K.H 24

好きな事を綴ります

僕は何人も居る。みんなは独りなんだ。1-⑩ 最終話

2019-12-28 18:00:00 | 小説
⑩Revolution
 「翔子、合格おめでとう。林田君も来てくれてありがとうね。」
 翔子が看護師と助産師の国家試験をいっぺんに合格し、実家でお母さんと僕と3人で合格パーティーをする事になった。
 僕は、翔子のお母さんに会うのはこれで4回目で、お互い慣れて来た頃だった。翔子のお母さんは、いつも親切にしてくれた。そして、自分の実家でもあるような気持ちになれた。
「お母さん、二郎君ありがとう。やっと解放された気分よ。」
 翔子は笑顔で言った。
「良かったよ、ほんとに。じゃあ先ずは、乾杯しますか。」
 僕は、翔子とお母さんのグラスにビールを注ぎながら言った。
「林田君、私が注いであげる。」
 お母さんが僕のグラスにビールを注いでくれた。
「ぷはぁ、旨い。五臓六腑に染み渡るぅ。」
 翔子は豪快にビールを一気呑みし、そう言った。
「翔子、合格祝い、どうぞ。」
 僕は、18金のエンジェルコインのネックレスを贈った。
「えっ、ありがとう。開けていい?」
 とても嬉しそうな顔で言った。
「可愛いね。ありがとう。白衣の天使、頑張ります。」
 翔子のお母さんも喜んでくれて、早速、お母さんが翔子にネックレスをつけてあげた。
「私は手料理だけど、心を込めて沢山作ったからね。」
 お母さんが作ってくれた料理は、豚バラ肉を厚めに切った肉じゃがと鶏モモを1枚豪快に揚げた唐揚げ10枚、鯛の塩釜焼き、エビたっぷりの茶碗蒸し、だし巻き卵、お赤飯、それぞれ10前づつ食卓いっぱいに並べられた。まさにお袋の味だった。
「お母さんありがとう。嬉しい。」
 翔子はお母さんを抱きしめた。
 また、翔子は公立の総合病院への就職も決まり、勿論、産婦人科病棟の勤務で、社会人として順調に歩み出した。
 そんな中、僕の身体に異変が訪れた。益田刑事の刺客として、加藤と一緒に仕事をするたびにシンジ君が活躍してくれる。それと、加藤から空手も手解きされて、シンジ君である時の時間がだいぶ増えた。
「最近、思うんだけど、シンジ君と交代するとさぁ、表情だけじゃなくて、腕とか脚の筋肉が盛り上がって太くなる感じがするんだ。大胸筋だって盛り上がるし、身長が5cmくらい高くなる気もする。」
 加藤と2人でトレーニングを始めようとすると、そんな事を言い出した。
「じゃあ、シンジ君と代わるよ。おお、ほんとだ。カトちゃんよく気づいてくれたな。俺もシャツとズボンがきつくなる気はしてたんだよ。なんだろうこれ。」
 僕からシンジ君に代わると2人が言う通りだった。また、僕に代わると腕や脚、身長が萎むように元に戻る感じがした。
 実際に、腕と脚、身長、体重を測ってみると、シンジ君に代わると太く、高く、重くなった。ついでにスマホで写真を撮ってもらい比較してみると同一人物とは思えない変貌ぶりだった。
「お前らさぁ、6人ともしっかり役割があるだろう。身体の中も6パターンあるんじゃないか。順番に代わってみろよ。」
 加藤は言った。そして、同じように身体測定して、写真を撮ってみると、それぞれ変わってた。
「大発見だな。凄いよお前ら。」
 加藤は言った。
 そのデータ、画像を持って、翔子の休日の日に会いに行った。
「二郎君、内も外も6人になっちゃうのかしら。」
 翔子の部屋で、身体測定データと画像を見てもらった。
「どうなるんだろう。頻繁に僕と代わるシンジ君がはっきりと僕との違いが分かるよね。だから他の人達も僕と代わる時間を長くすると、どんどん違いがハッキリするのかな。」
 僕は言った。
「でも、私もそうなっちゃうの?いや、翔子はならないんじゃあないかな。二郎君は、実際、命掛けの緊迫した状況でシンジ君と代わる場面が多いから、神経系と筋系、内分泌系の同時活動が劇的に変化するはず、その影響が大きいのかも知れないね。」
 翔子が不安がると、ユキが交代して、そう言った。
「私もそうだと思う。やっぱり気になるんだけど、私とかアヤナミが一週間くらい外に出たらどうなるかしら?」
 歌音が交代して言った。
「試してみたら良いじゃん。」
 杏が代わって言った。
「翔子ちゃん、今日はよく代わるのね。みんなが興味あるからだね。」
 歌音が言った。
「えっ、無くなった?」
 歌音はパンツの中を覗き込み直ぐに見えるであろうペニスが見えなくなった。そう言い、パンツの中に手を突っ込んだ。
「小さくなってる、小さくなってる。えっ、えっ、無くなった。」
 歌音はそう言って、翔子に目を合わせ、パンツに突っ込んだ手の動きも止めた。
「あっ、おっぱいも有る、おっぱい、おっぱい。ノーブラだ、やらしいんだ。」
 杏が喜んで言った。すると、歌音は、両手を胸に当てた。
「はぁっ。」
 一言発した。
「脱ぅ〜げ、脱ぅ〜げ。こらこら、杏、ふざけないの。」
 杏からユキに代わって言った。
「いいのよ、いいのよ。ちょっと恥ずかしいけど、脱ぐ。ユキさん、構わないかしら、確かめて欲しい、女の身体なのか、自分でも確かめたいの。」
 歌音は言った。
「あ、あ、私はいいよ。翔子は。いいよ、不思議、二郎君の身体が女に、なんだよね。」
 ユキと翔子は言った。
 歌音はチノパンから脱いだ。スネ毛をはじめ、両脚の体毛は二郎に比べ、だいぶ薄い。そして、肌がしっとりしてて、ヒップライン、太腿から脹ら脛にかけた曲線も女性らしい柔らかさを感じる見た目である。
「歌音さん、綺麗。二郎君じゃない。」
 翔子が思わず言った。
 次に、白いボタンダウンのシャツの上のボタンから外していった。Cカップ程か、巨乳では決してない。シャツを脱ぐと、チラッと脇毛が見えたが、二郎より四分の一くらい薄くなってた。真っ直ぐ立った姿からは、ふっくら柔らかそうな乳房で、正に日本人に多いと言われる三角状で、胸骨と左右のピンクな乳頭を結ぶ線が、正三角形になった、いわゆる、ゴールデントライアングルと言われる綺麗なバストの位置関係になっている。その下から降りていくボディーラインはウエストにかけて絞られて行き骨盤に届く位置から膨らんでいく、くびれが強調された美しい曲線を描いてる。
 最後にボクサータイプのパンツを脱いだ。アンダーヘアも二郎よりだいぶ薄く、上になった底辺から4、5cm下に60°くらいの角度になった二等辺三角形になっており、Vラインのムダ毛処理は必要ない程のボリュームである。
「女の身体だよ。」
 また、翔子は思わず言った。
 側の壁に掛けられた姿見のカバーを開き、歌音は身体を確認した。納得した表情で、手鏡を取った。両脚を肩幅より少し広く開きその手鏡をあてた。ヴァギァナが覗けた。
「ちゃんと女体になってる。」
 歌音は目眩に襲われたが、倒れないように踏ん張った。翔子も手鏡の中を確認した。
「ほんとだ。」
 口が閉まりきらないまま、歌音と目を合わせた。
「翔子ちゃん、みんなと相談するね。」
 歌音は言うと、手鏡を自然に手のチカラが抜けて、ゆっくり床に落ちた。同時に、白目を剥いたり、頭が揺れたり、トランス状態に陥った。
 〝二郎、どう思う?〟
 歌音は聞いた。
 〝戸惑ってるよ。バケモノだよ僕は。〟
 二郎は答えた。
 〝良いんじゃないか。1つの身体も6通りになった訳だね。僕らだけでも、パラダイムシフトしないとね、二郎。そもそも、僕らは子宮の中で受精卵になって着床すると、何億年かかけた進化を10ヶ月で済ますんだ。二郎と言う男の人格から女性の人格が解離した訳だよ。そして、僕らは今のところ6人格を保っていて、それぞれ支え合って生きてきた。桃ちゃんが統合された事実はある。でも、5人は統合されないんだ。もしかすると、二郎も含めてみんなが主人格になったんじゃないか。そこで、身体もアポトーシスや蛋白質合成が超急速化して、変態を遂げれるようになったって、理解したらどうだ。そうだなぁ、有名な学者さん達は、パラレルワールドが有るって言うだろ。それは、その世界に行けた人しか分からないよ。科学的に証明された事ではないよな。でも、僕らの身体の変化は、加藤と翔子ちゃんも確認してるんだ。〟
 一文字さんは言った。
 〝俺が代わると5cmは身長が伸びるもんな。〟
 シンジ君は言った。
 〝私はどんな身体かしら、楽しみ。〟
 アヤナミは言った。
 〝俺は身長が低くなりそうな気がする。〟
 佐助は言った。
 〝二郎、大丈夫。受け入れて行かないとね、現実を。〟
 歌音が言い、一文字さんにこの事態を解説、納得された形で6人の会議は終わった。
「ふぅ、一応、みんなで受け入れる事になったわ。二郎がね、少し沈んだかな。」
 トランス状態が収まり、歌音が翔子に言った。
「二郎君、私は受け入れるよ。二郎君、愛してるわよ。」
 翔子は言った。
「ありがとう翔子ちゃん。」
 その後、アヤナミに代わり、歌音との違い、特に、スリーサイズを比較した。アヤナミは、歌音よりバストとヒップが少しだけ大きかった。アヤナミのバストはDよりのCカップだった。
「アヤナミちゃんのサイズのブラジャーが良いわよね。翔子の借りて、UNIQLOに行こう。後は、エステで脱毛しなきゃ。」
 ユキさんが言い、買い物に出かけた。
 後日、加藤の家へ行き、益田刑事も来てもらい、加藤も共に、この『変態』の事を告げた。益田刑事は喜んだ。加藤は、また、『バケモノ』と一言だった。
「二郎君、活動の幅が広がるわ。女性しか入れないところも行けるからね。例えば、トイレ、お風呂、更衣室とか。」
 益田刑事は言った。
「良いなぁ、そんな時は俺も女装しようかな。」
 加藤は言った。
「何言ってんだよ。歌音やアヤナミになると、外の事はあまり見えないんだ。二人が見たり、聞いたりする事が分かるから、なんて言えばいいかなぁ、言葉で表現出来ないな。理解出来てるんだ。」
 二郎はあやふやな説明になった。益田刑事は加藤を睨みつけた。
「加藤君、シンジ君とトレーニングするでしょ。たまに、僕と代わってるの知ってるよね。歌音とアヤナミもイメージの中では出来てると思うんだけど、実際の身体でもやったほうが良いと思うんだ。先ずは、アヤナミと代わっていいかい。」
 僕は加藤に言ってトイレに入った。身体が変わる時間は、1分程しかかからなくなった。着替えて少し経つと完了だ。
「加藤君、宜しく。」
 アヤナミとして、トイレから出て来ると、凛とした姿で加藤に言った。
「嘘、こんなに変わるの。別人ね。」
 流石の益田刑事も驚いた。
「絢子さん、指紋も変わるよ。恐らく、声紋も。」
 アヤナミは自慢げに言った。
「良かったぁ、美人だアヤナミちゃん。」
 加藤は喜んだ。
 加藤と組手をした。チカラが若干、劣るけど、スピード、タイミング、キレは、シンジ君となんら変わらない。
「凄ぇなぁ。充分強い、強いよ。もし、シンジ君がやりたくないなんて言ったら、アヤナミちゃんでもイケるよ。」
 加藤は言った。
「歌音と代わるわ。」
 再び、組手を再開した。
 歌音は合気道や古武術の要素が増えた。弱いチカラで、バッタバッタ、加藤を投げ飛ばした。
「参った。歌音さん。合気道、躰道の要素が出て来るね。俺が苦手なタイプ。」
 加藤は頭を掻きながら言った。
「頼もしい。実に頼もしい。」
 益田刑事はゆっくりした拍手をしながら言った。
「空手だけじゃ足りねぇ。俺、八極拳勉強します。沖縄行って来ます。」
 真面目な顔で加藤は言った。
 加藤が沖縄に修行に行ってる間、僕は刺客の仕事を独りでこなした。ありがたい事に、益田刑事は、女性強盗集団や女性詐欺軍団の壊滅を指示した。まぁ、問題無くこなせたんだけど、歌音とアヤナミには良い経験になった。
 僕が6回生で、国家試験対策を始めた頃に、加藤は帰ってきた。スキルアップは成功したようだ。
「私、警察辞めるわ。」
 突然、僕と加藤に益田刑事は言った。
「一般社団法人は、理事が必要だから、あんた達は理事になってもらうわね。定さん、二郎君が知ってる横井定幸さん。加藤君にも今度紹介するね。その人には監事をお願いしたから。益田防犯研究所を立ち上げます。」
 益田刑事は言った。
「えっ、もう立ち上げたの?」
 加藤は益田刑事に聞いた。
「4月からよ。その頃は二郎君、研修医してると思うけど、大丈夫よね。加藤君は強くなったの?もっともっと強くなりなさいよ。」
 益田刑事は言った。
 僕は、大学を卒業し、医師国家試験に合格した後、研修医となった。在学中に臨床マッチング制度で選出された母校の附属病院で初期臨床研修を受ける事になった。
 最初の6ヶ月は内科で研修した。この時に、僕ら6人のあらゆる検査を秘密裏に実施した。
 先ずは、僕の全身MRIを撮影した。特徴的な部位は、大脳皮質に見られた。前頭葉の中心前回に見られる運動野と頭頂葉の中心後回に見られる感覚野の体積が一般的な人のそれより、1.5倍あるのが分かった。それと、大脳辺縁系を構成する、扁桃体と海馬が1.3倍大きい体積になっていた。
 次に歌音をMRIで撮影した。脳内の違いは、脳梁が太くなってた。これは、一般的にも見られる事で、女性の方が20%太いとされている。驚いたのは、卵巣が無いのだ。。女性器、子宮は見られたが卵巣の形はあるも、中身が無い。すなわち、歌音には、生殖能力が備わってないのだ。
 〝歌音、大丈夫、ショックじゃない。女性として。〟
 僕は聞いた。
 〝うん、大丈夫よ。私達が変化出来る限界なんじゃないかしら。もしも、私が身篭ってしまうと、二郎や一文字さん、シンジ君にも代われなくなるからね。私達に産休、育休は有り得ないのよ。〟
 もしかすると、1、2年くらい歌音で居ると子供が産めるようになるかも知れないと思った。僕が勝手に僕の中から歌音を生み出してしまい、もしも歌音が、歌音としてこの世に生を受けてたら、歌音らしく生きて行かれたろうにと思う次第だった。
 6人に共通して言えるのは、大脳皮質運動野と感覚野の体積の大きさだ。日を改めてfunctional MRIで、その部分の神経細胞活動を調べる事にした。
 結果、歌音が1番に運動野と感覚野の細胞活動の体積が大きく、次にアヤナミ、そして、一文字さん、シンジ君、僕、佐助の順で細胞が活動する体積が小さくなっていた。
 これは、神経細胞が多く活動してる歌音が秀でている訳ではなく、6人が6通りの神経活動パターンがあると考えた。正に、人格が6人明確化していて、それぞれ身体の形、使い方も明確化されたのであろう。
「翔子、凄い結果だよ。」
 僕は、勤務を終え会う約束をしてた翔子に言った。
「二郎君、大丈夫よ。うちに行こう。美味しいの食べよう。」
 沈んでる僕を気遣い、翔子は優しく言ってくれた。
 翔子のマンションに着くと、焼きそばを作ってくれた。とても美味しくて、何もかもを忘れさせてくれる程だ。とても、前向きな気持ちになれた。
「翔子、このデータ見て、何だか罪悪感を抱いてしまったんだけど。これが現実なんだな。」
 僕が冷静になれて、他の5人は静かにしてくれた。それと、ユキと杏も静観してくれた。
「良いんじゃない。私は二郎君に対しての気持ちは変わらないわ。だって、苦しんで、治療して来た私を素直に応援してくれたんだもの。2つの資格が同時に取れたのも二郎君のお陰よ。それと、お母さんも喜んでくれて、今は、放課後デイサービスで子供達のために頑張ってるわ。それなりに考えながら、生き生きしてる。二郎君と出会えたのがきっかけよ。」
 涙目で翔子は言った。
「ありがとう、今、言ってくれた話を忘れないようにするよ。頑張るよ。」
 穏やかな表情で僕は言えた。
 僕は、初期臨床研修の救急医療、地域医療の研修を終え、後期研修に入った。まずは、産婦人科で研修医を務めた。ちなみに、佐助は大喜び。
 過酷な研修だったけど、命の誕生を感動的に受け止められるようになった気がした。両親は殺してしまったけど、それ以降、人を殺めなかった事を五人に感謝した。特に、シンジ君に。
 〝君だから、俺はそうしただけだ。違う奴ならバンバン殺しまくりだったと思うぜ。それだけじゃないさ、俺が思う、俺自身の姿にさせてくれたんだ。これ程嬉しい事はないさ。みんなそう思ってるよ。〟
 シンジ君は言ってくれた。
 〝二郎、あなたに感謝よ。〟
 歌音も言ってくれた。
 一方、捜査一課を退職した益田絢子は、小規模普通法人の一般社団法人を立ち上げた。『益田防犯研究所』である。その研究所の業務内容は、益田が執筆した防犯、特に、暴行からの護身方法を綴った本の出版や演習を交えた護身術の講習会、警視庁から殺人や暴行事件の犯人のプロファイリングの依頼を受ける等、益田自身が遣り甲斐ある仕事を出来る環境を作った。そして、加藤は工事現場の作業員を辞め、社員となり、理事も勤める事になった。僕と翔子も法人の理事になった。
 加藤と僕らは護身術の講師を勤めた。僕は毎回参加出来なかったものの、女性限定の護身術講習を開く時は、前以て連絡が有り、歌音やアヤナミに代わって講師をした。2人は大人気で毎回、大盛況だった。
 また、横井が法人の監事に就任したため、周りからの信用が高い法人となり、なかなか多忙な職場になった。
 その頃僕は、後期研修の精神神経科で学び、研修後、大学院に進み博士号の学位取得を目指すため、研修医をした大学の附属病院の精神神経科へ入局した。
「江戸幕府の初期の頃にね、三代将軍の徳川家光が側近6人を六人衆って呼んだの。二郎君は私にとって六人衆ね。忙しくなると思うけど、宜しくお願いします。」
 益田は丁寧に僕にそう言い、一礼した。
「二郎君格好良いなぁ。俺もなんかないかな益田さ〜ん。あっ、私は、益田さんの右腕であります。」
 忙しいながらも、加藤がそんな冗談が言える和気藹々とした雰囲気の職場であった。
 勿論、加藤と僕らの裏稼業は継続した。しかし、2人だけでやっていくのが限界に近づいたため、新たな人間が3人も加わった。そのため、益田の研究所の仕事、裏の仕事は益々、厚みが出て来た。
 医師になった僕は、益田と同じくらい、巧みで身勝手で、自己中心的な犯罪者が嫌いになった。いつまで続けられるか定かで無いが、一生をかけて、この世から犯罪を減らして生きたいと、日々、考える生活を送るようになっていた。
 殺した後悔は消え失せた。

おわり

ウツボにやられました。(閲覧注意)

2019-12-28 16:32:00 | ひとこと


簡単な仕掛けを作ってイノーの潮溜りで小魚釣って遊ぼうと干潮時間に合われて海に行きました。
釣り上げたらその場で捌いてて、海水で魚を洗ったら、ガブリとウツボにやられてしまいました。



手の前に見える小さな潮溜り何ですが、海底と繋がってたようです。
手袋して魚を持っていたので、指までは持って行かれなかったのが幸いです。






僕は何人も居る。みんなは独りなんだ1-⑨

2019-12-25 18:43:00 | 小説
⑨二足のわらじを履いて行く。
 翔子が目指してる看護師と助産師の国家試験受験日が近づいて来た。寒さが少しだけ和らいで来たが、翔子の張り詰めた緊張感は、弛められないでいた。
 その頃僕は、益田刑事からの招集がかかり、加藤と初めての仕事に取り掛かろうとしていた。僕と翔子は会える日が減り、1日1回程度のLINEのやり取りしか出来ていなかった。しかしながら、翔子が勉強に集中するのに好都合となった。
 加藤との仕事は、ある殺人事件の容疑者の内定だった。その事件とは、大物政治家の政治資金パーティーでコンパニオンとして派遣された女性が、その会場のホテルの中庭で倒れて死亡していた。恐らく、転落死であろと言う事件である。
 当初、自殺も視野に捜査が進められたが、その女性の遺書やその女性が精神疾患、人間関係のトラブル等を抱えてる事実はなかった。また、政治資金パーティーを専門とするコンパニオン。清楚な服装で、誠実な雰囲気を醸し出していたその女性は、これまでに10数回もコンパニオンを務めており、仕事振りが好評で、重宝がられていた。議員と支持者の顔合わせや、議員からの伝言を支持者に伝える等の事を丁寧に出来るコンパニオンであった。名前が五十嵐佳子(いがらしかこ)と言う女性だ。
 この政治資金パーティーを開催したのは、政権与党の代議士で、当選8回、政党の中で2番目に大きな派閥を持つ、保田坂直生(やすださかすなお)議員であった。
 保田坂は、この資金パーティーを開く半年前から、地検に大手ゼネコンからの収賄が疑わられていた。益田刑事は、この収賄疑惑と五十嵐佳子の死に繋がりがあるとみていた。女の勘である。
 五十嵐佳子の遺体の第1発見者は、保田坂の派閥の下層の議員の秘書で斉藤弘(さいとうひろし)だった。斎藤は、ここ2、3日、殆ど睡眠が取れない程のハードな仕事が続いていた。パーティーが始まり、開催した保田坂議員や来賓の挨拶が一段楽つくと会場の直上階、3階の使われてない宴会場のベランダでタバコを吸っていた。何気に下を見下ろすと、女性が倒れてるのを発見し、ホテルの職員にそれを告げ、警察に通報させたと言う事だ。
 第1発見者の斉藤は、勿論、取り調べを受けた。被害者の五十嵐佳子との接点は無く、被害者の衣服から検出された本人以外のDNAと斉藤のDNAは一致しなかった。したがって、容疑者からは外された。しかし、保田坂代議士の派閥は、党内で2番目の大きさで、他の派閥よりも党の役職に就く争いが激しいと言う事を証言した。すなわち、政治家としての地位を確保したい下層の派閥議員たちは、保田坂へ認めてられたく、保田坂からの指示を我先にと争い、受け取っていた。五十嵐佳子がその争いに巻き込まれ、殺された事を匂わせた。
 そこで、捜査一課は、保田坂議員の派閥内のチカラ関係を調べ、疑われてる大手ゼネコンと近い距離の代議士を捜査する方針を示した。
 益田刑事は予測していた。今回の捜査はスムーズに進まない事を。案の定、地検特捜部からの圧力がかかって来た。一課での捜査は停められてしまった。
「保田坂さんは、収賄が疑われてるの。今回は殺人事件だからさ、党内では鎮静化に躍起になってる訳、今が狙い時。あなた達2人にはこの派閥の上層部にいる、堀田八祐(ほったやすけ)とその下、堀田の子分みたいな杉浦光三郎(すぎうらこうざぶろう)の周辺を洗ってみて、この二人ゼネコンと近い人間なの。宜しくね。」
 益田刑事はそう言うと、堀田、杉浦両議員の秘書や後援会会長の顔写真付きの名簿を僕に手渡した。
「益田さん、どんな事すれば良いですか?」
 加藤は聞いた。
「堀田と杉浦の秘書やこの二人についてる若手議員とその秘書達とかが、殺された五十嵐さんと接触があったか、ゼネコンとどう接触してるか、から、先ずは探れば良いわ。」
 アヤナミが僕と代わってそう言った。
「そうか、そうか、今回はまるで刑事ですね俺らは。」
 加藤は笑みを浮かべた。
 先ずは、堀田議員の周辺を探った。その秘書達は、直接ゼネコンとの接触は無かったものの、杉浦議員の秘書を介して、間接的に繋がってる事が分かった。
 次に、杉浦議員の周辺を探った。この大手ゼネコンの二社は、保田坂議員へ迂回献金をし続け、指名競争入札へ参加可能となり、随意契約の締結も多くなった。これらに加え、保田坂議員の政治力強化を目的に、保田坂が指示し、政党上層部の議員へトンネル献金もしていた。言うなれば、杉浦は保田坂とゼネコン2社とのパイプ役を担っており、堀田が杉浦の後方支援をしていた関係性が分かった。
 コンパニオンの五十嵐佳子は、保田坂議員から、トンネル献金をする指示を記したメモ用紙を保田坂の秘書から杉浦の秘書へ渡す役割を担ってた。そのため、五十嵐佳子は友人達にコンパニオンの仕事が嫌になって来たとの愚痴を溢すようになってたようだ。これが、僕と加藤が二人で洗い出した内容である。
 加藤は今回のような案件は、初めてだった。これまでは僕を襲ったような武闘派の仕事ばかり依頼されていた。なので、このような刑事、もしくは、探偵まがいの仕事を張り切って堪能した。時には、スーツ姿。時には、地方の訛りで喋り続けたりと、僕が笑ってしまいそうな事を演じたりした。
「今は、二郎君かアヤナミちゃんか。どっちでもいいか。ここまで調べれば、益田さんも喜ぶだろう。いい仕事出来たな。」
 加藤は満足してた。
「絢子さん喜ぶよ。でも、加藤君の演技は笑いそうになったわ。頑張った、頑張った、加藤君。これからが本番よ、杉浦議員の秘書の中に犯人は居るから。そうだ、カトちゃん、気いぬくなよ。でも、秘書さんの中には、美人も居たね。お近づきになりたいな。」
 僕、歌音、一文字さん、アヤナミ、シンジ君、佐助の順で加藤に言った。
「ん、えっ、全員出やがったか。ガハハ、面しれぇや。」
 加藤は笑った。
「そうだよね。糞政治家達は。こんな構図かぁ。まぁ、こんな事は政治家達の日常だろうけど、人を殺すかぁ。許せないなぁ。」
 僕と加藤が益田刑事と会い、報告すると、鬼の形相で益田刑事そう言った。
「益田さん、落ち着いて。犯人は目星ついてるわ。その人達、どうする。殺す。廃人にする。」
 アヤナミは冷静に言った。
「アヤナミちゃんが特定した犯人は誰なの?」
 益田刑事は聞いた。
「秘書達全員。」
 アヤナミは答えた。
「秘書達を全員生き地獄に葬るのさ。」
 シンジ君が代わって言った。
「そうすると、ゼネコンの連中は、政治家に金をばら撒かなくなると思います。」
 一文字さんも言った。
「三日で仕留めるよ。今回は、カトちゃん無しだな。」
 シンジ君は言った。
「大丈夫なの?危険過ぎない?」
 益田刑事は言った。
「ほんとに、俺無しで良いのかよ。」
 加藤も言った。
「私達一人のほうがやり易いから。大丈夫、簡単よ。」
 アヤナミは言った。
「俺は足手纏いかよ。それにしても変な日本語だな。私達だから、一人じゃないと思うけど、まぁ、分かるけどよ。」
 加藤は言った。
「分かった。任せた。お願いね。」
 益田刑事は言った。
「二郎君達は、仮面ライダーみたいだな。変身して、また、変身してって感じでさ。平成以降の仮面ライダーだよ。」
 加藤は呆れてそう言った。
「そんな事、意識しない。」
 アヤナミは言った。
 確かに、杉浦議員の秘書の一人、沢尻彰夫(ざわしりあきお)が五十嵐佳子を殺害したと分かってた。でも、僕達はそんな政治家、秘書達全員を許せないのが正直な思いで、益田刑事には、〝秘書全員が直接の犯人〟と告げた。益田刑事も同じ思いだと感じて。
 当初、直上階から転落したとされてたが、遺体の状況から、それ以上の高さからの転落と考えていた。実は屋上で口論、もみ合いとなり、沢尻が突き落とす結果となった。屋上には、五十嵐佳子のスーツの袖のボタンを僕らはみつけていた。
 五十嵐佳子は、政治家達のあんな汚い部分には加担したくなかく、沢尻にこんな仕事はしたくないと相談してた。これに、沢尻は告発される危険性を感じ、屋上で五十嵐佳子と会う事になった。沢尻本人は、殺意は無かったため、人を殺めた罪悪感で人格が崩壊し、事件の二日後には、精神病院に強制入院となった。身体を拘束されて、隔離室に入れられた。
 地検特捜部からは、五十嵐佳子と沢尻彰夫は不倫関係にあり、痴話喧嘩をパーティー会場の直上階のベランダでしており、2人が揉み合ってる時に偶然、五十嵐佳子が転落して死亡したと捜査一課に嘘の報告をした。直ちに捜査本部を解散させたかったようだ。保田坂の収賄疑惑を明らかにする事に集中したかった訳だ。
 益田刑事は、その報告を聞くと直ぐに僕に電話して来た。殺していいぞと。
 堀田議員と杉浦議員の秘書は総勢一二人居る。僕は、二日で全員を仕留めた。
 先ず、堀田議員の秘書七人の内、二人は前頭骨を陥没骨折させ、脳挫傷し、失語症と歩行失行の障がいを負わせた。唯一の女性秘書には、腋窩を攻めて、手首と指の動きを司る正中神経と橈骨神経、尺骨神経を断裂させ、手首と指に運動麻痺を負わせた。後の4人には、左右の第五から第七肋骨を折り、それが肺に刺さった。それに加えて、両膝関節の内側半月板と内側側副靱帯、前十字靭帯、アキレス腱を断裂および腱付着部剥離骨折もさせた。この4人は、治療からリハビリデーションを受け、自宅での生活に戻るのに1年近くの入院が必要となった。
 次に、杉浦議員の5人の秘書には、第一頸椎と第二頸椎の環軸関節を脱臼させ四肢麻痺か脳幹、特に、橋を挫傷させ、Totally Looked-in symdoroom(TLS)を負わせるのを狙った。結果、全員をTLSに陥れた。
 日本中がこの事件で持ち切りになった。保田坂議員とその派閥が組織的に不正を行ったとの疑惑が話題となり、重症を負った秘書達は、五十嵐佳子の祟りだの、精神病院に強制入院させられた沢尻が悪魔と契約しただの、令和に年号が変わってからの大事件であるため、和合を図るのに、神が死令を下した等の言われ方をされた。
 保田坂派閥は、党首である総理大臣の安東奈奈助(あんどうななすけ)によって解散させられた。また、この事実は報道規制がかかり、マスコミが公にする事は出来なかった。ただ、保田坂議員が病気療養のため国会議員を辞任したとだけ報道された。国内は震撼し、保田坂とゼネコンとの関係性や五十嵐佳子の殺害事件も国内で口にする者は居なくなった。この隠蔽工作が功を奏し、1ヶ月も経たない内に忘れ去られた。
 僕達は誰にも知られてない、知られる訳にはいかない。でも、僕自身は、自分の存在が悪魔のように感じ、恐怖感さえ覚えた。しかし、こんな僕の情動は、いつも歌音と一文字さんに諭されていた。
 〝私達は、殺す事まではしてないんだから、そんなに二郎が怖がらないでいいと思うわ。人間は誰しも誰かを知らぬ間に傷つけてしまうものよ。私達が仕留めた人達は、私達に悪い行いを知られてしまったのが運の尽きよ。大丈夫、大丈夫。〟
 歌音は、よくこんな言い回しで慰めてくれた。
 〝二郎、人は誕生すると、終わりは必ず死、なんだ。生きてる間が苦しいんだ。それは、1人1人が比較出来ないものなんだ。こんな生き方が辛いとか、これが楽な生き方だなんて無いのさ。各々どう捉えるか、なんだ。〟
 一文字さんは僕がポジティブで居られるようにそう言う。
 2人は僕の守護人格なんだと、いつも思う。もしも、僕が解離してないのなら、僕はそんな考えを持ててたのだろうかと、救われる感覚を抱いてしまう。
「加藤君、僕達の初めての仕事は無事に済んだね。お疲れ様。」
 僕は僕自身を納得させて、加藤にそう言った。
「お前は、凄いな。俺はあそこまで犯人達を傷めつけられないよ。でも、スッキリした気分だ。また一緒の仕事があれば宜しくな。」
 加藤は迷い無くそう言った。
「いやぁ、僕は6人は居るんだから、独りのみんなより、6倍は動けるだけだよ。」
 僕は言った。
「なるほど、俺と2人で仕事した訳じゃなく、7人でした仕事だな。」
 加藤は言った。
 加藤とは何かしら通じ合える関係になっていた。僕が加藤の孤独感を補ってるのだろう。加藤とやって行ける手応えを感じてた。
 こうやって僕は、大学生と益田刑事の刺客として、二足のわらじで人生を歩み始めた。

つづく
(次回は、最終話【Revolution】を投稿します。)

クリスマスイブですね。

2019-12-24 18:28:00 | クリスマス
クリスマスで思い出す事

1.中学3年時、通信簿に「冬休みが終わったら受験です。あなたはこの冬休みをクルシミマスか。」と、ダジャレを書かれた事。

2.幼い時、親父に「クリスマスは何が欲しいか」と聞かれたとき、金属バットと言った事。

3.職場に職員の子供のための保育園が併設されてて、毎年クリスマスには、同僚のひとりがサンタになって行っていた。
 何年後かにそこの保育士さんと同僚が結婚した事。狙ってたらしい。

4.中学1年の時、遠く離れた親戚の家に独りで飛行機に乗って遊びに行くことになった。
 乗客は少なかった。
 CAさんがサンタクロースの格好で記念写真を撮って回ってた。勿論、ポラロイド。思春期真っ盛りの私、ドキドキして綺麗なCAが回って来るのを待っていた。ポラロイドの画像が徐々に見えて来ると、私の顔は、バキバキに緊張して、笑顔になれずにいた。親戚には、黙ってた。

じゃんじゃん、以上❗️