K.H 24

好きな事を綴ります

僕は何人も居る。みんなは独りなんだ1-⑨

2019-12-25 18:43:00 | 小説
⑨二足のわらじを履いて行く。
 翔子が目指してる看護師と助産師の国家試験受験日が近づいて来た。寒さが少しだけ和らいで来たが、翔子の張り詰めた緊張感は、弛められないでいた。
 その頃僕は、益田刑事からの招集がかかり、加藤と初めての仕事に取り掛かろうとしていた。僕と翔子は会える日が減り、1日1回程度のLINEのやり取りしか出来ていなかった。しかしながら、翔子が勉強に集中するのに好都合となった。
 加藤との仕事は、ある殺人事件の容疑者の内定だった。その事件とは、大物政治家の政治資金パーティーでコンパニオンとして派遣された女性が、その会場のホテルの中庭で倒れて死亡していた。恐らく、転落死であろと言う事件である。
 当初、自殺も視野に捜査が進められたが、その女性の遺書やその女性が精神疾患、人間関係のトラブル等を抱えてる事実はなかった。また、政治資金パーティーを専門とするコンパニオン。清楚な服装で、誠実な雰囲気を醸し出していたその女性は、これまでに10数回もコンパニオンを務めており、仕事振りが好評で、重宝がられていた。議員と支持者の顔合わせや、議員からの伝言を支持者に伝える等の事を丁寧に出来るコンパニオンであった。名前が五十嵐佳子(いがらしかこ)と言う女性だ。
 この政治資金パーティーを開催したのは、政権与党の代議士で、当選8回、政党の中で2番目に大きな派閥を持つ、保田坂直生(やすださかすなお)議員であった。
 保田坂は、この資金パーティーを開く半年前から、地検に大手ゼネコンからの収賄が疑わられていた。益田刑事は、この収賄疑惑と五十嵐佳子の死に繋がりがあるとみていた。女の勘である。
 五十嵐佳子の遺体の第1発見者は、保田坂の派閥の下層の議員の秘書で斉藤弘(さいとうひろし)だった。斎藤は、ここ2、3日、殆ど睡眠が取れない程のハードな仕事が続いていた。パーティーが始まり、開催した保田坂議員や来賓の挨拶が一段楽つくと会場の直上階、3階の使われてない宴会場のベランダでタバコを吸っていた。何気に下を見下ろすと、女性が倒れてるのを発見し、ホテルの職員にそれを告げ、警察に通報させたと言う事だ。
 第1発見者の斉藤は、勿論、取り調べを受けた。被害者の五十嵐佳子との接点は無く、被害者の衣服から検出された本人以外のDNAと斉藤のDNAは一致しなかった。したがって、容疑者からは外された。しかし、保田坂代議士の派閥は、党内で2番目の大きさで、他の派閥よりも党の役職に就く争いが激しいと言う事を証言した。すなわち、政治家としての地位を確保したい下層の派閥議員たちは、保田坂へ認めてられたく、保田坂からの指示を我先にと争い、受け取っていた。五十嵐佳子がその争いに巻き込まれ、殺された事を匂わせた。
 そこで、捜査一課は、保田坂議員の派閥内のチカラ関係を調べ、疑われてる大手ゼネコンと近い距離の代議士を捜査する方針を示した。
 益田刑事は予測していた。今回の捜査はスムーズに進まない事を。案の定、地検特捜部からの圧力がかかって来た。一課での捜査は停められてしまった。
「保田坂さんは、収賄が疑われてるの。今回は殺人事件だからさ、党内では鎮静化に躍起になってる訳、今が狙い時。あなた達2人にはこの派閥の上層部にいる、堀田八祐(ほったやすけ)とその下、堀田の子分みたいな杉浦光三郎(すぎうらこうざぶろう)の周辺を洗ってみて、この二人ゼネコンと近い人間なの。宜しくね。」
 益田刑事はそう言うと、堀田、杉浦両議員の秘書や後援会会長の顔写真付きの名簿を僕に手渡した。
「益田さん、どんな事すれば良いですか?」
 加藤は聞いた。
「堀田と杉浦の秘書やこの二人についてる若手議員とその秘書達とかが、殺された五十嵐さんと接触があったか、ゼネコンとどう接触してるか、から、先ずは探れば良いわ。」
 アヤナミが僕と代わってそう言った。
「そうか、そうか、今回はまるで刑事ですね俺らは。」
 加藤は笑みを浮かべた。
 先ずは、堀田議員の周辺を探った。その秘書達は、直接ゼネコンとの接触は無かったものの、杉浦議員の秘書を介して、間接的に繋がってる事が分かった。
 次に、杉浦議員の周辺を探った。この大手ゼネコンの二社は、保田坂議員へ迂回献金をし続け、指名競争入札へ参加可能となり、随意契約の締結も多くなった。これらに加え、保田坂議員の政治力強化を目的に、保田坂が指示し、政党上層部の議員へトンネル献金もしていた。言うなれば、杉浦は保田坂とゼネコン2社とのパイプ役を担っており、堀田が杉浦の後方支援をしていた関係性が分かった。
 コンパニオンの五十嵐佳子は、保田坂議員から、トンネル献金をする指示を記したメモ用紙を保田坂の秘書から杉浦の秘書へ渡す役割を担ってた。そのため、五十嵐佳子は友人達にコンパニオンの仕事が嫌になって来たとの愚痴を溢すようになってたようだ。これが、僕と加藤が二人で洗い出した内容である。
 加藤は今回のような案件は、初めてだった。これまでは僕を襲ったような武闘派の仕事ばかり依頼されていた。なので、このような刑事、もしくは、探偵まがいの仕事を張り切って堪能した。時には、スーツ姿。時には、地方の訛りで喋り続けたりと、僕が笑ってしまいそうな事を演じたりした。
「今は、二郎君かアヤナミちゃんか。どっちでもいいか。ここまで調べれば、益田さんも喜ぶだろう。いい仕事出来たな。」
 加藤は満足してた。
「絢子さん喜ぶよ。でも、加藤君の演技は笑いそうになったわ。頑張った、頑張った、加藤君。これからが本番よ、杉浦議員の秘書の中に犯人は居るから。そうだ、カトちゃん、気いぬくなよ。でも、秘書さんの中には、美人も居たね。お近づきになりたいな。」
 僕、歌音、一文字さん、アヤナミ、シンジ君、佐助の順で加藤に言った。
「ん、えっ、全員出やがったか。ガハハ、面しれぇや。」
 加藤は笑った。
「そうだよね。糞政治家達は。こんな構図かぁ。まぁ、こんな事は政治家達の日常だろうけど、人を殺すかぁ。許せないなぁ。」
 僕と加藤が益田刑事と会い、報告すると、鬼の形相で益田刑事そう言った。
「益田さん、落ち着いて。犯人は目星ついてるわ。その人達、どうする。殺す。廃人にする。」
 アヤナミは冷静に言った。
「アヤナミちゃんが特定した犯人は誰なの?」
 益田刑事は聞いた。
「秘書達全員。」
 アヤナミは答えた。
「秘書達を全員生き地獄に葬るのさ。」
 シンジ君が代わって言った。
「そうすると、ゼネコンの連中は、政治家に金をばら撒かなくなると思います。」
 一文字さんも言った。
「三日で仕留めるよ。今回は、カトちゃん無しだな。」
 シンジ君は言った。
「大丈夫なの?危険過ぎない?」
 益田刑事は言った。
「ほんとに、俺無しで良いのかよ。」
 加藤も言った。
「私達一人のほうがやり易いから。大丈夫、簡単よ。」
 アヤナミは言った。
「俺は足手纏いかよ。それにしても変な日本語だな。私達だから、一人じゃないと思うけど、まぁ、分かるけどよ。」
 加藤は言った。
「分かった。任せた。お願いね。」
 益田刑事は言った。
「二郎君達は、仮面ライダーみたいだな。変身して、また、変身してって感じでさ。平成以降の仮面ライダーだよ。」
 加藤は呆れてそう言った。
「そんな事、意識しない。」
 アヤナミは言った。
 確かに、杉浦議員の秘書の一人、沢尻彰夫(ざわしりあきお)が五十嵐佳子を殺害したと分かってた。でも、僕達はそんな政治家、秘書達全員を許せないのが正直な思いで、益田刑事には、〝秘書全員が直接の犯人〟と告げた。益田刑事も同じ思いだと感じて。
 当初、直上階から転落したとされてたが、遺体の状況から、それ以上の高さからの転落と考えていた。実は屋上で口論、もみ合いとなり、沢尻が突き落とす結果となった。屋上には、五十嵐佳子のスーツの袖のボタンを僕らはみつけていた。
 五十嵐佳子は、政治家達のあんな汚い部分には加担したくなかく、沢尻にこんな仕事はしたくないと相談してた。これに、沢尻は告発される危険性を感じ、屋上で五十嵐佳子と会う事になった。沢尻本人は、殺意は無かったため、人を殺めた罪悪感で人格が崩壊し、事件の二日後には、精神病院に強制入院となった。身体を拘束されて、隔離室に入れられた。
 地検特捜部からは、五十嵐佳子と沢尻彰夫は不倫関係にあり、痴話喧嘩をパーティー会場の直上階のベランダでしており、2人が揉み合ってる時に偶然、五十嵐佳子が転落して死亡したと捜査一課に嘘の報告をした。直ちに捜査本部を解散させたかったようだ。保田坂の収賄疑惑を明らかにする事に集中したかった訳だ。
 益田刑事は、その報告を聞くと直ぐに僕に電話して来た。殺していいぞと。
 堀田議員と杉浦議員の秘書は総勢一二人居る。僕は、二日で全員を仕留めた。
 先ず、堀田議員の秘書七人の内、二人は前頭骨を陥没骨折させ、脳挫傷し、失語症と歩行失行の障がいを負わせた。唯一の女性秘書には、腋窩を攻めて、手首と指の動きを司る正中神経と橈骨神経、尺骨神経を断裂させ、手首と指に運動麻痺を負わせた。後の4人には、左右の第五から第七肋骨を折り、それが肺に刺さった。それに加えて、両膝関節の内側半月板と内側側副靱帯、前十字靭帯、アキレス腱を断裂および腱付着部剥離骨折もさせた。この4人は、治療からリハビリデーションを受け、自宅での生活に戻るのに1年近くの入院が必要となった。
 次に、杉浦議員の5人の秘書には、第一頸椎と第二頸椎の環軸関節を脱臼させ四肢麻痺か脳幹、特に、橋を挫傷させ、Totally Looked-in symdoroom(TLS)を負わせるのを狙った。結果、全員をTLSに陥れた。
 日本中がこの事件で持ち切りになった。保田坂議員とその派閥が組織的に不正を行ったとの疑惑が話題となり、重症を負った秘書達は、五十嵐佳子の祟りだの、精神病院に強制入院させられた沢尻が悪魔と契約しただの、令和に年号が変わってからの大事件であるため、和合を図るのに、神が死令を下した等の言われ方をされた。
 保田坂派閥は、党首である総理大臣の安東奈奈助(あんどうななすけ)によって解散させられた。また、この事実は報道規制がかかり、マスコミが公にする事は出来なかった。ただ、保田坂議員が病気療養のため国会議員を辞任したとだけ報道された。国内は震撼し、保田坂とゼネコンとの関係性や五十嵐佳子の殺害事件も国内で口にする者は居なくなった。この隠蔽工作が功を奏し、1ヶ月も経たない内に忘れ去られた。
 僕達は誰にも知られてない、知られる訳にはいかない。でも、僕自身は、自分の存在が悪魔のように感じ、恐怖感さえ覚えた。しかし、こんな僕の情動は、いつも歌音と一文字さんに諭されていた。
 〝私達は、殺す事まではしてないんだから、そんなに二郎が怖がらないでいいと思うわ。人間は誰しも誰かを知らぬ間に傷つけてしまうものよ。私達が仕留めた人達は、私達に悪い行いを知られてしまったのが運の尽きよ。大丈夫、大丈夫。〟
 歌音は、よくこんな言い回しで慰めてくれた。
 〝二郎、人は誕生すると、終わりは必ず死、なんだ。生きてる間が苦しいんだ。それは、1人1人が比較出来ないものなんだ。こんな生き方が辛いとか、これが楽な生き方だなんて無いのさ。各々どう捉えるか、なんだ。〟
 一文字さんは僕がポジティブで居られるようにそう言う。
 2人は僕の守護人格なんだと、いつも思う。もしも、僕が解離してないのなら、僕はそんな考えを持ててたのだろうかと、救われる感覚を抱いてしまう。
「加藤君、僕達の初めての仕事は無事に済んだね。お疲れ様。」
 僕は僕自身を納得させて、加藤にそう言った。
「お前は、凄いな。俺はあそこまで犯人達を傷めつけられないよ。でも、スッキリした気分だ。また一緒の仕事があれば宜しくな。」
 加藤は迷い無くそう言った。
「いやぁ、僕は6人は居るんだから、独りのみんなより、6倍は動けるだけだよ。」
 僕は言った。
「なるほど、俺と2人で仕事した訳じゃなく、7人でした仕事だな。」
 加藤は言った。
 加藤とは何かしら通じ合える関係になっていた。僕が加藤の孤独感を補ってるのだろう。加藤とやって行ける手応えを感じてた。
 こうやって僕は、大学生と益田刑事の刺客として、二足のわらじで人生を歩み始めた。

つづく
(次回は、最終話【Revolution】を投稿します。)


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