弁理士近藤充紀のちまちま中間手続29
拒絶理由通知
引用文献1、2には、使用済油を精製する方法であって、使用済油を本願の請求項2に記載の条件で脱水処理する工程、脱水処理後の使用済油を請求項5、6に記載の条件で抽出処理する工程、抽出処理工程から得られた留分から溶媒を分離後に水素化処理をする工程を含む方法が開示されている(引用文献1については・・・等を参照)。
引用文献1、2に記載の方法においては、脱水処理工程後に減圧蒸留する工程を設けていないが、脱水処理工程後に使用済油を精製処理する前に、低沸点の有用成分を回収するために、減圧蒸留工程を設けることは公知のことであるから(引用文献3、4を参照)、引用文献1、2に記載の方法において、抽出処理工程の前に、同様に、低沸点の有用成分を回収するべく、減圧蒸留工程を設けることは当業者が容易に想到できたものと認める。
また、減圧蒸留の条件は、処理対象となる使用済油に含まれている低沸点の有用成分に応じて、適宜設定することができるものと認める。
この拒絶理由通知書中で指摘した事項以外には、現時点では拒絶の理由を発見しない。拒絶の理由が新たに発見された場合には拒絶の理由が通知される。
意見書
本願請求項1の方法または請求項12の装置によると、1)脱水された使用済油を直接減圧蒸留して、残渣および少なくとも一つの蒸留油留分を生成し、その後に、2)減圧蒸留残渣を直接、前記抽出工程に付して、いわゆる精製油および抽出残渣を得るようにするようにした。このように1)の減圧蒸留を行った後の減圧蒸留残渣に対して2)の抽出工程を行うようにしたので、本願出願時の明細書の段落・・・に記載されるように、抽出工程に用いられる装置の容量を従来技術の場合に比較して約3分の1に縮小させることができ、さらに、このような装置に必要な投資も約3分の1に縮小させることができる。さらに、抽出工程に必要な溶媒量を低減させることができることから、これに伴って、抽出工程で得られる精製油中に含まれる金属等の不純物の量を低減させることもできる。このような金属は、抽出工程後に行われる3)の水素化処理工程で支障をきたすおそれがあることから、最終的に得られる油の品質向上を図る上でも非常に効果的である。
また、本願発明では、2)において1)からの減圧蒸留残渣に対して抽出工程を行っているので、減圧蒸留残渣をそのまま捨てる、あるいは単なる燃料として使用する等ではなく、減圧蒸留残渣に含まれる油を抽出して精製油として使用し、また、抽出後の抽出残渣についても、出願時の明細書の段落・・・に記載されるように、粘度が低く取り扱いやすく、また、完全に溶媒が除去された残渣は、使用し易いかたちで燃料として使用でき、あるいは、アスファルトに混合され得る。
以上のように、本願発明は、効率良く、かつ、使用済油中に含まれる全成分を最大限に価値付けることができ、価値付けられる生成物の収率は、収集された油中に含まれる炭化水素の量に対して99%近くにまで及び、無駄なく使用済油を活用することができる。
引用文献1および2のいずれにおいても、脱水処理工程を行った後、その直後に減圧蒸留を行っておらず、抽出処理工程を行っている。引用文献1、2の方法では、減圧蒸留を行っていないものに対して抽出操作を行っているので、抽出すべき処理油の量が多く、そのために、抽出処理を行うための装置が大掛かりになり、溶媒量および装置に要する費用も大きくなる。加えて、溶媒量の増加に伴って、抽出相に含まれることになる金属等の不純物も多くなり、後の水素化処理工程に支障をきたすおそれがある。また、引用文献1では、標準条件で気体の溶剤を使用して超臨界条件下に抽出処理しているので、装置が複雑かつ大掛かりになる。引用文献2では、1回目の抽出工程は、その後の蒸留工程に有害な不純物の大部分を除去する工程でありこれを省くことができない。
引用文献3、4には、脱水処理工程を行った後、減圧蒸留処理を行うことが開示されており、減圧蒸留を行った際に得られる塔頂留分についての処理が記載されている。ところが、減圧蒸留を行った際に生じる蒸留残渣については、引用文献3では、その第4頁右上欄15~17行に「気化しない供給残留物は塔底部管50を通って貯蔵槽52に入る」とのみ記載されており、引用文献4では、蒸留残渣の扱いについては全く記載がない。減圧蒸留からの蒸留残渣にも、沸点が高い炭化水素類が含まれているので、これを抽出しないとすると、処理済油を有効に活用したとはいえない。また、引用文献3において貯蔵槽52に送られた蒸留残渣は、おそらく燃料に用いられると考えられるが、粘性の高い重質油を含んでいるので、使用し易いかたちの燃料にはならない。
これに対して、本願発明では、1)減圧蒸留、2)抽出工程および3)水素化処理工程を行うので、引用文献1、2によりもたらされる溶媒量増大、不純物増大等の問題が発生せず、引用文献3、4によりもたらされる蒸留残渣の問題が発生せず、効率良く、かつ、使用済油中に含まれる全成分を最大限に価値付けることができ、価値付けられる生成物の収率は、収集された油中に含まれる炭化水素の量に対して99%近くにまで及び、無駄なく使用済油を活用することができる。
このように本願発明による効果は、上記1)~3)を順次に行うことによって得られるものであり、引用文献1、2に引用文献3、4を組み合わせても、使用済油を最大限に活用することができることは容易に想到することができない。
拒絶理由通知書
上記開示の使用済油の精製方法は、脱水工程が設けられていない点、減圧蒸留の前に清浄化処理を施している点、溶剤による抽出処理の対象が残留物のみでない点で、本願の請求項1に係る発明と異なる。
しかしながら、使用済油の再生の際に、水分を含む軽質留分を除くために常圧蒸留を行うことは、上記引用文献1の第2欄に記載の従来技術の説明においても記載されているように、通常行われていることであるから、上記開示の使用済油の精製方法において、使用済油として、軽質留分を含まない使用済油の代わりに軽質留分を含む使用済油を処理対象とする際には、当然に、水分を含む軽質留分を除くために常圧蒸留、即ち、脱水処理を施すものである。
また、上記開示の使用済油の精製方法においては、減圧蒸留の前に清浄化処理を施しているが、減圧蒸留の前に清浄化処理を施こすかどうかは、使用済油として、どのような種類の使用済油を対象とするかによるもので、固体物質、炭素粒子等が多く含まれていない使用済油や、その存在の程度によっては問題とされない使用済油を用いる場合には、清浄化処理を省略できることは明らかである。
更に、上記開示の使用済油の精製方法においては、溶剤抽出処理を残留物と軽質留分との混合物を対象としているが、残留物のみを対象とするか、残留物と軽質留分とを別個に対象とするか、あるいはその混合物を対象とするかは、残留物と軽質留分の割合、残留物の取り扱い易さ、使用する溶剤の量や種類、残留物と軽質留分からの回収可能な油の割合等を考慮し、適宜に選択実施しうる程度のことである。
また、使用済油から水分を含む軽質留分を除くための常圧蒸留を240℃以下で行うこと、軽質留分を除いた使用済油の溶剤抽出の際にフロパンを溶剤として使用し、30℃~プロパンの臨界温度・圧力下で行うことは、本出願前にすでに知られており(引用文献2の・・・等を参照)、それらの手段を上記開示の使用済油の精製方法に採用することに格別の困難性はない。
意見書
・・・、本願出願時の明細書の段落・・・に記載されるように、抽出工程に用いられる装置の容量を従来技術の場合に比較して約3分の1に縮小させることができ、さらに、このような装置に必要な投資も約3分の1に縮小させることができる。さらに、抽出工程に必要な溶媒量を低減させることができることから、これに伴って、抽出工程で得られる精製油中に含まれる金属等の不純物の量を低減させることもできる。このような金属は、抽出工程後に行われる3)の水素化処理工程で支障をきたすおそれがあることから、最終的に得られる油の品質向上を図る上でも非常に効果的である。
また、本願発明では、上記のような蒸留および抽出によって望みの油成分を得ることができ、従来方法で用いられていた酸、吸収剤等を添加する必要がないため、これら添加剤を添加するための設備および添加剤自体の費用、および添加剤処理後に生ずる添加剤に由来する廃棄物の処理およびそのような処理のために要する費用、およびそれらの貯蔵施設およびその費用等およびそのような廃棄物が環境に及ぼす影響等の多岐にわたる問題点を解消することができる。
また、本願発明では、2)において1)からの減圧蒸留残渣に対して抽出工程を行っているので、減圧蒸留残渣をそのまま捨てる、あるいは単なる燃料として使用する等ではなく、減圧蒸留残渣に含まれる油を抽出して精製油として使用し、また、抽出後の抽出残渣についても、出願時の明細書の段落・・に記載されるように、粘度が低く取り扱いやすく、また、完全に溶媒が除去された残渣は、使用し易いかたちで燃料として使用でき、あるいは、アスファルトに混合され得る。
このように、本発明では、収集された使用済み油中に含まれる全生成物に最大限に価値を付加することができた。価値付加された生成物の収率は、収集された油中に含まれる炭化水素の量に対して、99%に近い結果が得られ、焼却処理されるべき液体または固体生成物は存在しておらず、使用済み油の全体としての利用性の向上を図ることができる。
以上に説明したように、本願発明により得られる効果として、
1)望みの油成分の回収率が良好であること
2)酸、吸着剤等の添加剤を用いる必要がないこと
3)望みの油成分が得られるだけではなく、処理後に生ずる残渣を燃料またはアスファルトに混合され得る等、使用済み油の全体としての利用性を向上させること
ができることが挙げられる。
引用文献1と本願発明とを比較すると、本願発明では、脱水工程後に、使用済み油は減圧蒸留に直接的に送られており、引用文献1に記載されたような清浄化処理が行われていない。また、本願発明では、引用文献1に記載されるような酸、吸収剤等の添加剤が一切添加されておらず、減圧蒸留から生じた残渣は、溶媒抽出工程に直接的に送られている。
本願発明では、明細書の段落・・・に明記されているように、「酸または吸収剤を用いない方法および装置」を提案することを目的としており、実際に、これらの添加剤を用いないで良好に目的とする処理を行うことができることを示している。
これに対して、引用文献1では、清浄化処理、酸処理、脱色処理等のために多種の添加剤を添加している。引用文献1でこれらの処理は、必要不可欠な処理として行っているのであって、これらの添加剤の添加を除いてよいという記載はもちろん示唆さえない。したがって、添加剤の添加を省くという思想自体は引用文献1から推考できるはずがない。添加剤の添加を省くことにより得られる効果は、上記(2)または本願明細書に記載されるように、それらの要する費用、設備、環境に対する影響を考慮すると多大なものであり、このような点を考慮しても、「添加剤を用いずに処理を行う」という本願発明は、当業者が容易に想到することができるものではない。
また、引用文献1に記載の方法により得られる油の収率を考慮しても、引用文献1の第4頁左欄の表を参照すれば明らかなように、50.0%程度に過ぎず、決して高い収率を得られたとはいえない。引用文献1において高い収率が得られなかったのは、多岐にわたる添加剤を加える処理を行っている点に起因すると思われる。これに対して、本願発明では、何らの添加剤を加えることなく直接的に蒸留工程に送り、かつ、直接的に抽出工程に送っていることから、引用文献1に見られるような問題点が解消されており、得られる油の収率を考慮しても、本願発明は引用文献1に比して格別の効果を得ることができる。
また、本願発明では、望みの油成分の他、抽出工程後の残渣についても、燃料またはアスファルトに混合され得る等、使用済み油の全体としての利用性を向上させることができるが、これに対して、引用文献1には、残渣の利用については言及されることがなく示唆するような記載もない。引用文献1では、多岐にわたる添加剤が加えられており、これらの処理を行う必要性を考慮すると、残渣を他の目的のために使用することは引用文献1では考慮されていないと考えられる。したがって、引用文献1では、本願発明のような使用済み油の全体としての利用性を向上させることはできない。
特許査定
拒絶理由通知の内容を最初に見たときは、絶望的かな、、と思いつつ、なんとか食いついて、特許査定にできた。さらには、請求項について実質的な限定補正を行っていない点も、大きな成果といえる