SFには最近まで近所に住んでいたYさんが米人と再婚して暮らしている地でもある。手
紙で連絡を取り合い再会の手筈を整えていた。家の電話番号を聞いていたので、家に
電話を入れると元気そうな声で『バスに乗って、これこれ・・・』と簡単に言う。私が不安を
訴えると更に簡単に『冒険よ、頑張って。ただし帰りのバス代は88セントだから必ずコイ
ンを準備しておいてね』とあっけらかんとした返事。私たちはバスに乗ったことはおろか、
ブローン・イングリッシュの私が挑むのは大冒険ということになる。
バス停から聞いていた番号のバスに乗る。乗ることばかり気にしていたがバスからの降り
方を聞いていなかった。停車を要求するランプが点灯しピンポンと音はするものの、肝
心のそれを知らせる押しボタンが見当たらないのである。妻と二人で他の乗客がどうす
るのか注意深く様子を見ているが、はっきりと分からないまま段々と教えられたバス停が
近くなる。焦りを覚えながら見つけたのは窓の下の方に紐が張られており、それを引っ
張ればスイッチがオンになる原始的なものだった。目的のバス停で下車、通りを渡って
住所をみると、ここらしい場所を見つけ、ドアをノックしてみると中から懐かしい顔が見え
た。地獄に仏とはこのことである。それにしても私たちも大した者だと本当に思った。以
後、幾度かの海外旅行でも自力でバスに乗ったことは一度もない。
Yさんは英語が得意でもないから会話や買い物が苦痛で、出来るだけ人と会わないよう
にしていると言っていた。しかし、何をするにしても英語は必要だから、徐々に慣らされ
ていっているようで、他人と言葉を交わしているのを聞くと、私より遙かに達者である。
私たちが来るからと、おにぎりとおかずを作ってくれていて、近くのゴールデン・ゲート・
ブリッジ公園にピクニックとなった。広大な広さのほんの一角だろうが、綺麗に整備され
沢山の花が植えられていた。
数百メーター四方の広場は芝生が綺麗に手入れされ木々の木陰で人々が寛いでいる。
時折、芝生の真ん中をリスがひた走る。リスは木々の上に隠れており、不意に顔を出した
り枝に移ったりして可愛い動きを披露してくれる。ここでYさんの壮大な計画を聞く。地球
語と名付けた世界共通言語の創造である。こうした取り組みはエスペラント語が有名だが、
世界共通語には成りえなかったことから、新しい概念で開発、普及を目指すと、意欲満々。
Yさんは染色が専門だが出雲史の研究から本の出版に到り、今度は新しい言語の創造だ
という。この人の考え方は兎に角プラス思考、全方位思考に加えて努力家だから、地球
語もいずれは形成され同意する人たちが増えるだろうと思った。少しだけ説明を受けたが
ボンクラの私には理解できなかった。久しぶりの再開の楽しい時間はあっという間に過ぎ
ホテルに帰る時間となった。
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