恋愛の場面を盛り上げてくれる
ものの一つに、お酒がある。解放的
な気分になれるし、会話もはずむ。
あるいは、しっとりとしたムード
を演出し、大人の零囲気を作って
くれることもある。好きな人と飲
むお酒は、いつでもどこでも、
最高においしい(と、私は思う)。
ブランディグラスの底に掌を
添わせる。とのぬくもりが伝わっ
て、ブランデーの香りが立って
くる。甘く、強く、遥かな葡萄
の記憶をともなう、高貴な香り。
強いお酒なので、ほんの少し含む
だけで十分だ。舌先がじんとしび
れるような感じがして、甘味な味
わいが、次第に広がってゆく・・・。
ブランデーは、解放よりは親密を、
饒舌よりは沈黙を、運んでくれる
お酒ではないだろうか(と、私は
思う)。
飲み「ほせば」という語には、
さまざまな情報が詰まっている。
お酒を飲みはじめてから、ある
程度の時間がたっていること。
つまり、ほどよく酔いがまわり
はじめていること。そして、
グラスを空にしたことによって、
それまでの時間に、軽い終止符が
打たれたこと。
この、軽い終止符が、重要だ。
私たちはよく「じゃあ、もう一杯
だけ飲んで帰りましょう」とか、
「このグラスが空いたらね」な
どと言って、お酒が飲みほされる
ことをもって、ひとつの区切り
をつける。
歌は、時間が、次の段階をの
ぼり始めたことを感じている。
しかも、ゆっくりとブランデー
を味わっていたそれまでとは違
って、とても、性急に、その段階
をかけのぼりたい衝動を、下の句
はあらわしている。
好きだという気持ちと、抱き
しめたいという気持ちが、渾然
(こんぜん)一体となって、つ
きあげてくる。心まるごと、相手
に倒れこみたいとい思う。その
感情のあらがいたさ。「君に満ち
くる」とは、愛おしく切羽詰まっ
た表現。
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