鳩尾辺りまで胃を持ち上げて食道としてい
るので異常があれば食道ではなく胃に症状が出ていることになる。報告書では胃癌の疑いとあるから残存する食道で
はなく食道としている胃に症状があるとしている。
びらん再生変化・・・いつ頃からか時期ははっきりしないが治癒、再発の繰り返しをしていたことが考えられる。先生の
慎重姿勢には変わりなく限りなく0に近い確証を得るためには再度、内視鏡検査をすべきと説明があった。
内視鏡検査はもはや苦ではなく必要とあらば何度でもOKであるから軽口を叩くが如く『いつでもOKです。胃カメラは
上手になりましたから・・・』
胸のつかえがとれ久しぶりに平穏な日常を取り返したような気分になったが最終試験となる内視鏡の再検査は約1か月
後の1月25日となった。普段は電源の入っていないスマホの電源をいれ妻に『無罪』の報告をして喜びを分かち合う。
取り敢えず、世間の一員に復帰して正月準備に取り掛かる気分が満ち満ちてきた。