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第肆話 差
「みなさん、うちのジュニアちゃんを守ってくれませんか。」
雌象が四頭と雄象、子象が一頭づつ仲間として群れを作っていて、水場で水分を補給していると、七頭の雌ライオンに囲まれていた。
「分かった。俺が雌ライオンを止めるから、その子を囲んで守ってくれ。」
「私もあんたと闘うわ。」
雄象と一頭の雌象は、二頭の鼻の長さ分の間隔を空けて、雌ライオン達へ様子を見ながら迫っていった。
残った三頭の象は三角形に子象を囲い、闘いに挑む二頭を見つめた。
「あの二頭の間を何とかして抜けないといけないわね。」
前後の脚を曲げ、腹部を地面すれすれの高さまで下ろし、肩甲骨の高さに顔を位置させ、一頭の雌ライオンが仲間達に話しをかけた。
「じゃあ、二段攻撃ね。」
もう一頭の雌ライオンがそういうと、二頭の象の間を抜けるといった雌ライオンが先頭になり、その左右の斜め後に同じ姿勢で二頭がつき、この二頭のそれぞれ左右の斜め後ろに四頭の雌ライオンがつき、二等辺三角形の陣を形づくった。
頂角に位置する雌ライオンが雄象の外側へ走りだした。真後ろの二頭の雌ライオンは、それに釣られ鼻の向きをその方向へ伸ばしたのを確認し、雄象の尻に向かって走りだした。
雄象の尻に向かった雌ライオンの後ろに控えていた、四頭の雌ライオンは二頭が雄象の隣りにいる雌象の外側へ走りだし、もう二頭は雄象の尻の方向へ走り出した。
すると雄象は、外側に走り出した雌ライオンに釣られた動きの勢いを利用して反転し、尻側から奥へ抜けようとした四頭を長い鼻で蹴散らし、頂角に位置してた一頭に対峙した。
一方、闘いに加わっていた雌象は、自分の外側に向かってきた二頭を鼻で蹴散らした。
この二頭の像に攻撃された六頭の雌ライオンは、強い力で地面に叩きつけられたため、動けなくなった。
「退散よ。みんな。」
頂角に位置してた雌ライオンは、象に敵わないと判断し、転げ倒れている仲間達へ近づいて敗戦を告げ、退散して行った。
「あの雄象は強すぎる。あのまま続けてたら、致命傷を負ってハイエナ達に喰われてたかもしれない。あの子象は旨そうだったけど仕方ないわね。次に当たりましょう。」
意気消沈した七頭の雌ライオン達は気持ちを切り替えて、草むらへ消えて行った。
「姐さん、それにしてもあの雄象の迫力と身のこなしはすごかったね。うちらの雄とは比べ物にならない程、勇敢ね。」
一頭の雌ライオンがボソッと口にした。
「みなさん、ありがとうございました。ジュニアちゃん助かりました。」
母親象は、他の象達にお礼をいった。
「じゃあ、次の餌場に向かいましょう。」
一頭の雌象がそういうと、この像の群れは水場を後にした。
「あの雄象、すげえ強かったなぁ。怯えてもなかったな。」
木の上で、象とライオンの攻防を見ていた三匹のオナガザルの一匹が雄象をリスペクトしていた。
「うん、強いやあいつ。それにしてもライオンの雄は動かねぇもんですね。立髪あんな伸ばしておっそろしいツラしてやがるくせに、ねえ、兄貴。」
もう一匹のオナガザルは象とライオンの雄を比較した。
「ライオンの雄だっていざって時は恐ろしいものよ。ライオンに比べると象の方が敵多いからねぇ。あたし達はあんな連中と関わらないように木の上で大人しくしておかなきゃね。」
三匹中、唯一の雌のオナガザルは冷静だった。
「そうだなあ、種によって雄と雌の役割は違うんだよ。みんなその役割を素直にこなしてるってわけなのさ。俺らだってそうだろ。雄と雌がいい塩梅で役割をはたさないとさ、生きていくことは元より、子供達に未来を託せなくなるぜ。そういやぁよう、ニンゲンってへんてこりんの連中はそこがおかしいらしいぜ、上手く行ってねぇようだぞ。特に、細長い島に住む、黄色い肌をしたニンゲンはよ。その近くの生き物達は頭抱えてるみてぇだよ。もっぱらの噂だけどな。」
三匹のオナガザルはそんなことを話しして、森の奥へ帰っていった。
終
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