日本の最果て、北海道の利尻へ行ってきた。
実は昨年秋から我が社の山岳部に加入させてもらっているのだが、それも全てこの利尻遠征の話があったから。
当初は国内でも「最難」と言われる南稜が目標だったが、いろいろ検討した結果、バリエーションの一つである東北稜へ。
日程:2015年4月29日(水)~5月5日(火)
メンバー:坂本(L)、伊藤(トクちゃん)、松浦(まっちゃん)、私
一日目(4/29)
羽田集合、まっちゃんが若干寝坊するも(笑)四人揃って一路、稚内へ。
国内の山へ行くのに飛行機を使う機会もそうそう無く、まさに遠征といった感じだ。
20kg近い大型ザックを機内に預け、2時間弱の空の旅。
ちなみに今回のメンバーはリーダーが30代半ば、あとの二人はもっと若くて私の息子とほぼ同じ年齢。
経験はさすがに長老である私が持っているが、体力差は歴然としている。
そのため私はブレーキにならないよう極力軽量化に努め、ザックも15kg以内に納めた。
飛行機からは途中、鳥海山や八幡平など雪を頂いた東北の山々が眼下に見えた。
稚内からはフェリーで利尻島へ。
初めて見る洋上の孤高の峰はやはり崇高なイメージだった。
上陸後、リーダーのてきぱきとした手配で、タクシー確保、警察への登山届提出、食料買い出しを一気に済ませ、登山口のアフトロマナイ沢へ向かう。
これまでの記録ではタクシーで林道をかなり上まで上がっているものもあったが、やや悪路のため客4人と荷物を満載していて無理。
少し入った所で車を降り、そこから歩いて標高100m付近にテント泊とする。
利尻は北海道でありながらヒグマがいないので助かる。(シカやキツネもいない感じ)
二日目(4/30)
朝食後、出発。少し歩くと雪が出てくる。
一時間ちょっと歩き、林道が大きく右に曲がる所から右手のアフトロマナイ沢(大きな涸れ沢となっている)を横切り、右手の尾根に取り付く。
このGWは日本全国、雪が少なめのようで(奥穂などノーアイゼンで行けたとか!)、ここ利尻も例外ではなく予想以上の軟雪とブッシュとなる。
だが、標高700mぐらいまで上がった所でいきなり利尻の洗礼!南東方向から物凄い強風が吹き始める。
利尻は独立峰で、さらにこの日は低気圧の通過があり、ある程度は覚悟していたのだが、身体ごと倒され、まともに歩けない。
後日、町の人に聞いたらこの時の下界の風速は18m/s。標高700mではおそらく20~25m/sはあっただろう。
ちなみに台風の定義は17m/s~で、この時の風は荒れた冬富士と同等に感じた。恐るべし!利尻の風。
それでも自然にできた雪洞に避難し様子を窺いながら、風の合間をぬって匍匐前進のようにして高度を上げていく。
自分だったらこの辺りで本日の行動を打ち切りにしていたが、坂本リーダーは実に積極的である。
大抵の記録で利用されている標高1,003mピークのテン場は風の通り道で無理。さらに進む。
その先、細いスノーリッジ、ブッシュ混じりのトラバースなどをこなしていくが、若いトクちゃん、まっちゃんの圧倒的なパワー、際どいながら絶妙なコース取りで越えていき、この日は標高1,400m付近の三本槍まで。
岩頭の脇に良い窪地が見つかり、そこを掘り下げてテントを張る。
夕方には風が一旦納まり、頭上には利尻の雪稜、眼下には微かに弧を描きながら大海原が広がる。本州の山ではなかなか味わえないロケーションだ。
でも夜になってまた凶暴な風が吹き荒れだし、テントが大きく揺さぶられる。はたして明日はどうなるやら。
三日目(5/1)
昨夜は再び強風でテントが吹き飛ばされそうな一夜だったが、何とか無事に朝を迎える。
夕暮れのようなぼんやりした日の出を迎え、本日はいよいよ頂上アタックである。
細いスノーリッジを越えていくと、「門」と呼ばれるこのルートの核心部に突き当たる。
二つの岩頭の間の凹角を登っていくのだが、雪は付いてなく脆い岩と土混じりのピッチ。
一応ロープを出し、トクちゃんが大きなザックを背負ったまま、リードで越える。
しかし越えた所で反対側にクライムダウンし、際どいトラバースを強いられたようで、残りの三人はトクちゃんの指示で凹角を登り切ったらそのままリッジ通しに進んだ。
「門」を越えると巨大なローソク岩が近づいてくる。本州の山ではなかなかお目にかかれない利尻ならでは特異な風景である。
ローソク岩の裾を左から巻き、登り切った少し先が懸垂下降のポイント。
雪が多いとここをスコップで掘り起し、支点となる灌木を見つけるらしいが、今回は完全にブッシュが出ており、また中途半端な形で残置ロープが残されていた。
以前の記録で懸垂後にロープが回収できず、やむなく切断したというのがあり、おそらくそのパーティーのものと思われる。
確かに良い位置にセットしないとブッシュがうるさく、ロープのコブが引っ掛かって回収不能となる恐れあり。
右側の谷に25mほど降り、あとは頂上まできつい傾斜の雪面を交替でラッセルしながら(グズグズの雪で股まで潜ることもしばしば)登っていく。
そして頂上。いやぁー、来ました!天候に恵まれ、360度の展望が広がる。
標高は二千mも無いものの緯度が高く、また海抜0からの登りなので、スケールと高度感は素晴らしい。
剱の頂上から見る富山湾とそう変わらない印象だ。
先に到着していた地元スキー・ガイド?の人たちに写真を撮ってもらい、せっかくなので最高峰の南峰へ足を延ばす。
南峰は夏はボロボロ、雪のある時期はそれなりのナイフリッジでけっこう悪いと聞いていたが、今回は難なく到達。
もう一つ南側にもピークがあったが、割れた木の標識が残り、地形図的、高度的にもここが南峰で良さそう。
その先はスッパリ切れ落ち、また再び冷たい風が強く吹き始めたので下山を開始する。
グサグサに雪が腐った北稜を下り、途中の避難小屋で小休止。長官山から先でルートを外しかけたが、最後は左側の沢に入って尻セードなどしながら下っていく。
その日のうちに麓のキャンプ場「ゆーに」まで一気に下山。隣接する利尻富士温泉で汗を流し、夜は登頂成功を祝う。
今回の利尻は雪が少なかったこともあって、想像していたよりは余裕を持って登れてしまった。
レベルとしては同時期の後立山の雪稜(白馬主稜や不帰I峰尾根)と同じぐらいか。
当初目標としていた南稜は上から見ても下から見ても東北稜より雪が少なく黒々としており、おそらくボロボロで今回は登れる対象にならなかったように思う。
それでも地元の島民が半ば誇らしげに「利尻の風を甘くみるな!」と言うのは本当だった。
後で聞いたところでは頂上に居合わせた地元スキーガイドPが、あの風を圧して東北稜を登ってきた我々を「あいつらバケモノだ。」と他の登山者に洩らしていたとか?
それって山屋にとって最高の誉め言葉。でも、もしかしたら「バカモノ」と言っていたのかもしれない。
とにかくあの風を体験し、無事に登り切ったことは良い自信につながったと思う。
そしてここまで来てしまうと、さらに行きたくなるのが樺太の山々。北の山への憧憬は広がっていく。
何はともあれ、今回は若いパワーに心身ともに助けられました。ありがとう!
【利尻・ザ・ムービー】