男3人兄弟の末っ子に生まれた僕は、物心付いた時はペチャクチャ喋る兄達を憧れるごく普通の男児だった。一方で、兄達には逆らえなくなった。兄弟喧嘩になると、親からは納得がいかない言葉で強制終了された。『年上の言う事を聞きなさい。』と言う言葉で。
だから僕は、家族の中では奴隷のようになって行った。親から言われた簡単な手伝いは、お前がやれ、お前がやれと、2人の兄達から押し付けられる。とても悔しかったが、世の中は力が強ければ強いほど自分のやりたい事を自由にできるんだと歪んだ思考を持つようになった。
だから僕は、同級生の中では力が1番強くありたかった。勉強も出来る方でありたかった。僕みたいに弱い者は虐めたくなかった。
だから僕は、小学校高学年には、夕焼け番長の座を得た。そして、運動会や遊びで大活躍した。でも、そんな存在になった僕はかなりのプレッシャーを抱えてた。苦手な事もあるし、弱音を吐けなくなった。また、僕に頼ってくる友達が虐められると、その相手に鉄拳制裁を喰らわせた。いつの日か、僕の側には人が寄らなくなった。でも、家の中では兄貴達に歯向かう事は出来なかった。
6年生のある日、僕の後ろを着く同級生数名と歩いてると中2の数名に呼び止められた。ある事が誤解されリンチにあった。羽交い締めにされ、お腹を殴られた。でも痛くはなかった。寧ろ、中2の連中が拳を痛がってた。反撃しようかと思ったが、いつの間にか中2達は10人を超えていた。素手では効かないと分かると、比較的底が厚いハイカットのスニーカーを持ち、狂ったように背中を叩いて来た。血が滲み出るまで。
だから僕はその晩から熱を出して学校を3日休んだ。熱が下り少し痛みが残る身体で登校すると、噂が広がっていた。事実よりも盛られて広がってた。多くの同級生が僕の教室に集まった。男児も女児も。声をかけてくれる子は少なかった。その中に僕が好きな女の子もいた。
「ヒデヨシ大丈夫?中二の一三人にリンチにあって、顔が腫れ上がって大変になってるって聞いたけど。心配だったよ。」
涙目でその子は言ってくれた。とても嬉しかった。僕が好きなこの子は、僕の事を気にかけてくれたんだと思うと僕も涙を堪えた。
「あぁ、背中が真っ黒で左肩も痛いけど、大丈夫だよ。」
僕は頑張ってその子に答えた。それだけしか話す事は出来なかった。この子をあんな悲しい顔にさせたくないとも思った。
だから僕はその後から大人しくした。頼って言い寄ってくる奴らも冷たくあしらった。人と関わるのが怖くなった。おの好きな子にも声をかけようと思わなかなった
僕が好きだった女の子は、同級生の中でマドンナ的な存在だった。誰からも好かれる人気者だった。僕は、これまで力で勢力を保ってた事に気がつくと、情けなく思い、自分が嫌になり余計に周囲に壁を作った。その子からも遠ざかった。
そのマドンナとは中学と高校も一緒だった。中学の時は高校に入るために勉強を独りで頑張った。高校に入ると僕が中2達にやられたリンチの事を知ってる人が少なかったから、部活を頑張った。と言うか、部活に入る勇気が出た。国体にも出られた。
一度、その子が僕の試合の応援に来てくれた。彼氏と2人で。その子の彼氏はいい奴だった。お似合いのカップルだと誰からも認められてた。だから僕はその子の彼氏と話しをする事が出来た。その試合は圧勝した。その子は笑顔で拍手してくれた。ほっとした。あの時の悲しそうな顔ではなかった。忘れられない大好きな笑顔だった。
でも僕は部活を辞めてしまった。高2の冬に髄膜炎で2週間入院した。どうやって病院に運ばれたのか。僕が高校生である事。これまでどうやって生きてきたのか、記憶がなくなっていた。僕は柵に囲まれたベッドで生きている生き物だと認識してた。あの子も僕の中から消えていた。
だから僕は退院して新しい年を迎えてから高校に通えるようになった。すると、大混乱した。声をかけてくれる同級生や先輩、後輩の顔は分かるが名前が出て来ない。とても混乱した。その日はとても疲れた。怖かった。国体に出るために頑張って、こんな怖い思いをするのが嫌になった。だから僕は部活を辞めた。
高校を卒業して、専門学校に通い、そして、社会人になった。働いて給料をもらって、美味しい酒、美味しい料理を呑んで食べた。嬉しかった。
だから僕は働く事を頑張った。誰よりも頑張った。するとある日、眠れ無くなった。焼酎を一升呑んでも眠れなかった。そして、働く事が出来なくなった。仕事を辞めた。休んだ。
一年後、違う形で仕事を始めた。でも、前のように沢山働く事は出来なくなった。美味しい酒、美味しい料理が食べられる機会が減った。身体は楽になった。眠る事も出来るようになった。
だから僕は、あの子の事を思い出した。高校卒業して以来、会った事もないあの子の事を。すると、時折、夢に出て来てくれる。笑顔で出て来てくれる。特に、話しはしないけど、僕の側で笑顔で居てくれる。僕が顔を向けると、笑顔で相づちしてくれる。僕が試合で頑張ったあの日のように。
だから僕は、目が覚めると楽しい気分になってる。そんな日が特別な日になる訳でもない。起きた瞬間だけ楽しい気分で居られる。ありがとう。
おわり
短編なのに
凄く複雑な話しだと感じた!!
ハッキリ言えば・・・本当にごめん!!
遺書・・・・