K.H 24

好きな事を綴ります

短編小説 『ヴァイルス』

2020-10-15 12:23:00 | 小説
「おい、お前さん、どうしたのその身体?」
「えっ、知らないの、変異したのさ。苦労したよぉ。いつも通りさ洞窟に吸い込まれてさぁ、沢山の仲間は毒のてっぽう水に流されて消えちゃったけど、オイラの親玉は身体の三分の一だけ持ってかれたらしいんだ。でも、でもたまたま、回復のポーションを持ってたらしく、それを使うと歪な形になったけど復活したんだ。そしたらあのてっぽう水から身を守れるようになって、オイラと分身した訳よ。」

 人間の視力では感知出来ない程小さな生き物の会話が始まった。

「もしかして、お前さん、無敵レベルが上がったのか?」
「ああ、上がったぜぇ。今度、二本足に入ったらオイラ、不死身レベルまで行きたいな。」
「それは無理だよ。お前さんが二本足の洞窟に入って不死身になると、そいつは死んじまうぞ。そしたら、お前さんも死ぬ筈さ。止めとけ、止めとけ、欲張ったらだめ、だめ。」
「えっ、そなの。オメェよく知ってるな。」
「うん、オラの親っさんは、休憩期間に運良く二本足の洞窟に入って、ナゲー間、白玉とかネチョネチョに攻撃されずに楽出来たみてーだ。そして、涼しくなってその期間が終わって身体動かそうとしたら、吹き飛ばされて、別の二本足に入れたみたいだ。またまた、それが運良くてよ、白玉とかネチョネチョが少ねえ二本足だったのよ。で、オラは分身してここに居る訳だ。」

 どうやら、この二体は同じ生き物だが、通常種と突然変異種のようだ。また、突然変異種は何らかの耐性を身に付けたようである。

「オメェ、ラッキーだなぁ。じゃあ、オイラよりだいぶ長生きしてんだな。」
「そうなるな。だから、見ちまったよ。二本足が死んでよ、仲間達がそこから出られなくなって息絶えるんだ。あれは悲惨だぞ。時間が経つと羽オバケが集って来て、すんげー臭いを放ちやがる。そしたら、白くて長くて、ウジウジしたのが現れるんだ。で、死んだ二本足を食べて行きやがる。いやぁ、全く持って下品だぜ。俺らみたいに身体の表面から吸収出来ないんだからな。」
「うわぁ、恐ろしいなぁ。この世の中、色んな事があんだなぁ。長生きすると、もの知りになるな。オイラも色々経験してみてぇや。」
「お前さん、レベル上がっちまったから、無茶しそうになるのは仕方ねぇ。もう一つだけ、注意しないといけない事があるんだ。それはな、二本足達はたまに洞窟の出入り口を塞ぐ事があるのよ。運が悪いとその塞いだ壁に絡み付いちまう。その壁事態は柔らかいから居心地は悪くないんだけど、渦潮の中に入れられたら最後、潮の中に吹き飛ばされておしまい。これも悲惨だろうな、生還したなんて話し、聞いた事がない。怖いだろ。だから、塞がれた時は、その壁は柔らかいから隙間が出来るのよ。いち早く隙間から脱出した方が良いみたいだ。これは、よく聞く話しだな。まぁ二本足の連中は鈍感だからよ、無理せず、欲張らずが良いと思うぞ。おっ、良い風が吹いて来た。じゃあ、オラはこの風に乗ってくとするよ。達者でな。」
「オイラにも良い風が来た。いってきまーす。」

 どうやらこの二体、空気中に浮遊する病原体のようである。また、ある人達の密の状態の場面で飛沫により一時的に空中に浮遊し、再び人体へ取り込まれる間での会話だったようだ。すなわち、飛沫感染の瞬間の出来事である。

 あくまでも我々人類が分かり得ない世界ではあるが、ヴァイルス達はこんな会話をしているのかもしれない。
 しかし、ヴァイルスの事を一番知っているのは、実際に研究室でそれらと向き合っている研究者のみなさんなのだろう。
 
 おわり