弁理士近藤充紀のちまちま中間手続28
拒絶理由 進歩性
引用文献1には、ダイオキシン類含有液に粉末活性炭を添加し、その後ろ過処理手段を用いて固液分離することが記載されており、該ろ過処理手段に前段に、凝集分離等の固液分離処理を行ってもよいことも開示されている。
ここで、本願請求項1、2に係る発明と、引用文献1記載の発明を対比すると、以下の点で相違し、その余の点で一致しているといえる。
1.活性炭の吸着性能に関して、前者は液のpHを7~10に調整するのに対し、後者は該構成は示されていない点。
2.水処理における凝集分離技術に関して、前者は排水に凝集剤と凝集助剤を添加して凝集フロックを形成し、ダイオキシン類を吸着した活性炭を凝集フロックと共に沈殿させ、沈殿物から排水を除去するものであって、それに用いる装置に関しては、凝集槽と沈殿槽と濾過器を有するものであるのに対し、後者は該構成は示されていない点。
上記各相違点について検討する。
1.について
活性炭の吸着性能に関して、引用文献2には、pH値が7よりも低下すると活性炭の吸着効果が低下することが記載されている(第3頁右上欄第7行-18行参照)。
引用文献1記載の発明の活性炭の吸着性能に関しても、当然より効率よく吸着処理を行うために、引用文献2にあるように、pH値が7よりも低下すると、吸着効果が低下することを考慮し、pHを7以上とすることは、当業者が容易に想到し得るものである。
また、その際、pHの上限を、吸着効率、コストや耐アルカリ性の度合い等を考慮し、適当なもの、例えば10程度することは、当業者が適宜為し得るものである。
一般的な水処理における凝集分離技術に関して、排水に凝集剤と凝集助剤を添 加する凝集槽、フロックを沈殿させる沈殿槽、濾過器とを有するものは、本件出 願前周知の事項であることからして(例えば引用文献3の図1、引用文献4の図 2参照)、引用文献1記載の発明の水処理における凝集分離技術に関しても、上 記周知の事項を採用し、排水に凝集剤と凝集助剤を添加する凝集槽、フロックを 沈殿させる沈殿槽、濾過器とを有するものとすることは、当業者が容易に想到し 得るものである。
2.について
一般的な水処理における凝集分離技術に関して、排水に凝集剤と凝集助剤を添加する凝集槽、フロックを沈殿させる沈殿槽、濾過器とを有するものは、本件出願前周知の事項であることからして(例えば引用文献3の図1、引用文献4の図2参照)、引用文献1記載の発明の水処理における凝集分離技術に関しても、上記周知の事項を採用し、排水に凝集剤と凝集助剤を添加する凝集槽、フロックを沈殿させる沈殿槽、濾過器とを有するものとすることは、当業者が容易に想到し得るものである。
そして、上記構成とすれば、「凝集剤と凝集助剤を添加」した後、当然本願同様「凝集フロックが形成され、ダイオキシン類を吸着した活性炭が凝集フロックと共に沈殿し、沈殿物が排水から除去される」ものと認められる。
意見書
引用文献1および2のいずれにも、「排水に凝集剤と凝集助剤を添加して凝集フロックを形成し、ダイオキシン類を吸着した活性炭を凝集フロックと共に沈殿させ、沈殿物を排水から除去する」ことは開示されていない。
引用文献3では、凝集させてろ過除去する対象が発電所から排出される低濁度排水中の懸濁固形物であり、ダイオキシン類を吸着した活性炭を処理するものではない。また、引用文献4の装置も、灰汚水中の微粒子を処理しているが、ダイオキシン類を吸着した活性炭を処理していない。
これに対して、本願発明では、ダイオキシン類を吸着した活性炭と、凝集フロックとを 沈殿させ、この沈殿物を排水から除去している。
本願発明は、ごみ焼却場の排水中のダイオキシン類を規制値以下にまで除去することを目的としている。本願発明が処理対象としているダイオキシン類は、非常に強力な有害物質であるため、これを規制値以下にまで除去できなければ、現実に実施することができない。本願発明によりそのような非常に厳しい目的を達成するためには、
・活性炭にダイオキシン類を完全に吸着させること、
・ダイオキシン類を吸着した活性炭を排水中から完全に除去すること
の双方共に満足させる必要があり、本願の出願人は、上記本願発明の構成により、実際に、排水中から規制値以下にダイオキシン類を除去できることを確かめたものである。
したがって、引用文献3には、凝集フロックを形成してこれをろ過処理する方法が記載され、引用文献4にもこれに適用できる装置が記載されているが、引用文献3および4は双方ともに、処理対象が本願発明のようなダイオキシン類を吸着した活性炭ではないので、単に、引用文献3、4の構成を引用文献1方法に組み合わせたとしても、現実的に、排水中のダイオキシン類を規制値以下にまで除去できるかどうかは分からない。したがって、引用文献1~4から本願発明に想到することは容易ではない。
拒絶査定
出願人は意見書において、本願発明の構成により、実際に、排水中から規制値以下にダイオキシン類を除去できることを確かめたものあるが、引用文献については、それらを組み合わせたとしても、現実に、ダイオキシン類を規制値以下にまで除去できるかどうかは不明である点において、進歩性を有していることを主張している。
しかし、引用文献1の[0021]段落に、「該液(粉末活性炭が分散したダイオキシン類含有液)を・・・凝集分離・・・など予備的な固液分離処理を行ってからろ過処理手段によって固液分離処理しても良」いことが記載されている以上、ろ過手段の前段に設けられる凝集分離手段として、凝集剤、凝集助剤を用いるという周知技術を採用すること、つまり引用文献を組み合わせることについては、当業者が容易に想到し得るものであるといえる。
そして、引用文献を組み合わせた効果である、ダイオキシンを規制値以下にまで除去することに関しては、引用文献1の[0005]段落に「ダイオキシン類を十分に除去する」ものであることが記載されていることから、その「十分に除去」した程度が、「規制値以下」であることは、当業者が容易に想定し得る事項であって、組み合わせの効果が格別顕著なものであるとは認められない。
典型的な作戦ミスによる失敗例
昔はよくこれに引っかかていたので、戦績は向上しなかった。
主文献との比較で、相違点が認められるものの、副文献の記載によれば、当該相違点に想到することは容易である。
進歩性拒絶理由通知のよくあるパターン。副文献の記載については、かなり充実しているものの、肝腎の、主文献中の記載は、ほぼ指摘されていない。攻略点は、この点であろう。何らかの意図があって、相違点を忌避している事由が見つかる可能性があり、逆にいうと、このい事由が見つかれないと、ほぼ負けである。
組み合わせが容易であることを認めたうえで、反論を試みても、進歩性の拒絶理由を覆すのは、至難のわざ
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