
⑩平行線
巫女代と信子は、ファーザーなる曲者達の中で、自衛民衆党の中平にコンタクトを取り、副党首の岩原、日菱銀頭取の奥山、検事正の長岡を集めさせ話し合いを持ち、他、二国の8人にも、世界征服が無理な事を理解させ、『ファーザー』を解散させると言った方略を立てた。
「中平さんですね。私の事知ってますよね。岩原さんと奥山さん、長岡さん達と集まってもらって話しがしたいんですが?分かりますよね。」
巫女代は、中平の議員事務所に移動してそう言った。その時、信子は2人の側の時空間の狭間にひそみ、巫女代と中平を見守って居た。
「誰だ!何処から入って来たんだ!ん?君かぁ、そろそろ来ると思ってたよ。良いのかい?そんな言い方して。君のご両親やご祖父母達を泣かせるような事は控えた方が良いよ。」
中平は、巫女代を牛耳った思いで居た。しかし、時空の狭間に居る信子が、将嗣や将臣を監視してる中平達から刺客を一網打尽にし、巫女代の目の前に居る中平の周りに両手両脚を結束バンドで拘束された輩が寝転がって居た。
「あ、あ、せ、先生。我々、神坂家の面々に付いて監視してたのですが。い、いつの間に、ここに、こ、怖いよぉ。」
手脚を拘束されて横たわる中の1人が怯えて、尿失禁し、震え上がってた。
「こ、こ、これがお前の力か!想像以上だ!想像以上だ!わ、分かった、分かった、ら、乱暴はしないでくれよ。い、いつ集まればいい?」
中平も怯えて、しかし、益々、巫女代の力を手に入れたいと言う横縞な思いが強くなった。
「明後日、ここでいいですかぁ?ちゃんと集まってもらえますかぁ?私の家族を利用して脅迫とか、通用しませんからね。」
巫女代は、両腕を組んで仁王立ちし、中平に言った。
「分かった、分かりました。君の超能力は素晴らしいですね。仲間達にも見せてやりたいです。すみません。神坂家の方々を見守らせてたと捉えて頂けませんか?あなた様の貴重な力を他の悪党に奪われるといけないじゃないですか。ね。でも、ご自分で何から何まで。素晴らしい。」
中平は明らかに手のひらを返した。
「じゃ、明後日、お待ちして居ります。」
巫女代は、拘束された刺客達を紐解、明後日4人が集まる事を念押しし、中平達の目の前で一瞬で姿を消した。
「信子さん、本当、腹黒い人ね、態度がコロッとかわったわ。」
巫女代は呆れてた。
「はい、どうしようもない人ですね。なんて表現したらいいのか、生まれ持った利己的思考が強いのでしょうね。」
信子も呆れた。
2人は、自宅に着くと、巫女代の父、将臣と母の橙子と中平達の事を話した。
「じゃあ、爺さんと婆さんも家に来てもらってた方がいいな。」
将臣が言った。
「じゃあ、私がお迎えに行って来ますよ。」
信子はそう言うと、姿を消した。数分も経たない内に、巫女代の祖父、将嗣と祖母の信恵(のぶえ)が信子と手を繋いで巫女代達の前に現れた。
「巫女代ちゃん、信子様から聞いたよ。大仕事になりそうね。」
祖母の信恵が最初に言葉を発した。
「うん、大丈夫よ。ん、お婆ちゃん信子さんに様なんて。」
巫女代は信恵の信子に対する言葉遣いを不思議に思った。
「実はね、あなたの叔母にあたる子、あなたのお父さんの妹、巫女乃(みこの)がお世話になってるのよ。今まで、黙ってたけど、巫女乃は信子様の時代で、信子様のお手伝いをしてるのよ。あなたの胸の痣と同じ痣を持ってるの。でもね、あなたみたいに力を使えなかったの。だから本人は、信子様のお手伝いをしたいって言ってね。」
信恵は涙ぐみながら話した。
「いつの時代からか、お前みたいな痣を持つ子が産まれると『巫女』を名前につける事になってな、お前が産まれた日に将臣から相談を受けたんだよ。だから、こんな事態になるのは予測してたんだけどな。」
祖父の将嗣は寂しそうな表情で言った。
「そうだったんだ。」
巫女代は両親や祖父母達も想定内だった事が分かると、益々、正義感が漲った。その反面、寂しさも感じた。しかしながら、母親の橙子は幼い頃から明るく、元気に育ててくれた事に、今更ながら、女性の強さも感じ、複雑な心境に陥って居た。
一方、中平は第一秘書に、岩原と奥山、長岡に明後日の事を連絡するよう命じ、また、1億円も準備するよう言った。
「中平さん、大丈夫ですか?あの小娘、頑固そうじゃないですか。」
検事正の長岡が心配で中平に電話をかけて来た。
「乗り切るしかないですよ。これまで私が臨機応変に立ち回って来たのを知ってますよね。今回だって、あの小娘に金の力の使い方、思い知らせますよ。」
中平は、不敵な笑みを浮かべてた。
「何か秘策があるのですか?」
長岡はこの古狸の企みを予想しきれないでいた。
「あの小娘だけじゃなくて、両親、まぁ、片方だけでもいいから、一緒に連れてこさせるわけですよ。良い車で迎えに行ってね。そして、親に金を見せて、親から落として行く訳ですよ。取り敢えずは、1億円は用意して、定期的に金を送ると言う訳。そしたら、働かなくてもいいようにし向ける。金ですよこの世は、金さえあれば。」
中平の不敵な笑みは止まらない。
「相変わらずですなぁ。お任せしますよ。楽しませて下さいよ。中平さん。」
長岡の不安は、期待へと変わっていった。
「ええ、勿論、真の金の亡者は、使い方も心得て、強力な武器になりますからね。私にとってはリーサル・ウェポンですから。見とって下さい。」
中平は、自信と余裕を感じさせて、長岡からの電話を終えた。
「先生、奥山頭取が後1億、持って来るとの伝言を頂きました。」
第一秘書は、中平と長岡の電話が終わるのを待って居て、透かさず、報告した。
「あはは、用心深い方ですね。まあ、いいでしょう。戦力アップには間違いありませんね。ありがとう。」
中平は言った。
「おはようございます。自衛民衆党の中平の秘書でございます。お迎えに上がりました。」
巫女代と4人のファーザーとの話し合いの朝、玄関チャイを鳴らした後、スピーカーに向かって、そう告げた。
巫女代はシャワーに入り、髪の毛をドライヤーで乾かしている途中だったので、橙子が玄関先で対応した。
「おはようございます。少し、早めに参りました。朝早い人間にご足労おかけします。それで、中平は、お若い巫女代さんをご両親がご心配だろうと言っておりまして、もしも、そんな事態の時は、同伴頂くのも構わないと申しております。お母様ですね。どうぞご検討下さいませ。」
秘書は、言葉を選び丁寧に橙子に言った。
「あ、あ、そうですか。わざわざお気を遣って頂いて、少々、お待ち下さい。」
橙子は、その気遣いに驚き、家に入り将臣にその事を話した。
「巫女代ぉ、私も父さんも一緒に行って良いんだってよ。」
ドライヤーの音がする巫女代の部屋の前で、その音にかき消さられないように、大きめ声でいった。
「私は良いわよ、ね、信子さん。」
平気な顔で巫女代は言った。
「はい、大丈夫だと思います。私は姿を隠してますので。」
信子はそう言うと橙子の前から姿を消した。しかし、橙子の頭の中には〝先に行きます。〟と、声がしてた。
巫女代が自分の部屋からリビングに向かうと、将嗣と信恵が迎えに来た秘書にお茶を出し世間話をして居た。
「巫女代、私達も行くわね。」
信恵が笑顔で言った。
「分かった。あの、運転手さん、車は何人乗りですか?」
巫女代が秘書に聞くと、5人乗りと分かり、巫女代は独りで向かうと告げた。
将嗣、将臣、信恵、橙子の4人は準備が整い、迎えに来た車に乗った。巫女代は先に行くと告げ、姿を消した。
「じゃあ、車出します。」
秘書は、予想外に巫女代の祖父母も一緒になったが、中平にとって都合がいいと考え、事務所へ車を走らせた。
助手席に将臣が座り、後部座席には、右から橙子、信恵、将嗣と並び、女性2人がぺちゃくちゃ喋り、将嗣と将臣は五月蝿がっていたが、運転する秘書は、その会話で緊張が解れ、気持ち良く運転してた。
中平の事務所があるビルの前に着くと、巫女代が玄関前で待って居た。秘書が慌てて、4人を下ろすために、助手席とその後ろのドアを同時に開けて、将臣達を車から降ろし、巫女代を合わせて5人をビルの中へ案内し、事務所の応接室へ通した。
「先生、神坂家の方々をお連れしました。」
中平にそう言い、別の女性秘書に、5人が来客したと伝え、お茶を準備させ、自分は、車を地下駐車場に片付けに向かった。
「これは、これは、ご家族皆さんでお越し下さいましたか。今日は宜しくお願いします。」
中平が、応接室と自室を繋ぐドアを開き、そう言いながら入って来た。その後ろに居た検事正の長岡は、折り畳み出来るパイプ椅子を3脚、秘書室から運んで来て、中平が座る一人掛けのソファーの右側に2脚、左側に1脚置いた。その右側には、副党首の岩原と奥山頭取が座り、左側に長岡が座った。その前にあるセンターテーブルを挟んで、右側にある三人掛けのソファーには、将臣と橙子が、左側の同じタイプのソファーには将嗣と信恵が腰をかけた。中平の真向いの一人掛けソファーには巫女代が座った。総勢九人か着座し、落ち着くと、女性秘書がお茶を運んで来た。
「ありがとうございます。それにしても中平さん。あなたは、政治家って顔つきでらっしゃるのね。5期目だったかしら?初当選の時からテレビで見てましたよ。時が経つに連れて、どんどん板に付いて来るのね、腹黒政治家の顔が。」
信恵は、遠慮なくお茶碗を両手で持って、冷ますために胸の前で持ち、嫌味を言った。
「ハハハ、分かりますか。えっとぅ、確か信恵さんですね。流石ですなぁ、怪物お孫さんを持つ婆さんだ。はっきり、言いますな、私と気が合うかも知れませんよ。」
中平も負けずに返した。
「あら、私の名前まで調べ上げてたんですか。益々、厄介な人ですね。ハハハ。」
信恵も一歩も引かない。
「信恵、冗談はそれくらいにしとけ、ここは巫女代の大仕事の場なんだから。」
将嗣は苦笑いで信恵の口を止めた。
「すみませんね中平さん、こちらの方が岩原さんと奥山頭取で、こちらが長岡検事正ですね。まぁ、話しは簡単ですよ。『ファーザー』はあなた方ですね。直ぐにその活動は止めて頂けますか?世界征服なんて無理ですよ。」
巫女代は物怖じせず、あっさりと言い放った。
「いやいや、我々はですね、この国を変えたいのです。庶民がもっと豊かになるために。そのためには、一旦、この世界が築いたパワーバランスを白紙に戻した方がいいんです。だから、政治家2人と銀行員、検察が結束して徐々に行動して行く訳です。世界征服なんて痴がましくて、あくまでも、先進国の3国が協力し合って、世界平和を目指すのです。」
中平が言い訳がましい話しを始めると、車を運転してた秘書が重そうなジュラルミンケースを持って部屋に入って来て、長岡の側に置き、息をはぁはぁさせて、中平に一礼し部屋を出て行った。
「巫女代さん、神坂家のみなさん、これはですね若い力をお借りするための、我々が汗水流して集めたお金です。我々に協力して頂くには、神坂家のみなさんが、我々同様に生活に犠牲を払わなければなりません。僅かですが、これをお納め頂いて、是非、巫女代さんのお力を。お願いします。」
中平は口が達者だ。2つのジュラルミンケースを開け、2億円を堂々と巫女代達に見せつけた。
「恐ろしいですね。よくもそんな口から出任せを言えたものですね。」
涙ぐみながら巫女代は言うと、自分が座ってるソファーの後ろの白い壁にプロジェクターが映し出すように、この4人の男達が様々な人達から騙したり、脅したりして、金を受け取る映像が流れた。
「中平さん、これが私の力です。動かぬ証拠。こんなお金受け取れるわけないわよ。あなた方は犯罪者よ。」
巫女代は目を真っ赤にして言った。
すると、自動小銃を持ち武装した男達が数10人、部屋の中に入って来た。
「巫女代さん、私が将嗣さんと信恵さんを。あなたは将臣さんと橙子さんを。」
一瞬、信子が将嗣と信恵の後ろに姿を見せて、2人の肩を触ると3人は消えた。そして、将臣は橙子の手を取り、橙子は巫女代をその反対側の手で触ると、この3人も消えた。
「畜生、逃げられたか。中平さん失敗ですよ。どうするだ。」
秘密裏に武装集団を召集してた長岡が悔しそうに言った。
「いやいや、まだまだ。始まりましたよ。神坂家の抹殺が。」
中平は、怒りをあらわにそう言った。あの金で動かせなかった事に。
つづく