K.H 24

好きな事を綴ります

重力 ルーラー⑩

2020-05-20 23:22:00 | 小説



⑩平行線

 巫女代と信子は、ファーザーなる曲者達の中で、自衛民衆党の中平にコンタクトを取り、副党首の岩原、日菱銀頭取の奥山、検事正の長岡を集めさせ話し合いを持ち、他、二国の8人にも、世界征服が無理な事を理解させ、『ファーザー』を解散させると言った方略を立てた。
「中平さんですね。私の事知ってますよね。岩原さんと奥山さん、長岡さん達と集まってもらって話しがしたいんですが?分かりますよね。」
 巫女代は、中平の議員事務所に移動してそう言った。その時、信子は2人の側の時空間の狭間にひそみ、巫女代と中平を見守って居た。
「誰だ!何処から入って来たんだ!ん?君かぁ、そろそろ来ると思ってたよ。良いのかい?そんな言い方して。君のご両親やご祖父母達を泣かせるような事は控えた方が良いよ。」
 中平は、巫女代を牛耳った思いで居た。しかし、時空の狭間に居る信子が、将嗣や将臣を監視してる中平達から刺客を一網打尽にし、巫女代の目の前に居る中平の周りに両手両脚を結束バンドで拘束された輩が寝転がって居た。
「あ、あ、せ、先生。我々、神坂家の面々に付いて監視してたのですが。い、いつの間に、ここに、こ、怖いよぉ。」
 手脚を拘束されて横たわる中の1人が怯えて、尿失禁し、震え上がってた。
「こ、こ、これがお前の力か!想像以上だ!想像以上だ!わ、分かった、分かった、ら、乱暴はしないでくれよ。い、いつ集まればいい?」
 中平も怯えて、しかし、益々、巫女代の力を手に入れたいと言う横縞な思いが強くなった。
「明後日、ここでいいですかぁ?ちゃんと集まってもらえますかぁ?私の家族を利用して脅迫とか、通用しませんからね。」
 巫女代は、両腕を組んで仁王立ちし、中平に言った。
「分かった、分かりました。君の超能力は素晴らしいですね。仲間達にも見せてやりたいです。すみません。神坂家の方々を見守らせてたと捉えて頂けませんか?あなた様の貴重な力を他の悪党に奪われるといけないじゃないですか。ね。でも、ご自分で何から何まで。素晴らしい。」
 中平は明らかに手のひらを返した。
「じゃ、明後日、お待ちして居ります。」
 巫女代は、拘束された刺客達を紐解、明後日4人が集まる事を念押しし、中平達の目の前で一瞬で姿を消した。
「信子さん、本当、腹黒い人ね、態度がコロッとかわったわ。」
 巫女代は呆れてた。
「はい、どうしようもない人ですね。なんて表現したらいいのか、生まれ持った利己的思考が強いのでしょうね。」
 信子も呆れた。

 2人は、自宅に着くと、巫女代の父、将臣と母の橙子と中平達の事を話した。
「じゃあ、爺さんと婆さんも家に来てもらってた方がいいな。」
 将臣が言った。
「じゃあ、私がお迎えに行って来ますよ。」
 信子はそう言うと、姿を消した。数分も経たない内に、巫女代の祖父、将嗣と祖母の信恵(のぶえ)が信子と手を繋いで巫女代達の前に現れた。
「巫女代ちゃん、信子様から聞いたよ。大仕事になりそうね。」
 祖母の信恵が最初に言葉を発した。
「うん、大丈夫よ。ん、お婆ちゃん信子さんに様なんて。」
 巫女代は信恵の信子に対する言葉遣いを不思議に思った。
「実はね、あなたの叔母にあたる子、あなたのお父さんの妹、巫女乃(みこの)がお世話になってるのよ。今まで、黙ってたけど、巫女乃は信子様の時代で、信子様のお手伝いをしてるのよ。あなたの胸の痣と同じ痣を持ってるの。でもね、あなたみたいに力を使えなかったの。だから本人は、信子様のお手伝いをしたいって言ってね。」
 信恵は涙ぐみながら話した。
「いつの時代からか、お前みたいな痣を持つ子が産まれると『巫女』を名前につける事になってな、お前が産まれた日に将臣から相談を受けたんだよ。だから、こんな事態になるのは予測してたんだけどな。」
 祖父の将嗣は寂しそうな表情で言った。
「そうだったんだ。」
 巫女代は両親や祖父母達も想定内だった事が分かると、益々、正義感が漲った。その反面、寂しさも感じた。しかしながら、母親の橙子は幼い頃から明るく、元気に育ててくれた事に、今更ながら、女性の強さも感じ、複雑な心境に陥って居た。

 一方、中平は第一秘書に、岩原と奥山、長岡に明後日の事を連絡するよう命じ、また、1億円も準備するよう言った。
「中平さん、大丈夫ですか?あの小娘、頑固そうじゃないですか。」
 検事正の長岡が心配で中平に電話をかけて来た。
「乗り切るしかないですよ。これまで私が臨機応変に立ち回って来たのを知ってますよね。今回だって、あの小娘に金の力の使い方、思い知らせますよ。」
 中平は、不敵な笑みを浮かべてた。
「何か秘策があるのですか?」
 長岡はこの古狸の企みを予想しきれないでいた。
「あの小娘だけじゃなくて、両親、まぁ、片方だけでもいいから、一緒に連れてこさせるわけですよ。良い車で迎えに行ってね。そして、親に金を見せて、親から落として行く訳ですよ。取り敢えずは、1億円は用意して、定期的に金を送ると言う訳。そしたら、働かなくてもいいようにし向ける。金ですよこの世は、金さえあれば。」
 中平の不敵な笑みは止まらない。
「相変わらずですなぁ。お任せしますよ。楽しませて下さいよ。中平さん。」
 長岡の不安は、期待へと変わっていった。
「ええ、勿論、真の金の亡者は、使い方も心得て、強力な武器になりますからね。私にとってはリーサル・ウェポンですから。見とって下さい。」
 中平は、自信と余裕を感じさせて、長岡からの電話を終えた。
「先生、奥山頭取が後1億、持って来るとの伝言を頂きました。」
 第一秘書は、中平と長岡の電話が終わるのを待って居て、透かさず、報告した。
「あはは、用心深い方ですね。まあ、いいでしょう。戦力アップには間違いありませんね。ありがとう。」
 中平は言った。
「おはようございます。自衛民衆党の中平の秘書でございます。お迎えに上がりました。」
 巫女代と4人のファーザーとの話し合いの朝、玄関チャイを鳴らした後、スピーカーに向かって、そう告げた。
 巫女代はシャワーに入り、髪の毛をドライヤーで乾かしている途中だったので、橙子が玄関先で対応した。
「おはようございます。少し、早めに参りました。朝早い人間にご足労おかけします。それで、中平は、お若い巫女代さんをご両親がご心配だろうと言っておりまして、もしも、そんな事態の時は、同伴頂くのも構わないと申しております。お母様ですね。どうぞご検討下さいませ。」
 秘書は、言葉を選び丁寧に橙子に言った。
「あ、あ、そうですか。わざわざお気を遣って頂いて、少々、お待ち下さい。」
 橙子は、その気遣いに驚き、家に入り将臣にその事を話した。
「巫女代ぉ、私も父さんも一緒に行って良いんだってよ。」
 ドライヤーの音がする巫女代の部屋の前で、その音にかき消さられないように、大きめ声でいった。
「私は良いわよ、ね、信子さん。」
 平気な顔で巫女代は言った。
「はい、大丈夫だと思います。私は姿を隠してますので。」
 信子はそう言うと橙子の前から姿を消した。しかし、橙子の頭の中には〝先に行きます。〟と、声がしてた。
 巫女代が自分の部屋からリビングに向かうと、将嗣と信恵が迎えに来た秘書にお茶を出し世間話をして居た。
「巫女代、私達も行くわね。」
 信恵が笑顔で言った。
「分かった。あの、運転手さん、車は何人乗りですか?」
 巫女代が秘書に聞くと、5人乗りと分かり、巫女代は独りで向かうと告げた。
 将嗣、将臣、信恵、橙子の4人は準備が整い、迎えに来た車に乗った。巫女代は先に行くと告げ、姿を消した。
「じゃあ、車出します。」
 秘書は、予想外に巫女代の祖父母も一緒になったが、中平にとって都合がいいと考え、事務所へ車を走らせた。
 助手席に将臣が座り、後部座席には、右から橙子、信恵、将嗣と並び、女性2人がぺちゃくちゃ喋り、将嗣と将臣は五月蝿がっていたが、運転する秘書は、その会話で緊張が解れ、気持ち良く運転してた。
 中平の事務所があるビルの前に着くと、巫女代が玄関前で待って居た。秘書が慌てて、4人を下ろすために、助手席とその後ろのドアを同時に開けて、将臣達を車から降ろし、巫女代を合わせて5人をビルの中へ案内し、事務所の応接室へ通した。
「先生、神坂家の方々をお連れしました。」
 中平にそう言い、別の女性秘書に、5人が来客したと伝え、お茶を準備させ、自分は、車を地下駐車場に片付けに向かった。
「これは、これは、ご家族皆さんでお越し下さいましたか。今日は宜しくお願いします。」
 中平が、応接室と自室を繋ぐドアを開き、そう言いながら入って来た。その後ろに居た検事正の長岡は、折り畳み出来るパイプ椅子を3脚、秘書室から運んで来て、中平が座る一人掛けのソファーの右側に2脚、左側に1脚置いた。その右側には、副党首の岩原と奥山頭取が座り、左側に長岡が座った。その前にあるセンターテーブルを挟んで、右側にある三人掛けのソファーには、将臣と橙子が、左側の同じタイプのソファーには将嗣と信恵が腰をかけた。中平の真向いの一人掛けソファーには巫女代が座った。総勢九人か着座し、落ち着くと、女性秘書がお茶を運んで来た。
「ありがとうございます。それにしても中平さん。あなたは、政治家って顔つきでらっしゃるのね。5期目だったかしら?初当選の時からテレビで見てましたよ。時が経つに連れて、どんどん板に付いて来るのね、腹黒政治家の顔が。」
 信恵は、遠慮なくお茶碗を両手で持って、冷ますために胸の前で持ち、嫌味を言った。
「ハハハ、分かりますか。えっとぅ、確か信恵さんですね。流石ですなぁ、怪物お孫さんを持つ婆さんだ。はっきり、言いますな、私と気が合うかも知れませんよ。」
 中平も負けずに返した。
「あら、私の名前まで調べ上げてたんですか。益々、厄介な人ですね。ハハハ。」
 信恵も一歩も引かない。
「信恵、冗談はそれくらいにしとけ、ここは巫女代の大仕事の場なんだから。」
 将嗣は苦笑いで信恵の口を止めた。
「すみませんね中平さん、こちらの方が岩原さんと奥山頭取で、こちらが長岡検事正ですね。まぁ、話しは簡単ですよ。『ファーザー』はあなた方ですね。直ぐにその活動は止めて頂けますか?世界征服なんて無理ですよ。」
 巫女代は物怖じせず、あっさりと言い放った。
「いやいや、我々はですね、この国を変えたいのです。庶民がもっと豊かになるために。そのためには、一旦、この世界が築いたパワーバランスを白紙に戻した方がいいんです。だから、政治家2人と銀行員、検察が結束して徐々に行動して行く訳です。世界征服なんて痴がましくて、あくまでも、先進国の3国が協力し合って、世界平和を目指すのです。」
 中平が言い訳がましい話しを始めると、車を運転してた秘書が重そうなジュラルミンケースを持って部屋に入って来て、長岡の側に置き、息をはぁはぁさせて、中平に一礼し部屋を出て行った。
「巫女代さん、神坂家のみなさん、これはですね若い力をお借りするための、我々が汗水流して集めたお金です。我々に協力して頂くには、神坂家のみなさんが、我々同様に生活に犠牲を払わなければなりません。僅かですが、これをお納め頂いて、是非、巫女代さんのお力を。お願いします。」
 中平は口が達者だ。2つのジュラルミンケースを開け、2億円を堂々と巫女代達に見せつけた。
「恐ろしいですね。よくもそんな口から出任せを言えたものですね。」
 涙ぐみながら巫女代は言うと、自分が座ってるソファーの後ろの白い壁にプロジェクターが映し出すように、この4人の男達が様々な人達から騙したり、脅したりして、金を受け取る映像が流れた。
「中平さん、これが私の力です。動かぬ証拠。こんなお金受け取れるわけないわよ。あなた方は犯罪者よ。」
 巫女代は目を真っ赤にして言った。
 すると、自動小銃を持ち武装した男達が数10人、部屋の中に入って来た。
「巫女代さん、私が将嗣さんと信恵さんを。あなたは将臣さんと橙子さんを。」
 一瞬、信子が将嗣と信恵の後ろに姿を見せて、2人の肩を触ると3人は消えた。そして、将臣は橙子の手を取り、橙子は巫女代をその反対側の手で触ると、この3人も消えた。
「畜生、逃げられたか。中平さん失敗ですよ。どうするだ。」
 秘密裏に武装集団を召集してた長岡が悔しそうに言った。
「いやいや、まだまだ。始まりましたよ。神坂家の抹殺が。」
 中平は、怒りをあらわにそう言った。あの金で動かせなかった事に。

つづく


重力 ルーラー⑨

2020-05-17 11:18:00 | 小説



⑨曲者達の陰謀

 あのテロリスト紛いの3人組は逮捕されると、これまでの経緯を簡単に自白した。ファーザーと言うどの国の人間かも知らず、スイス銀行から多額な送金が入り、命令を受けテロ活動の準備を進めていた事が分かった。また、ポケットティシュ配りの現場で川上巡査部長の公務執行を妨害した事も認め、裁判では、殺人予備罪の公務執行妨害罪で5年の実刑判決が下された。それと、マスコミには『似非テロリスト』とか『身の程知らずテロ』等と報道され、中川と田上、新田の3人の家族も住まいを移らなくてならないくらいのバッシングを受けた。逆に、『格差社会の弊害』と言う者達も居て、半年間くらい話題となり世間を騒がせた。それは、3人はそれぞれ別々の刑務所に収監されても、マスコミ関係者の取材による面会が少なくなく、テレビの特番が放映されたり、本や週刊誌の記事になったからである。その中で彼等を指揮してた『ファーザー』の存在が取り上げられたのだ。
 しかし、『ファーザー』を特定する手懸りはみつからず、謎の人物で終わってしまった。だが、〝我こそがファーザーなり〟とか、〝実はマーザーでした〟等と売名行為に走る輩が現れた。

 そんな中、当の本人のファーザーは、その輩達を秘密裏にヒットマンを遣い死にかける程の負傷を負わせた。命まで奪えなかったのは、正確に言うと、巫女代が力を遣い、死に至らせないようにしたのだ。自分自身が雇ったヒットマンが殺す事が出来ないのはあり得ない事だったため、巫女代の関与は疑っていた。それと同時進行に、特に、田上から巫女代の情報を聞き出すための人間を面会させたりと、情報収集も怠らなかった。
 ファーザーが得た巫女代の情報は情報は、20代前半の女性である事。瞬間移動が出来る事のたった2つだけだった。どうしても、巫女代を捕らえ、自分の指揮下に置きたいとの思いは強く、巫女代を拉致する事に苦慮していた。とにかく、巫女代が現れるような事件を次々と起こしてた。

 一方、巫女代は、一連のマスコミによる報道で、あの3人がアングラの強者の手下だったのが分かり、また、ヒットマンの存在もファーザーの手下と予想し、巫女代自身との接触を図ろうとしていると考えた。
「信子(しんこ)さん、困った事になってるんですが、聞いてもらえませんか?」
 巫女代の力を覚醒させてくれた、巫女代の祖先である鎌倉時代に活躍している信子にタイムスリップして会いに行った。
「巫女代さん、ここまで来れるようになったのですね。凄いですね。頑張りましたね。どうぞ遠慮なく言って下さい。」
 信子は驚きもせず、嬉しそうに言った。
「実はですね。私を捕らえようとしてる人物が居て、色んな事件を起こしてるんです。その度に大事に至らないようにしてるんですけど。なかなかその人物を探し出せないで居て。」
 巫女代は、困惑してる表情を顕に信子に言った。
「困りましたね。恐らく、その人物は、独りではなく複数の人が1つの名を名乗ってる可能性がありますよ。巫女代さん独りで探し当てられないのなら尚更、そう疑います。私、お手伝いします。巫女代さんの時代に行きますよ。」
 信子は頼もしかった。
「そこまで、考えきれませんでした。なるほど、いつもだと、犯罪を犯す人の本心が見えるんですが、誰かに命令されてやった事の先がはっきりと感じられないんですよ。そうか、独りの思いではなくて、複数人が関わってるから、複雑になってるのか。」
 信子の言葉が巫女代にとって、ファーザーを見つけ出す糸口になった。
「巫女代さん、私、何件か抱えてる事があるので、それを済ませて明後日の朝に伺いますね。」
 信子は巫女代がきっかけをみつけたのに気づき、笑顔で巫女代を見送った。
 信子も巫女代も人の怨念や怒りが表情には出しきれてない物が見えるのである。内に秘めた恐ろしい表情が見えて来るのである。信子が言ってたように複数の表情が重なり合うと複雑になって、鮮明な映像にならない訳である。『ファーザー』を特定する事で、また、巫女代の力がレベルアップするのは間違いないだろう。
「巫女代さん、おはようございます。その後、どうですか?」
 爽やかに信子が巫女代の部屋に現れた。丁度、外出する準備が整った時だった。
「はい、まだ、ボヤけているんですが、4人の顔が浮かんで来て、書いてみました。」
 カバンからA6サイズのスケッチブックを出して信子に見せた。一頁に2人づつ描かれて居て、信子は時間をかけてひとりひとりの顔を見た。
「近くに居る人が4人です。後は外国の方です。お役人さん?財閥の長(おさ)、ですかね?」
 信子はポーカーフェイスで巫女代に言った。
「お役人さん?財閥の長?なるほど、警察か検察の上の人。それと、大企業の社長か会長さんかなぁ。ネットで検索しますか。」
 巫女代は、カバンを置き、パソコンを立ち上げた。
「これって、カンピータって機械ですか?巫女代さん高価なものをお持ちなんですね。」
 興味深そうに信子は言った。
「この時代では、庶民にだいぶ普及してるんですよ。パーソナルコンピュータです。略してパソコンって言うんです。とても便利なんだけど、弊害もあってですね。」
 巫女代は検察長庁のホームページから当たって見た。
「この人、似てますね。検事正(けんじせい)と読むのですか?長岡さんかしら。読み方は。」
 信子は、スケッチブックの一頁目の人物を指刺して言った。
「はい、そう読むと思います。うん、似てる。でも、実際に会わないと分かりませんね。私、この人の腹の中見えないです。」
 巫女代はやっぱり時間がかかりそうだと腕組をした。
「このパソコンは電気信号や電波を使ってるのですか?私、入って行けますよ。」
 信子はまたサラッと爽やかに言った。
「えっ、そうなんですか?そっか、電磁波のコントロールするのも応用出来るんだ。大丈夫ですか?身体に負担になりません?」
 巫女代は驚いて、信子の左手を握って不安そうにした。
「はい、大丈夫ですよ。それなりの体力を使うくらいですよ。では、行って来ます。」
 信子は、ホラー映画とは逆のパターンでパソコンのディスプレイの中に入って言った。巫女代は空いた口が塞がらなかったが、自分自身の力に対して、何か固定観念があるのに気づき、もっと色々な体験をしないとならないと思い、同時に信子が簡単にやり退けるのに感銘を受けていた。
 巫女代は信子を待ってる間、ディスプレイに手を翳して、そこから放たれる刺激を感じ取り、手首までディスプレイに入れる事が出来た。すると、信子が戻って来るのが分かった。手首を抜いて待ち構えてると、自分の側に信子が立っていた。
「びっくりしたぁ。お帰んなさい。どうでした?」
 巫女代は驚きを隠さなかった。
「はい、4人が分かりました。電波や電気信号の速度はなかなか速いですね。思ったより楽に出来ましたよ。」
 相変わらず、信子は爽やかな表情のまま。
「えっ、信子さん、初めての試みだったの?」
 益々、巫女代は驚くばかり。
「はい、そうですけど。えっと、最初の人は検事正でしたね。後は、野党第一党の自衛民衆党の党首で、中平で、3人目は、同じ党の岩原(いわばる)で4人目は、日菱銀行の頭取で奥山でした。この人達は社会的に活躍されておられるようですが、裏稼業が悲惨ですね。私利私欲ばかり考えてます。怖い人達です。」
 信子は冷静に巫女代に告げた。
「信子さん、本当に身体、大丈夫?」
 改めて、巫女代は信子な身体を案じた。
「大丈夫ですよ。これでも、巫女代さんより歳下なんですから。私、13歳になったばかりですよ。」
 信子は笑みを返した。
「そうだよね。一応、私のご先祖様だからさ。」
 巫女代に笑顔が戻った。
「巫女代さん、近くに居るこの4人を見てきてもらえませんか?実際に目にするともっと情報がえられると思います。その間、私は外国人をパソコンから追ってみます。」
 信子は新たな提案をした。
 2人は、違う時空に別れ、調査を再開する事にした。
 結果、『ファーザー』は総勢12人だった。3つの国に4人づつの構成になっていた。それぞれの国の権力者で、トップより1段階、2段階、下の者達の集団だ。丁度、お互いが自国で動き易い立場で、最先端の電算機器や兵器を調達し易い立場で、テロリストと言うよりも、テロルを利用して、クーデターを起こし、『ファーザー』メンバーが自分の手を汚す事なく自国の統治者となり、その3国で世界制覇を目論んでる事が分かった。また、巫女代の個人情報も集めていた。家族構成と生活様式、巫女代が力を発揮した時の監視カメラ映像等だった。だが、何故、巫女代がそんな力を持てるようになった理由と信子の存在は分かってなかった。
「巫女代さん、この人達の企み止めないといけませんね。この人達の影響で犠牲者が多くでます。そして、世界征服したとしても、この人達のエゴを優先して、また、対立が出来て、人類が危機にさらされる可能性が高いですよ。」
 信子は冷静に提案した。
「うん、私も同じように考えていた。どんな方法が良いかしら。私が、私の力で抑え込むのはナンセンスよね。私を利用しようとするわね。信子さんの存在は知られたくないし。」
 巫女代は結論を出せないでいた。
「巫女代さん、話し合いです。それしかないですよ。その時は、この時代に巫女代さん独りで居た方が良いから、将嗣(まさつぐ)さんや将臣(まさおみ)さん、当然、橙子さん達を私の時代に連れて行きます。そして、解決したら戻ってもらう。と言うのは如何ですか。」
 巫女代の信子に対するリスペクトは益々強い物になって言った。
「その方向で進めた方が良いね。もっと具体的な計画立てなきゃ。」
 巫女代は腹を括り挑む事にした。

つづく



弱み

2020-05-16 06:56:00 | ひとこと



人の弱みは、誰にでもあるものだから…

自分にも弱みがある事を認識して助けあって生ないと。

以下、愚痴です。申し訳ないありません。

選挙の時は、ペコペコ頭を下げて、当選後は、保身のため呪文を言い繰り返す。

我々が〝先生、先生〟何て言っている人達は、仕事としてそうしてるだけで、分業のひとつでしかないのでしょう。

だから、僕らは、僕らなりの思いを各々の方法で表現した方が良い。

そう思います。

後は、死んで行くだけです。辛いですね。どんな生き物でも一番自分自身が可愛いのでしょうね。

重力 ルーラー⑧

2020-05-12 17:22:00 | 小説



⑧勢いだけのテロリスト

「参りましたね。映像に映ってないなんて信じられませんよ。」
 オダ山の神経ガスを製造してたアジトから逃げ出したテロリスの一人、新田幹夫がリーダーの中川忠治(ちゅうじ)に言った。草叢を駆け抜け、軽のワンボックス車をもう1人のテロリスト、田上蒼克(そうかつ)が運転し、もう1つのアジトに向かう途中の会話だった。
「新田、お前パソコン落としただろ、それが原因じゃないのか?」
 運転してる田上が言った。
「いや、他の動画はちゃんと見れますから。その影響とは思えませんよ。」
 新田は冷静に答えた。
「忠さん、どう思います?慌てて、逃げるぞって言ってたし?」
 田上はリーダーの中川に問うた。
「何故か、嫌な感じがしたんだ。1人は、テロ対策室の安藤って言う刑事だろ。一瞬見えたんだ。そしたらノイズがはいってな。1、2分しか撮ってないだろ。そのパソコンで出入り口のカメラの映像、受信出来るか?」
 リーダーの中川は、新田に指示した。
「はい、出来ますよ。うわっ、ガサ入れされてます。おしまいだぁ忠さん。」
 新田は、スマホのテザリング機能を使って、オダ山アジトの1階出入り口に設置してた監視カメラ映像を受信した。
「そうか、やな感じってのは、この事だったのか。逃げ出せて良かったじゃねぇか。俺ら3人居れば、また作戦立てられるだろ。だが、何故バレた。警察が動いてるのは分かってたが、こんなに早く動いて来るとは予想出来なかったな。内通者は居ないはずだ。ファーザーに相談してみるか。」
 中川は命拾いした気になっていた。自分の勘が鋭いと勘違いしてた。
「忠さん、取り敢えず家に着いたら、新田にその画像、分析させましょう。それと、班長達の最近の動き、洗っときましょうよ。内通してた奴、居るかも知れませんよ。」
 田上は中川に提言した。

 家に着くと早速、新田はスペックが高い、デスクトップパソコンに、ノイズの入った動画をダウンロードして、解析を始めた。
 もう1台のデスクトップパソコンでは、部下達の最近の行動を洗い出した。このパソコンには、部下達の持ってるスマホをGPSで追跡し、何時、何処に居たかを記録してたいたのだった。
 中川は動画に関心があり、新田が作業するパソコンのディスプレイばかり見ていた。
「全く、ノイズが取れないな。」
 中川がずっと見てて、冷や汗を垂らしながら作業してる新田に言った。
「はい。」
 新田は一言だけ言うと、ノイズ除去のコマンドを何度も打ち直しているだけだった。
「忠さん、部下達の動き、特に問題ありません。」
 田上は中川に報告した。
「ダメだ、このノイズ、ウンともスンとも言わない。」
 新田はお手上げだった。
「しょうがないですよ、ファーザーにこの動画を添付して、メールで指示を仰ぎましょう。」
 田上は力が抜け、どうしようもない表情で呟いた。
 ファーザーと言う者は外国人らしく、中川と田上が五年前に同じ会社からリストラを受けて、インターネット上で知り合った得体の知れない存在だった。
 田上がこの国の労働や就労の法規制のある伝言板に載せていた。その記事に反応し、中川と共にテロ行為を実行する計画を企てたのだった。
 そのファーザーは、爆弾や時限発火装置、神経ガスの生成法等を中川と田上にメールを通して教えて言った。また、資金に関しては、スイス銀行からfatherの名義で送金されて来た。そして、その金で人を集め、オダ山のスクラップ工場跡を神経ガスの生成場とアジトを構える事が2年前に実現したのであった。
「返信が来ました。訳してみます。〝この画像はこちらでも分析してみる。それにしても、君達だけだぞ、実行もせずに捕まったのは、何か結果をだせ〟だそうです。ですね。何の結果も出せてないですもんね。なさけないわぁ。」
 田上は落ち込んだ。
「じゃあ、何かやろうじゃないか。場所を変えて、爆薬なら、ここの床下にあるだろ、やってやろうじゃあないか!」
 中川は、自分達を鼓舞するように強い口調で言った。
「はい、忠さん!やってやりましょう!」
 新田は賛同し、興奮した。
 新田幹夫が中川と田上に繋がったのは、インターネットの伝言板の内容を見てからだった。勤めてた会社では、上司からパワハラをされ、激辛カレーを食べさせられたり、すき焼き鍋に顔を押し付けられたり等され、警察に被害届けを出したものの。パワハラ行為をした上司達は、初犯でもあり、反省が見られろとして、6ヶ月の懲役刑で執行猶予が1年しか付かないものだった。
 流石の新田もこの裁判結果は怒り心頭で、民事裁判に切り替え、賠償金を3億円手に入れたのだった。
「はい、お2人さん、慌てないで下さい。計画を立てましょう。神経ガスで大量殺害は大き過ぎる事だった訳ですよ。今回よりは地味ですか、これだけ爆薬はあるんです。面白い事が出来そうですよ。お2人とも落ち着いて。」
 田上は、中川や新田に今まで見せた事がない、眉と目尻、口角が吊り上がり、深い眉間の皺を作ってそう言った。
「駅前でティッシュくばりをさせるんだ、比較的可愛らしいお姉さんたちにな。そして、そのティシュの中に、この人が死ぬ程度のプラスチック爆弾と、受話器を入れておくんだ、会社に入ってくだろ。だいだい自分の席に着いた頃に爆破スイッチをonだ。建物は壊れないけど、その中は地獄絵図さ。どうだ面白いだろう。リストラされた2人とパワハラで会社を辞めざるを得なかった、俺ら3人には、もってこいの作戦さ。」
 田上自体が落ち着いてなかった。条規を逸した言葉に、他の2人は恐怖さえ感じた。
「じ、じゃあ、先ずはポケットティシュを入荷しないとな。後、広告の内容だな。」
 中川は声を震わせた。
「新田、お前が用意しろ。1万個ありゃあ充分だろ。」
 3人の中の上下関係が変わり、田上がリーダー的存在になった。
「忠さん、一緒に行ってやって下さいよ。俺は、ファーザーからの返信と広告、爆弾の設計図考えてますから。頼みますよ。」
 田上は、人が変わったように、猫背で顎が突き出て、掠れ声で言った。中川と新田の2人は唖然とするも部屋を出て、車に向かった。
 田上が爆弾の量からポケットティシュ爆弾が何個出来るか計算し、マイクロチップタイプの受信機が何個集められるか調べていると、ファーザーからのメールが返信されて来た。ノイズは少し減っていて、2人の人間が動いているのが見えた。そして、液体化させた神経ガスに近づき、その前で手作業してるように見えた。ファーザーからは、その手作業してる人間を探し出せとの命令が記されていた。それに対し田上は、小型爆弾で大量殺人の計画を報告し、その人間を見つけ出すのは、時間がかかると答えた。しかし、ファーザーはその小型爆弾計画よりも、その人間を探す事を優先するよう返事した。田上は、了解した事を返事した。
 だが、田上はその命令に従う気はなかった。自分の計画を実行したい欲求が上回っていた。
 数日後、小型爆弾の設計図が出来上がった。中川と新田にそれを見せて自分で作りながら説明し、2人に小型爆弾を作らせた。後は、受信機を手に入れ、装着させて完成するまでに至った。その3日後には、人気の無い砂浜で実際の爆弾の威力を見る実験を実施した。直接的な殺傷力は低いものの、充分に出血する程の怪我を負わす威力があるのを確認した。
 2週間後、小型爆弾に仕込む受信機が届き、更に、2週間かけて、自分のスマホの操作で起爆出来るようにプログラミングし、最終的に計画を立てて3ヶ月後、3,000個の小型爆弾が完成した。しかし、ティッシュ配りをする女性達を集める事が出来なかった。田上は我慢できずに、3人でテッシュ配りをする事にした。
 テッシュ配りを決行する当日、田上と中川、新田はネクタイを締め、スーツ姿で駅前にたった。とても怪しい出立で、田上はパープルのダブルのスーツでネクタイがグリーンが基調のペーズリー柄で、中川はベージュのダブルで真っ赤なネクタイ。新田は、グレーのスラックスに白いワイシャツ、白地にゴールドのストライプ。全く、営業職には合わない格好である。誰もが差し出されたテッシュを受け取ろうとはしない。ある者は、彼等3人を避けて通り過ぎる始末。田上だけが興奮し、中川と新田は意気消沈し始めた。
「お宅さんら苦情が来てますよ。怪しい格好の3人組が居ると通報があったんですが。」
 とうとう、制服警官が2人、現れた。中川と新田は手を止めたが、田上だけ鬼の形相でティシュを差し出している。
「お兄さん、止めて下さい。話ししましょう。」
 1人の警官が田上の腕を掴んだ。すると、田上はその腕を払い退け、紙袋に入れていたティッシュをばら撒いた。
「うるせえぇ、これは小型爆弾だ、俺の携帯で爆弾される事が出来るんだ。無差別殺人テロだぁ。」
 目を真っ赤に充血させ、こめかみの血管を怒張させ、田上は大声を出した。周囲の人達は、それに驚き駆け出した。中川もティッシュをばら撒いた。
「俺達を馬鹿にした奴らを皆殺しにするんだ。お前えらは、みんな俺達を馬鹿にしたぁ!」
 中川も叫んだ。しかし、新田だけは、紙袋を放り投げて逃げようとした。
「俺は嫌だぁ!まだ死にたくねぇ。」
 そう叫ぶと、もう1人の警官に取り押さえられた。その警官は、無線で手早くこの状況を報告し応援を要請した。
「分かった。落ち着け!死に急ぐな。でも、凄いじゃないか、ポケットティシュに爆弾を仕込んだのか、前代未聞だぞ。」
 田上に突き飛ばされた警官は姿勢を整え、田上の興奮状態を鎮静に図った。
「テロリストなのか。じゃあ、何か政府に要求する事はないのか?その要求が通れば、被害者も出さずにお前さんも死なずに逃げられるぞ。名前、教えてくれ、私は三上伸介巡査部長だ。」
 三上巡査部長は爆弾の着火をさせまいと冷静に話し出した。
「先ずは、俺の仲間の新田をこっちへ引き渡せ!俺は田上だ!」
 新田は、尿失禁して、目と鼻から大量の涙を流してた。
「分かった、新田を引き渡すからな。落ち着けよ田上、でも、随分、頬がこけて居る感じに見えるな。苦労してこさえたのかこの爆弾。偉いな。不眠不休だったのか?私は、三上さんの部下で西尾拓也巡査だ。よし、新田さんを離すぞ。ほい。」
 三上巡査部長の応援は、テロ対策室にも入った。全員が出勤して間もない時間帯だった。
「対処部隊にも連絡しろ。全員行くぞ。」
 室長は慌てて命令した。
 鈴音は、巫女代に連絡した。逃げた三人のテロリストが爆弾を使って無差別殺人を実行しそうだという旨を伝えた。
 巫女代は大学に行く準備をし終えたところで、目を閉じ、田上達の現場を透視し状況を把握して、瞬間移動した。
「三上巡査部長、彼が持ってるスマホを取ってきますので、電源を切って下さい。」
 巫女代はそう言うと、田上の前に突如現れ、スマホを奪い取り、三上巡査部長に手渡した。散乱したポケットティシュを1箇所に集め爆薬の機能を停止させた。
 再び三上巡査部長の側に来た。
「もう大丈夫ですよ。後2、3分で高橋室長や安藤さんが来ますので。では、私は失礼します。安藤さんに宜しくお伝え下さい。」
 巫女代はそう言うと居なくなった。三上は呆然としてたが、田上、中川に手錠をかけ、新田は失神してた。
 そんな状況を戸惑いながら、殺人事件には発展しなかったんだもと三上と西尾は急な展開に頭の中を整理してられずに居たが、高橋室長たちが到着した。
「川上巡査部長、彼女は私達の仲間です。でも、心の中に納めて下さい。彼女の事は口外しないで居て下さいね。」
 呆然とする川上は、ゆっくり頷くだけだった。
 最初、中川がリーダー格で、No.2が田上、No.3が、新田と言ったテロ組織を作らせたのは、ファーザーその者であった。この国に力を持った人物がいるのを探りたく、この3人を利用したに過ぎなかった。しかしながら、この3人の感情的行動が、巫女代の存在をファーザーが知ることになった。だが、巫女代の力を今すぐ手に入れられる物ではないと言うのが分かり、次のフェーズの展開を検討する必要が出たのがファーザーの収穫であった。

つづく