弁理士近藤充紀のちまちま中間手続43
拒絶理由 進歩性
請求項1,2には、アルミナを主成分としてクロミアを含有する耐火物が記載されており、いずれも耐浸食性に優れた耐火煉瓦としての用途がある。一方、引用例3には、耐食性耐火煉瓦の耐食性を向上させる方法が記載されており、被処理耐火物を酸化クロムの粉末中に埋めて1500℃で熱処理することにより、表面にクロミアリッチ層を形成している(第2頁右下欄、実施例1参照)。
いずれも耐浸食性向上が目的であるので、引用例3に記載された処理を、引用例1,2に記載された耐火物に適用してみようとすることは、当業者であれば容易に想到するところであると認める。
意見書
補正前の請求項1および2は削除した。補正後の請求項1は補正前の請求項3を、拒絶 理由2に示された拒絶理由を解消するように独立項として書き改めたものであり、新規事 項は追加されていない。
引用文献1には、表面から所定の深さまでの表面層に、クロミアを含滲させた耐火物が開示されている。引用文献2には、Al2O3およびCr2O3を素材とする耐火煉瓦が開示されている。引用文献3には、耐食性耐火煉瓦の耐食性を向上させる方法が記載されており、被処理耐火物を酸化クロムの粉末中に埋めて1500℃で熱処理することにより、表面にクロミアリッチ層を形成している。
しかしながら、引用文献1の第2頁右上欄2~7行には、「クロミアを、もともとその一成分とする電鋳耐火物も存在するが、このような電鋳耐火物は、・・・・良い性能を発揮し得ない。」と記載されており、さらに同頁右上欄の11~15行には、「電鋳耐火物の表面のみが、アルカリやホウ素酸化物と反応し難いものであれば十分である。必ずしも電鋳耐火物の内部まで耐蝕性を有する必要はない。」と記載されている。すなわち、引用文献1では、耐火物の内部にまでクロミアを含ませることは企図しておらず、したがって、引用文献1の記載からは、内部にクロミアを含む耐火物を用いることに想到することはできない。
また、引用文献2の第2頁右上欄最終行~左下欄第1行には、「Cr2O3含有率が35重量%以下では十分な耐浸食性が得られず」と記載されている。すなわち、引用文献2では、Cr2O3含有量が35重量%以下の耐火物は好ましくないものとして認識されており、引用文献2の記載からは、Cr2O3含有量が35重量%以下の耐火物を用いることに想到することはできない。
さらに、引用文献3の第3頁の右下欄第5~7行には、「クロミアの量が20%以下では、・・・・実用上意味がない領域である」と記載されている。すなわち、引用文献3では、クロミアの量が20%以下の耐火物は好ましくないものとして認識されており、引用文献3の記載からは、クロミア含有量が20%以下の耐火物を用いることに想到すること はできない。
これに対して、本願発明は、Al2O3を主成分とし、Cr2O3を重量比で3%以上20%以下含有する耐火物を用いることにより耐熱衝撃性に優れたものとし、根元部に処理物が堆積することにより応力の集中が発生し、根元部より短時間で破壊が生じることを防止している。また、その表面に高Cr2O3濃度の耐食層を有することにより、溶損が進行するために攪拌効果が長く維持できなくなることを防止している。
このように、本願発明は、耐熱衝撃性に優れ、かつ、溶損を防止するという、耐火物をリフターに用いた場合に生ずる特有の課題を見出し、この課題を解決するために、耐熱衝撃性を向上させるためには、クロミア含有量が低くする必要があり、溶損性を低下させるためには、クロミア含有量を高くしなければならないという、相反する要望の両方を満足させるべく、Al2O3を主成分とし、Cr2O3を重量比で3%以上20%以下含有する耐火物の表面に高Cr2O3濃度の耐食層を有することとしたものである。また、本願発明のように、表面以外の部分にもクロミアを含有させることにより、内部への腐食性物質の浸透による腐食による溶損も抑えることができる。
引用文献1~3のいずれにも耐火物をリフターに用いることは一切記載がなく、したがって、本願発明の明細書に記載された課題は生じることがなく、当然、上記本願発明の構成によって得られる効果も想到することはできない。実際に、本願発明の技術的特徴の一つである、「Cr2O3を重量比で3%以上20%以下」にすることは除外されている。
したがって、引用文献1~3を組み合わせても本願発明に想到することはできないので、本願発明は進歩性を有する。
拒絶理由通知 最後 36条4項
発明の名称が、特許請求の範囲の記載と対比して適切でない。
この拒絶理由通知書中で指摘した請求項以外の請求項に係る発明については、現時点では、拒絶の理由を発見しない。拒絶の理由が新たに発見された場合には拒絶の理由が通知される。
意見書
発明の名称「・・・リフター」を「・・・リフター」に補正した。
該補正は、出願当初から記載されていた「耐食性」に誤記訂正するものであり、出願当初の明細書の範囲内の補正であることは明らかであり、特許法17条の2第3項の要件を満たしている。
特許査定
進歩性の拒絶理由 主引例についての指摘がまったくなく、副引例である引例3についての指摘のみで拒絶理由を構成している。変則的でやりにくい。
原則通り、主引例1、2との差異と効果について丁寧に記載した。問題なく拒絶理由はクリアできた。
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