日々のメモ帳

日常生活での、ちょっと気になった事や、面白かった事などメモしていきます。

製造業/『品質不正』という言葉をどうとらえるか

2018-11-12 22:51:56 | 品質管理
今日は新聞休刊日であるが、昨日の日経朝刊にトップ記事で出ていた『衰えるニッポンの工場 品質不正を招く』という記事に対し、早速、沢山のメールが届いた。



先週末のこのブログサイトで『製造業/『データー改竄問題』の整理』に、これまでの日本の製造業で発生した品質に係る問題につき、頂いたメールの内容などを整理し、少し過激な私見を述べて来たが、この新聞記事の内容についてのコメントを含め、さらなる『品質保証』という事での問題点・今後のあり方などのご意見を頂いた。

この中で元技術屋の仲間から特に多かったのは、各社での『データー偽装・改竄』がどんな内容であり、どこから発生したかという事がこれから子細が出て来るのかもしれないが、日本の今後の品質保証のあり方を考えるために包み隠さずに公表してほしいとの意見も多く頂いた。

今回日経でのまとめとして下記の記載がなされている。(一部抜粋)
『SUBARUや日産自動車などの調査報告書を読み解くと、一つの共通点が浮かび上がる。
 設備の老朽化と人手不足で「衰える工場」という現実だ。・・
 カイゼンの名の下、問題の解決を現場に任せてきた日本企業。
 各社の報告書でもコストや納期を守るために、現場の判断で不正に手を染めたケースが目立つ。
 もちろんそれが経営陣の言い訳にはならない。
 コスト削減を掲げるだけで現場のひずみに目をつぶり、不正に追い込んだ経営の責任は重い。

 ・・製造業のデジタル化を目指す「インダストリー4.0」を掲げるドイツでは、
 生産から検査までロボット技術を使った最先端工場で本国に生産回帰する動きが始まった。
 ・・膨大な情報を自動で分析する技術は、検査工程や品質向上にも活用できる。
 生産年齢人口が減少するなか、現場の感覚や頑張りだけに頼ったものづくりは限界を迎える。
 日本のものづくりの復権のためには、抜本的な生産の革新が必要になる。』:::

たしかに日本の製造業が衰えていく中で、ITを活用する事は重要であるが、このロボット制御での判断基準を決めるのは人間であり、このためのデーター採取やデーターの質を見極めるのも人間しかできない。
この事はつい最近日経電子版の『日経ものづくり』要約版に出ていたトヨタ副社長のインタビュー記事からも読み取れる。

データー偽証に繋がったトップの経営能力、管理能力の議論と共に、現場を支える人間力。さらにはこのブログ記事でも取り上げて来た『物を見る目』をどう醸成するかが急務ではないかとの小生の自論に、エンジニア卒業生からは沢山の賛同を得た。

一方で、先のメールで『品質保証』と『マーケットイン』との関係についても少し触れたが、今起こっている『データー改竄問題』が、過去の『顧客第一主義』を引きづっている可能性もあるとの反省の弁も、定年退職者の仲間内からも聞こえており、今一度品質保証のあり方を、今の時代に合わせてきっちり取り組むことも重要なのではとの意見も出されている。

特に品質をつかさどる規格値(品質保証基準)については、一度決めてしまったものは、販売者側はともかくとして、購入側でも購入仕様書に記載等していれば、ISOなどでの監査対象となり、規格項目の削減や規格範囲変更、測定手順の変更などをするとなると膨大な作業となり、自ずと現行を踏襲せざるを得ない。
例えば、規格項目の一つを測定する装置が老朽化し、代替機器が販売中止となっている場合など、代わりの装置でデーターを採る事になるが、今まででのデーターとの検証や、アウトプットの様式がチャート添付などとの取り決めをしていれば、これに合わせる事も出来なくなり、購入側からは無理難題が押し付けられる可能性がある。

このために日経記事にもある通り、老朽化設備の更新を急ぐ必要があるが、費用面も大きな要因であり、人的な面の方がもっと深刻なのかもしれない。
定年退職者の発生等で、規格値が品質を担保する項目として採用した経緯が引き継がれなくなり、残された書類の中で記載されていればいいが、この測定手順を入れ込んだ『原理原則』が後継者では判断できず、やむにやまれず、『測定方法逸脱』や『データー追記』『改竄』といった取り決めからの勝手な判断をしたのであれば、歴史を残した我々の世代も責任はあるのではないか。

『カイゼン』という名の下で測定法を工夫し、出来るだけ『顧客の要求特性』に合わせるような項目を決めた事が、今『プロダクトアウト』という事で、生産性、採算性を求める生産現場で足かせになり、今回のような不幸な事態を引き起こしていないか。このあたり、『偽証の内容』が公開されることで、先輩たちが反省し、解析を受けたい所である。

ここから先は、今回の『品質偽装問題』。日経の記事では『品質不正』と書かれているが、色々の方から頂いたメールや、小生が化学会社で関わった事など含め、品質での『よもやま話』をまとめてみた。
現状と大きく異なっていたり、少しノウハウに係わる事もあるかもしれず、リタイア後の記憶などで内容に誤りもあるかもしれないので、時効・賞味期限切れの情報として取り扱いをお願いした所であるが・・

①品質保証の難しさ
 ・一般工業製品
   JIS等で決められた規格項目の管理だけで良かった

・『機能商品』への移行期
   工業製品としての原料供給から高機能付与商品
  顧客からのニーズ(要望) → 研究開発 → 特性付与
  『特性の数値化』⇒ 機能を数値化 ⇒ 『品質保証』
  開発段階での測定項目が規格値として入ってしまった悪い例
例)『ゲルタイム』
  熱硬化性樹脂(エポキシ樹脂等)の硬化特性測る方法の一つ
 (当初の試験方法は、たこ焼器の様な、少し凹んだ場所がある温度コント
  ロールされた鉄板へ、樹脂と硬化剤を配合した物を投入し、割りばしの
  先にゼムクリップを伸ばしたものを取り付け、この凹の中をかき回し、
  固まっていく状態と固まる時間を測定。これを『ゲルタイム』とした)
  その後、熱板プレートの温度管理の厳格化や攪拌を機械化し、トルク
  を計測する事で最終固化時間を自動計測できる機器が開発され、今で
  も一部の製品検査では規格値として使用中?)

 ・汎用原料から精密化学品へ
  汎用原料を機能商品等の原料として展開 ⇒ 不純物等の管理が必須
  ガスクロ分析 → LC分析
  測定機器の故障、老朽化 → 代替機無し
  規格締結時の機器での分析ができなくなる
 例)GC-5A、GC-7A
  ガスクロの元祖である島津の代表品番であるが、生産中止となり、
  故障時の部品供給も停止となったと聞いている。
  何台か保有していた検査部門では、故障した機器の部品取りで残され
  た機器の維持を行っている所もあるが、いよいよの感がある。
  この中で、これらの機器で最終製品の検査を行い、不純物の有無を
  数値で検査項目として提示している場合はまだしも、顧客との間でチ
  ャート添付という約束をしている場合、機器の故障やプリンタの不作
  動となると保証不可となってしまう。
  過去の当該製品販売の中で、顧客側で何らかの品質問題が発生し、
  この原因究明として何ロット化のGCチャート要請で提示した事が発端
  でそのまま踏襲している場合など、このような問題が起こってしまう。
  分析機器を最新の機器へ切り替えると、当然精度は向上し、今までの
  様なチャートではなく、余分な不純物が見えたりする場合もあり、
  再度の協議が必要となるが、購買側からは、今までを踏襲してほしい
  との要望も出て来る可能性はあり、過去営業的に困ったこともある。

②加工製品での検査は人手と時間を要する
  製品の品質保証をする場合、出来上がった原材料を最終に近い製品に
  加工して、その特性から品質を保証する場合がある。
  このため、時間と人力に加え、評価する人の能力も重要かと思われる。 
 例)染料
 現在は吸光度などの代替特性で判断される場合が多いが、過去は基準
  の布に検査試験室で染色し、その染められた性能から良否が決定され
  るため、製造後、出荷されるまでにはかなりの日数を要していた。
 例)プラスチック
  ポリエチレン等も、出来上がったペレットを再溶融し、フィルムにす
  る装置や厚い板などに加工され、フィルムでの特性や引張強度、伸び
  特性などを求める試験を行っており、昨年もこの検査で問題が発覚し
  ている。
  この検査は上記の染料の試験もそうであるが、人が加工する段階と
  データーを採る工程が必要であり、検査として人力を要するため、最
  近では代表特性での検査を自動で行う事も一部進められているが、ま
  だJIS規格等の規格ではフィルム検査なども残されており、手間暇が
  かかる検査となっている。
 例)金属製品(丸棒など)
  少し門外漢なので知りえない所があるが、規格項目を見ていると、
  引張や曲げ強さなどが形状の規格に加えられており、この部分は、切
  り出して試験器にかけてのテストとなっているのであろう。

③組成分析
  規格項目に組成を入れている場合、単純な分析で検査ができればいい
  が、抽出や、タブレット化、フィルム化などでの分析が伴う場合は、
  前項のような人手がかかり、品質保証部門としては負担が多くなる。
 例)錠剤化分析
  最近は少なくなっていると聞いているが、IR分析などで粉などの製品
  分析する場合は、タブレットにして装置にかける必要があり、この準
  備作業が前段階に発生する。
  溶液に溶解しフィルムに塗布し、乾燥後測定度も同様の手間を要する。

④測定する環境
  スバルの排ガス測定での湿度コントロールの逸脱が指摘されているが、
  装置が『ないない』下での工夫が仇となっており、この環境の整備も
  難しい所である。
  高機能化商品になるほど、規格項目を測定する環境は厳しくなり、電
  子材関係のレジストなどは、ユーザーと同等レベルでのクリーンルー
  ムでの測定が要求され、人とともにコストも相当高い物になってくる。

まだまだ書き留めたい事はあるが、時間なのでこれで終わりたい。

まとめになるが、『品質保証』はどこを向いてするべきかという事が、究極の結論となりそうである。
『ユーザー指向』であれば、人的にもコスト的にもいくらあっても足りず、逆に『社内利益』確保の内向きであれば、やれる範囲でという事であるが、物を売るためには、今回の様な『データーを書きかえる』問題が出て来る。
『顧客満足度』のためだけの見掛けの品質保証のために『データー捏造・偽証』が行われたのか、これは無いと思うが、自身の事なかれ主義、さらには、会社、上司に対しての忖度であればなおさら問題の論点が異なってくる。

いずれにしても、時間がない中で色々と判断が迫られての結果と思うが、会社を去った先輩たちの助言が必要な時は聞いてほしいとも思える。
でも少し古臭い議論を出す可能性もあり、やはり今いるメンバーで『なぜなぜ問答』を十分に行い、原理原則に沿った結論を自ら引き出してほしい限りだ。

あわせて今回の問題については、各社での問題発生原因につき、第三者の委員会での検討結果を公表して頂き、色々な角度から何が起こったのかを知りたい所である。

 
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