2023 年 2 月 21 日付「大阪市立小学校元校長久保敬さんの文書訓告取消を求める要請書」に 対する 3 月 20 日付回答にかかわる「協議」に向けた質問
私たちガッツせんべい応援団が 2 月 21 日に提出した教育長あて「大阪市立小学校元校長久保敬さんの文書 訓告取消を求める要請書」への回答を 3 月 20 日に受取りました。回答は「当該事案に関わる事実関係を確認 したうえで、関係法令に基づき慎重に検討した結果、文書訓告とするのが妥当であると判断したところであり、 取り消す考えはございません。」というもので、「文書訓告とするのが妥当であると判断した」具体的根拠は 何も示されていません。私たちは、要請書に、2023 年 2 月 21 日付で大阪弁護士会に提出された久保敬さんの人権侵害救済 申立書と大阪公立大学准教授辻野けんまさんの意見書をつけていました。その2つの文書には、文書訓告を取 り消すべき根拠が書かれています。それらがどう検討され、どう判断されたのかが示されなければなりません。
私たちは、3 月 20 日に回答を受けてすぐに、大阪市教育委員会総務部総務課広聴担当に、回答についての 説明を受ける「協議」の場の設定を求めました。3 月 31 日の時点で、まだ協議の日時は決まっていませんが、 近々確定するものと思います。「協議」の場でお聞きしたい事項について事前に提出しておきますので、「協議」の場できちんと説明いただくようお願いいたします。
【要請書受け取りから回答に至る経過について】
私たちが 2 月 21 日に要請書を提出してから、3 月 20 日に回答を受け取るまでの検討の経過とその内容に ついて教えてください。
【確認を求めたいこと】
私たちは、久保敬さんの文書訓告について、以下の(1)~(3)のことが明らかになっていると認識してい ますが、まちがいありませんか。
(1)文書訓告の理由について(2021.11.16 大阪市会陳情書から)
a.意見表明を行った行為そのものに対して文書訓告をしたものではなく、「提言」の内容を問題にしたものであ る。
b.文書訓告は、地方公務員法第 33 条(信用失墜行為の禁止)「職員は、その職の信用を傷つけ、または職員 の職全体の不名誉となるような行為をしてはならない」違反を理由としている。
c.具体的には、「子どもの安心・安全に関する教育委員会の対応に懸念を生じさせたこと、緊急事態宣言中の学 校運営に関する通知に基づき尽力する関係教職員らの努力を蔑ろにしたこと、児童・生徒を商品に例え不適切 な表現をしたこと、(それにより)日々業務に励む関係教職員らの努力を蔑ろにしたこと、提言を拡散させた こと」が信用失墜行為に該当するとの判断による。
(2)久保敬さんが信用失墜行為を行ったとの判断について(2021 年 12 月 1 日大阪市会教育こども委員会 上田教育委員会事務局教務部教職員服務・監察担当課長答弁 議事録から) 信用失墜行為に該当するかどうかについては、一般的な基準は立て難く、健全な社会通念に基づいて個々の場 合について判断することとなると広く理解されている。当該事案については、教育委員会において事実関係を 確認した上で慎重に検討した結果、信用失墜行為に該当すると判断した。
(3)文書訓告という措置の理解について(2021 年 12 月 1 日大阪市会教育こども委員会米倉人事室人事課 長答弁 議事録から)
文書訓告については、地方公務員法第 29 条に基づく懲戒処分に科する程度に至らない軽易な非違行為に対し て、文書をもって将来を戒める措置で、行政処分ではないものの、懲戒処分に準じて取り扱うべきものである。 一般的に懲戒処分等の行政処分は、処分庁において自由に取り消し得るものではなく、事実認定に重大な誤認 があるなど、当該処分に一定の瑕疵がある場合に限って取り消し得るものであるとされている。
【見解を求めたいこと】
久保敬さんの人権侵害救済申立書と辻野けんまさんの意見書に記載されている以下の主張に対する見解を示 してください。なお、以下の主張に対する見解は、これまでのように「関係法令に基づき慎重に検討した結果」 といった形式的応答に終始することなく、どの法令を参照したのかなど、具体的な論拠を示すようにしてくだ さい。
<久保敬さん人権侵害救済申立書から>
(1) 人権侵害救済申立に至る経過について ⇒その後(文書訓告を受けた後)、文書訓告撤回の陳情が出されたことにより、市議会でもこの問題が論議さ れ、「重大な事実誤認等があれば、文書訓告でも取り消しが可能」との人事室の答弁があったことを知り、 2022 年 1 月 24 日付で、山本晋次教育長に対して、文書訓告取り消しを求める要望書(資料 3)を提出しま した。しかし、それに対する直接の回答は、口頭でも文書でもいただくことなく、今に至っております。
◆関連質問
久保敬さんの 2022 年 1 月 24 日付文書訓告取り消しを求める要望書に対して回答していないのはなぜですか。
(2)「文書訓告」中の「教育員会の対応について、その決定過程や他校の状況等を斟酌することなく、独自の 意見に基づき、」について ⇒このような社会の反応(※)を考えた時、「独自の意見」と断じ、「信用失墜行為があった」と結論付けた教育委員会の決定に納得することはできません。事実を曲解した教育委員会による根拠のない勝手な判断であ ると言わざるを得ません。
※退職教員有志による 3000 人弱の「提言書」に賛同する署名 、自由法曹団大阪支部、民主法律協会、子どもの権利・NGO 大阪、NPO 法人労働と人権サポートセンター・大阪をはじめ、様々な市民団体等からの異 議を申し立てる「要望書」、名田正廣大阪市立港中学校長の 255 人の教員、保護者、市民の意見書を添えた賛同の意を示す提言、オンライン授業による変則登校という教育委員会の対応が問題であったことを指摘する声 が多く寄せられた保護者等の団体や自由民主党・市民クラブ大阪市議団が行ったアンケート調査結果、文書訓 告後の様々な市民団体などからの「文書訓告処分撤回」の要望書、文書訓告を公表した大阪市ホームページに 寄せられた 180 通の処分の不当性を訴えた抗議メール
◆関連質問
1 寄せられたこのような多くの声をどう受けめていますか。
2 「信用失墜行為だ」「処分すべきだ」という市民等からの要望書や意見書が教育委員会にどれほど寄せら れていましたか。
(3)「文書訓告」理由の「提言を拡散させたこと」について⇒インターネット上で広がったとしても、守秘義務に反するようなことを述べたわけではありません。提言書の内容はむしろ広く社会に知ってほしい一校長の声でもあります。そもそも自由に意見を述べることは、憲法 で保障された基本的人権であり、独自の意見を述べたという理由で処分を受けるのであれは、私個人の問題で はなく、すべての人に関わる人権侵害として、看過できない問題だと考えます。 <辻野けんまさん意見書から>
(4)久保氏が、実際には市の方針に反することなく学校教育に尽力しつつ、教育現場の最前線を預かる校長と しての知見から提言書で意見を表明したこと(※)の何が問題なのでしょうか。そもそも、提言書に先立って 何度も教育行政や一般行政に意見具申が本人からなされてきたのであり、それに対する意味ある応答が何らな されてこなかったことは問題ではないのでしょうか。提言書は、市長と教育長の双方へ送られており、手続き としても妥当なものでした。
※「大阪市教育委員会第 12 回教育委員会会議議事録」では、久保氏が提言書を突然送付したのではなく、以前から複数の方法で教育行政や一般行政とのやりとりを試みてきたことが確認されています。くわえて、実際の 学校運営では市の方針をふまえて行われており、提言書はあくまでも意見として表明されたものであることも 確認されています。
(5)久保氏の提言は、守秘義務に反したり信用失墜行為にあたるようなものではありえません。それどころか、 学校が真摯に子どもの教育に向き合う状況を社会に伝えるものとなり、子どもが育つ学校のあり方を社会全体 で考える機会を提供しました。それまでの行政上の応答責任を問わずに、意見を表明した校長が訓告に処され たことは、著しく正当性を欠き、このことこそが教育行政への信頼を失墜させているのではないでしょうか。
(6)2022 年1月 24 日に久保氏は教育長宛に訓告の取り消しを求める文書を送付していますが、それに対する 応答は今日に至るまでなされていません。教育行政の応答責任は問われなくて良いのでしょうか。久保氏の 「人権侵害救済申立書」にあるように、訓告には異議申し立ての機会が与えられないとする教育委員会の対応 も、常軌を逸しています。
(7)訓告に示されている事由は、久保氏の提言書についての大阪市教育委員会の解釈が述べられていますが、 それは文意全体をふまえない処分ありきの曲解となっています。...コロナ禍では社会全体が混乱を極め、そう した葛藤が先鋭化しました。久保氏の提言書は、休校と学校再開による深刻な影響が出たパンデミック 1 年目 の経験をふまえて出されたものでした。そのような学校現場の専門的な判断がないがしろにされ、それどころ か逆に、意見を表明すること自体が処分対象になってしまう事態ならば、もはや教育の行政という名に値しな い(※)のではないでしょうか。
※元来、教育委員会制度は、民衆統制と専門的リーダーシップの調和に拠って立ち、政治的党派性からも距離をおいた教育行政の相対的な自律性が与えられた行政委員会とされています。首長や地方議会、学校現場の教 職員、市民などの間で教育をめぐる葛藤が顕在化した場合こそ、教育委員会はその自律性を発揮することが求 められます。
◆関連質問 「文書訓告」中の「子どもの安心・安全に関する教育委員会の対応に懸念を生じさせたこと、緊急事態宣言中 の学校運営に関する通知に基づき尽力する関係教職員らの努力を蔑ろにしたこと」「児童・生徒を商品に例え 不適切な表現をしたこと、(それにより)日々業務に励む関係教職員らの努力を蔑ろにしたこと」について、 私たちが理解できるように説明してください。
(8)久保氏の提言書はインターネットを通じて世界の教育学者にも読まれるところとなりました。訓告への問 題意識が、アメリカ、ドイツ、インドネシア、キプロス、キューバ、ブルガリアの教育学者にも共有され、上 述のメッセージ動画で実名を挙げてメッセージが寄せられました。この動画がインターネットで公開されてい るのは、久保氏の 37 年間にわたる教職人生が訓告をもって閉じられる不条理に抗するためですが、それと同時 に、教職離れをますます深刻化させ将来に禍根を残すことを看過できないためです。なお、2022 年 5 月 14 日に は上記の海外研究者らにさらに 2 名が加わる形で久保氏への感謝状が贈呈されました。世界的にも表彰に値す る功績が、教育行政からは罰せられるという現実は皮肉なものです。
(9)提言書から今回の「人権侵害救済申立書」に至るまで、久保氏は自身の権利侵害よりも子どもの発達環境 への侵害を問題にしてきました。提言書を出すという行為は、校長にとってはリスクなのであり、それをあえ て退職年に行ったのは、後世に禍根を残すような教育を看過できなかったからに他なりません。自律的な人間 を育てる学校は、みずからが自律的でなければならないはずです。管理されただけの学校であれば、子どもの 自律への教育を期待することはできないでしょう。
(10)教育行政といえどもときに誤りを犯してしまうことはありえます。重要なのは、誤りを素直に認め、軌 道修正する姿勢を示すことです。...教育委員会の民衆統制と専門的リーダーシップの調和が機能しているのか を自省され、今回の訓告という誤った決定がなぜ審議の途上で是正されなかったのかが熟慮され、今後の教育 行政に生かされてほしいと願っています。
(11)制度や文化を異にする外国からも共感を集めたのは、提言書による問題提起がローカルな問題にとどま らず、グローバルな問題でもあったからです。世界の教育が、競争主義や成果主義の政治に晒される中で、学 校現場を預かる専門職として「何のため/誰のための教育か?」という根源的な問いを世界に惹起した功績は 特筆されるべきです。世界から共感を集める教育者を大阪市の公立学校が擁してきたことは、実は誇るべきこ となのです。そうであるならば、教育行政が軌道修正し子どもの教育を正常化させる姿勢も、世界に示してほ しいと願うところです。教育委員会が君子豹変の姿勢をもって信頼回復に努めることは、学校はもとより、教 育行政の内部で日々奮闘している心ある職員にとっても、大いに励みとなるはずです。
以上