地元の接骨院

地元に、聴覚障害者たちに評判がよい接骨院がある。
院長先生をはじめ、スタッフのみなさん、嫌な顔ひとつせず、筆談に応じてくれる。
身振り手振り、どうすれば耳の不自由な患者さんに伝わるか、しっかりと考えて対応してくれる。
口コミで、ろう者の患者さんが増え続けている。

ろう者の患者さんが多い、ということは、手話通訳者が派遣されることも多くなる。
俺もその一人。
院長先生とはすっかり顔なじみである。

ろう者のＦさんは、腰に持病がある。
そのため、この接骨院に通っているが、いつも俺を指名して手話通訳者派遣申込をしている。
何回も通っているから、接骨院の人たちとはすっかり顔なじみ。
院長先生もスタッフもとても親切だし、治療そのものは毎回ほぼ同じで、特別なことがなければ、手話通訳者がいなくても支障ないと思う。
それでも、必ず、手話通訳者派遣申込をする。

なぜだろうか・・・

やはり、第一に、手話通訳者がいる安心感だと思う。
手話通訳者がいなくても、治療そのものは問題ないだろうが、院長先生や他のスタッフさんと、ごく普通の会話をする。これも大切なことだ。
Ｆさんはスタッフさんたちに積極的に話しかける。
もしかして、ここに手話通訳者がいなかったら、Ｆさんはスタッフに話しかけることをしないかもしれない。
親切な人ばかりとはいえ、治療に関係ないことで筆談を頼むのは気がひける。

そして、もう一つ。
ろう協の活動をしている人とか、ろう者同士で積極的に交流している人なら問題ないかもしれないが、Ｆさんのように人づきあいが苦手で、ろう協にも入らず、近くにろう者の友人もいないような人は、会話に飢えているのではなかろうか。
相手の手話通訳者が、楽しく雑談できるような人なら、もしかしたら、通訳そのものよりも、通訳者との会話を楽しむ時間が、ご本人にとって大切なのかもしれない。

やはり、いつでも、どこでも、どんな内容でも、手話通訳者派遣申込ができる社会を実現すべきだと思う。